あらまし
- 厚生労働省は平成28年7月に「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部を設置し、平成29年9月には「地域力強化検討会」の最終とりまとめを公表しました。また、平成29年5月に社会福祉法の改正も行われ、地域生活課題を解決するための包括的な支援体制づくりが明記されました。これらの動きを受け、東社協地域福祉推進委員会は、平成29年7月に「東京らしい“地域共生社会づくり”のあり方」について検討するワーキングを設置しました。平成30年3月に「中間まとめ」を公表し、30年度も検討を重ねて、このたび「最終まとめ」を公表しました。今号では、最終まとめに加筆された内容を中心に「東京らしい“地域共生社会づくり”のあり方」についてお伝えします。
中間まとめで提起した内容
東社協地域福祉推進検討ワーキングでは、「中間まとめ」で以下の内容を提起しました。(福祉広報2018年5月No.713参照)
1 国による課題提起をふまえ、あらためて関係者をあげて「住民主体」の地域づくりを推進する契機とする。
2 地域共生社会づくりをすすめるための地域基盤のあり方として、三層のしくみを構築する。【小地域圏域】住民主体による多様な地域活動を推進。【中圏域】住民と専門機関の協働により、多様な地域生活課題を受け止め、解決を図る機能を確立。【区市町村圏域】多分野、多機関の協働による、困難ケースへの包括的相談・支援体制と、中圏域・小地域圏域へのバックアップ体制を構築。
3 中圏域に地域福祉コーディネーターを複数配置し、地域支援、個別支援、しくみづくり・ソーシャルアクションをすすめる。
4 地域福祉コーディネーターの活動と、民生児童委員協議会、社会福祉法人の地域公益活動のネットワークによる「チーム方式の地域福祉推進体制」を「東京モデル」とし、これが核となって協働することにより、地域共生社会づくりに大きな可能性が生まれる。
5 こうした活動を着実にすすめるため、区市町村の地域福祉計画(行政)と地域福祉活動計画(社協)が密接に連携、連動した推進体制を構築することが重要である。
その後、これらの提起は「東京都地域福祉支援計画(平成30年3月に東京都が策定)」に相当程度反映を図ることができました。ワーキングでは、さらに区市町村の地域福祉計画への反映を図ること等をめざし、最終まとめに向けて、以下の内容を検討してきました。
地域共生社会づくりにむけた施設・事業所の取組み~調査結果より~
中間まとめで「東京モデル」として提起した内容をふまえつつ、各社会福祉法人・事業所による「地域における公益的な取組」や地域ネットワークを活かした取組み等を効果的に推進し、もって東京らしい地域共生社会づくりに資することを目的に、30年9月に東社協施設部会会員施設・事業所3、528か所を対象に「地域共生社会づくりに向けた施設・事業所の取組み」の調査を実施し、1、052か所(回収率29・8%)から回答を得ました。
調査結果によると、「施設等で提供しているサービスや支援では対応できていない地域課題」について、56・0%が「把握したことがない」と回答しています。今後、施設等が地域住民や関係者と地域課題を把握・共有できる取組みが求められます。また、課題を把握した施設等が行った対応は、「適切な専門機関につないだ」が41・4%、「地域の福祉関係者と協議・対応した」が38・3%で、専門機関や関係者と連携し、課題に対応している場合が多く、事業の拡充や制度外の取組みで対応している施設等は多くありません。地域課題に対応するにあたっての課題として、79・0%が「施設、事業所内の事業で多忙であり、人手が足りない」と回答しており、対応するために必要な取組みとして、75・9%が「地域の福祉関係者や社会福祉法人のネットワーク等と連携する」と回答しています。地域課題に対応する取組みをすすめるのに、施設単独では限界があるなか、地域の関係者と連携を図り、社会福祉法人のネットワーク化を推進していく必要があるといえます。
地域の関係者の連携をすすめるために、地域福祉コーディネーターが調整役となる必要があります。地域福祉コーディネーターに期待する役割は、「地域のネットワークを構築する」が66・3%、「住民のニーズを把握する」が62・6%、「解決できないニーズを住民や関係者等につなげ、協働して解決を図る」が60・5%でした。「期待することはない」は非常に0・8%と少なく、地域福祉コーディネーターには多くの役割が期待されています。また、「民生児童委員と連携した取組みがある」施設等は34・9%で、今後、地域福祉コーディネーターの関わりのもと、連携がすすむことが期待されます。
ボランティアやNPO活動等と(地縁型)地域活動の協働
自治会・町内会等の「地縁型組織」は、住民主体の地域共生社会づくりの原動力ではありますが、組織率の低下や構成員の高齢化という課題に直面しており、特に都市部ではそのような傾向が顕著です。そこで、もうひとつのアプローチとして、ボランティアやNPO、企業の社会貢献活動等にも重要な役割が期待されます。
