(社福)東京都社会福祉協議会
災害に備えた多様な団体同士の連携・協働
掲載日:2019年6月11日
2019年6月号 NOW

 

あらまし

  • ここ数年、日本では災害が続いています。災害時、被災者の抱えるニーズは多種多様です。これらの多様なニーズにこたえるためにはさまざまな団体同士が連携していくことが欠かせません。
    今号では、災害時を見据えた平時からの多様な団体間の連携・協働について考えます。

 

災害時の連携において求められることとは

災害時には平時と違い、それまでお互いに関わったことのないような多様な団体が支援活動に動きます。行政や社会福祉協議会はもちろん、住民団体、NGO・NPO、福祉施設・事業所、当事者団体、学校、専門家団体、労働団体、青年会議所、生活協同組合、宗教団体、企業等さまざまです。

 

災害時にはこうした団体同士が協働し、互いの強みを活かしながら取組むことが求められています。しかし、普段関わりのない団体同士が災害時に突然協力しあうことは簡単ではありません。過去の災害でも、互いの組織の価値観や関心、考え方の違いにより、協力関係がうまく結べなかったり、強みを活かしきれなかったケースも見られています。

 

東京には多様な文化、価値観、生活背景をもつ人たちがいます。だからこそ、災害時においてもそれぞれが力を合わせていくことが求められます。首都直下地震等の大規模な災害が発生した際に、被災してもなお一人ひとりが尊厳ある生活を送れるよう、団体同士が連携・協働できる関係性を平時からどうつくっていくかが大きな課題となっています。

 

東京ボランティア・市民活動センター(TVAC)では、平時に都内外のさまざまな団体の連携・協働のネットワークづくりをすすめる「東京都災害ボランティアセンターアクションプラン推進会議(※アクションプラン推進会議の概要はこちらからhttps://tokyo-saigaivc.jimdo.com/)」を平成26年より設置し、取組みをすすめています。

 

地域の団体同士が互いを知り合う機会に~調布市「防災まちあるき」の取組み~

 

(左から)Global調布! 代表 村上むつ子さん
調布市社会福祉協議会 調布市市民活動支援センター係長 葛岡敦さん
多摩川地区協議会 前会長 田中佳子さん

 

平成29年9月、東京都と調布市の合同総合防災訓練が多摩川河川敷で開催されました。この訓練は災害時における都、市、各防災機関との連携の強化および自助・共助に基づく地域防災力の向上をねらいとした訓練です。

 

この訓練のプログラムの一つとして「防災まちあるき」が行われました。このプログラムは、北多摩南部ブロック(※調布市、府中市、小金井市、三鷹市、狛江市)ボランティア・市民活動センターと東京都災害ボランティアセンターアクションプラン推進会議が協働して企画したものです。要配慮者を中心とした市民や支援団体が連携して訓練を行うことで、互いの強みや弱みを知り、災害時の連携を考えるきっかけとすることを目的としています。

 

「防災まちあるき」に参加した団体の一つ、Global調布!は、自分たち市民の英語運用能力を高め、外国人の方々とコミュニケーションをとることで地域貢献をするという目的で設立された調布市の市民団体です。

 

代表の村上さんは、「これから就業などで日本に住む外国人の方たちがますます増えることから、日常生活でも災害時でも何か困ったときに『ここに行けば英語が通じる』と安心できる存在、情報の橋渡し役が必要になる」と言います。「防災まちあるき」に参加したきっかけは、Global調布!でつながった外国人の方々が日本の防災について非常に興味を示してくれたことでした。カルフォルニアからの留学生は、被災しても日本人が冷静で、盗難等が起こりにくいことに、インドの高校生は、日本の小中学校で定期的な避難訓練が当たり前に行われていることに驚いていました。

 

村上さんは、「日本には災害に対する独特の経験の積み重ねがある」と話します。「実際に外国人の方と『防災まちあるき』に参加して、『避難所』『災害食』等、日本語が堪能な外国人でも知らない単語があったり、災害時に各宗教にも配慮した食事をどう確保したらよいか、という課題にも気づけた」と手ごたえを語ります。

 

調布市にはいま、この「防災まちあるき」をきっかけに、これをもとにした地域の多様な団体同士の関係づくりを推進するイベントがあります。

 

調布市の多摩川地区協議会は、地域で活動する各種団体や地域住民が連携・協力し、地域のまちづくりを推進するために自主的に活動するネットワーク組織として平成29年3月に設立された団体です。「防災まちあるき」に参加した同会会長(当時)の田中佳子さんは、いろいろな人が参加しやすい「防災まちあるき」を自分たちの地区でも主催したいと考えていました。そこで調布市市民活動支援センターの葛岡敦さんに相談し、「多摩川地区防災まちあるき」が、平成30年2月に会の初イベントとして開催されました。

 