東京では従来から、ボランティア・市民活動センターが、ボランティアやNPO、企業の社会貢献活動を推進してきました。これらのセンターは、狭い福祉領域では対応困難な、社会的少数者の問題や災害対応、当事者活動、福祉教育等の課題に対して、広域のフィールドで、多様なネットワークを活かした取組みをすすめてきました。今後は、さらに小地域においても、多様なボランティア、NPOの活動を推進していくことが期待されます。都内のいくつかの地区で取組まれている登録型の「地域福祉協働推進員」等の自由な市民参加のしくみや企業のプロボノ活動などは、地域に根差した新しいボランティア・地域活動の形だといえます。
地縁型の地域活動は、地域住民に共通し、共感を得やすい課題に対して力を発揮しやすく、ボランティアやNPO等の活動は、社会に広く存在する社会問題や生活課題に対して専門性を発揮しやすいという特徴があります。今後、双方が強みを活かして地域づくりをすすめていくために、ボランティア・市民活動センターと地域福祉コーディネーターの連携が不可欠です。ボランティア・市民活動センターが地域社会で見過ごされがちな課題を見つけて地域活動につなげ、地域福祉コーディネーターが地域でボランティアやNPO等が参加しやすいプラットフォームをつくっていくことで、地域共生社会づくりの新たな可能性が広がっていくでしょう。
差別や排除をなくし、真の地域共生社会をつくるために
地域社会には、様々な生きづらさを抱えている人に対する差別や排除等が存在しています。目指すべき地域共生社会では、全ての人に対するインクルージョンの実現が最大のテーマといえ、差別や排除等をなくすための取組みとして、次のようなことが考えられます。
〈障壁を作らない教育〉差別等の背景にある「知らないから怖い」という感情をなくすため、学校や地域で、当事者とともに過ごし、活動する福祉教育が必要です。大切なことは、この教育が子どものころから行われることだと考えます。
〈孤立を防ぐ取組み〉生きづらさを抱えている世帯は、地域で孤立しがちです。家庭内で問題を抱え込んだ結果、それが家庭内の虐待につながる可能性もあります。身近な家族からの虐待を未然に防ぐために、当事者とその家族に対する地域の理解と支援が求められます。
〈居場所と役割の必要性〉多様な人が地域で共生していくためには、自分らしくいられる居場所とそこでの役割が必要です。役割を通して、高齢者と子どもが、障害のある人とない人が、お互いを支え合える関係を築くことが大切です。
〈居場所に関わる専門職の役割〉専門職には、当事者を知るための取組みをすすめ、橋渡しをし、居場所の中をコーディネートする役割があります。また、専門職をサポートできる地域住民を発掘、育成することも必要です。
〈社会福祉法人や民生児童委員による取組み〉生きづらさを抱えている人を支援するための社会資源は多いとはいえません。社会福祉法人による地域公益活動や民生児童委員の活動による、積極的な対応が期待されています。
〈共生型の拠点の整備〉居場所のひとつとして、地域共生社会には、常設型で分野も年齢も問わない、共生型の拠点が求められます。そこには、誰もが自由に出入りできる「場所」としての機能と専門機能が複合していることが望ましく、隙間の課題に対応する機能と公的サービスの両方を有することで、柔軟な支援の提供が期待できます。常設型の共生型拠点の設置は計画的にすすめるべきですが、都内では適した場所の確保が困難です。空き家の活用や福祉施設の使用なども含めて、行政による対策が必要です。
地域共生社会づくりにおける居住支援の意義と課題
地域共生社会づくりを進める上で重要な基盤のひとつが、「住宅の確保」と「居住支援」です。福祉分野では、各施設等での相談支援や身元保証制度、アフターケア、または、生活福祉資金の貸付制度等がありますが、分野を横断した取組みには弱かったといえます。
現在、29年10月に施行された新たな住宅セーフティネット制度に基づき、区市町村ごとに居住支援協議会や居住支援法人の設立がすすめられています。居住支援協議会は、不動産関係者、居住支援団体、社協、行政などが参画し、住宅確保のための相談対応や情報提供、居住支援サービスを実施します。また、居住支援法人は、入居者の相談、見守り等を行います。しかし、どちらもまだ数は少なく、特に入居後の支援に十分に取組めている地域はあまりありません。
入居後の見守りや支援のしくみは乏しく、トラブルが起きた場合には、不動産関係者が対応せざるを得ないのが現状です。住宅確保要配慮者の入居について理解をしてくれる不動産関係者を増やすためには、入居の支援だけではなく、入居後のサポートを充実させることが必要です。
住まいをめぐる課題解決のためには、住宅確保要配慮者の入居を拒まない登録住宅の確保、入居者への家賃債務保証や相談、入居後の見守り等を行う居住支援法人の増加、居住支援協議会の周知と機能の充実が求められています。
そのために、住宅分野と福祉分野の相互理解を促進し、行政は地域福祉計画に「居住支援」を位置付け、庁内連携を図ることが求められます。民間の役割としては、これまでの施設やNPO法人等による取組みに加えて、今後は社会福祉法人の「地域における公益的な取組」による居住支援や地域福祉コーディネーターによる関わりも期待されます。
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ワーキングでは、「東京らしい」地域共生社会づくりの基本的な考え方を提言していますが、それぞれの地域特性は多様です。この提言を参考に、各地域の実情に応じた地域共生社会づくりをすすめていくことが期待されます。
東社協地域福祉推進委員会WG
https://www.tcsw.tvac.or.jp/