もともと、多摩川地区協議会の運営委員は、自治会、マンション理事会、民生委員、学校関係者や老人施設関係者で構成されていて、さまざまな生活背景をもった人に声をかけやすいという特性がありました。多摩川地区協議会では地区の小学校と連携し、この4月には3回目の「多摩川地区防災まちあるき」を実施しています。天候等により人数の増減はありましたが、参加者は小学生や教員を中心に、消防団、福祉施設利用者と職員等、要配慮者の方々や支援者を含むのべ140名の多彩な顔ぶれとなりました。車いす体験や消防団による防災倉庫の説明等で楽しみながら学び、まちあるき中に参加者が発見した老朽化した防災用の看板は、のちに市が改善することに結び付きました。

 

田中さんは、「大変だけれど、続けていきたいイベント。運営側の参加者がさらに増えれば、災害時の支援の強化につながる。また、調布市に通勤している人や若者といった地域に根付いていない層にどうやってつながっていくかも課題」と話します。

 

葛岡さんは、団体同士のスムーズな連携について、「普段から防災にとどまらず、いろいろな団体と活動を共にすることで、どの団体がどんな強みをもっているのかを知り、その情報を生かして循環させていく、という意識を大事にしていきたい」と語ります。多摩川地区での取組みをみて、Global調布!の村上さんも、外国人を対象とした地域防災への取組みに意欲を見せています。

 

調布市の地域に根差した活動は、これからももっと新たな広がりを見せてくれそうです。

 

多摩川地区防災まちあるきの様子

 

老朽化した防火水そうの看板。

まちあるき中に発見されたことがきっかけで、新しいものに取り換えられました。

 

 

被災地での支援活動を行う団体の視点から~災害時を見据えた平時からの連携~

 

ピースボート災害ボランティアセンター 事務局長 上島安さん

 

多様な団体同士の連携では「それぞれの団体が信頼関係をベースに互いの強みを活かしあえるような関係を共有していくことが重要」と話すのは、ピースボート災害ボランティアセンター事務局長の上島安裕さんです。ピースボート災害ボランティアセンターは平成23年に起きた東日本大震災を機に継続的な支援を行うため、国際交流の船旅を手掛ける国際NGOピースボートが設立した一般社団法人です。発災時に現場で実際に支援にあたるほか、平時からの防災・減災のネットワークづくり、各団体との連携に取組んでいます。

 

被災地の外部の支援団体として災害現場で支援してきた経験をもとに、被災地域との連携において意識していることについて、「外部支援者はいつかはいなくなってしまう。地域の人が災害直後の段階から対応に関わることで、その後の復興していく段階でも地域の人や団体同士の連携につながっていく。そのため、外部の支援団体としては、選択肢などは提示することはあるが、地域の人が最終的な判断をできるよう、環境を整えることを重視している」と語ります。

 

また、平時における取組みで重視していることについて、上島さんは「平時からさまざまな団体や要配慮者と関係をつくっておくことが災害時においても非常に重要。行政との連携も必須である。そのほかにも、被災した地域にはさまざまなボランティアや団体が来ることを知っておくこと、団体同士で事前に共通認識を持っておくことも、支援を受け入れる側になった時に重要になる」と話します。

 

平時からの関係づくりが災害時にも生かされた具体的な例として、岡山県倉敷市真備町箭田地区での事例があります。この地域では、地ビール製造会社で精神障害のある方を雇用することで、地域と障害者が日頃から接点を持ち、障害者に対する地域の理解を深める取組みがあります。このような関係づくりがあったため、災害直後にも障害のあるなしにかかわらず、地域の団体や住民が中心となり、協力しあい、物資配布等を行うことができました。

 

また、多様な団体同士の連携を考える際、「『災害』というキーワードだけではなく、それぞれの団体の本来の事業や関心(例えば、『障害』『子ども』『環境』等)に応じて、そこに災害支援の要素をどう入れられるか、という視点も重要」と話します。

 

今後は長期で被災地を支援できるように企業とも連携を深めていきたいと話す上島さん。「NGOはまだまだ住民や地域組織・企業に十分に知られているとは言えない。災害時を見据え、今後も平時から多様な方たちと連携・協働できる関係をつくっていきたい」と語ります。

 

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「アクションプラン」は5か年の計画となっており、今年度から第2期目(2019.4〜2024.3)がスタートしています。第2期の計画では、これまで十分にアプローチできていなかった生活協同組合や青年会議所、労働団体、専門家団体、企業、学校等との相互の連携も強めていきます。

 

そのほか東社協では、福祉関係者による災害時の要配慮者支援体制の整備についても取組んでいます(※福祉広報2018年7月号「社会福祉NOW I 被災地における災害時要配慮者の支援体制の強化に向けて~東京都災害福祉広域支援ネットワークの取組み報告~」)。東社協中期計画では、この2つの連携(東京都災害ボランティアセンターアクションプラン推進会議と東京都災害福祉広域支援ネットワーク)を柱の一つとして、被災者一人ひとりに寄り添った災害対応の取組みをさらにすすめていきます。

取材先
名称
(社福)東京都社会福祉協議会
概要
アクションプラン推進会議
https://tokyo-saigaivc.jimdo.com/
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