あらまし
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女性支援新法施行から半年を過ぎて
2024年11月18日に開催された都内女性支援関係者による意見交換会には、行政職員や民間団体、女性自立支援施設職員など70名近くが足を運んでいます。1956年制定の売春防止法(*2)から、66年の時を経て生まれた女性支援新法。4月の施行から半年が過ぎた今、この間の取組みを振り返りながら、今後のさらなる連携をめざし、今回の場が設けられました。
女性支援新法第8条では、都道府県による困難な問題を抱える女性への支援のための施策実施に関する計画の策定が責務となり、東京都では令和6年~10年度の5年間にわたる基本計画が策定されました。意見交換会当日は、基本計画をふまえて女性支援を担う、東京都女性相談支援センター、都内区部・市部の女性相談支援員、女性自立支援施設に加え、民間団体としてNPO法人くにたち夢ファームJikka(以下、Jikka)が登壇し、それぞれの立場からみえている女性支援の現状や、支援を通じた思い、課題意識などが参加者に共有されました。
それぞれの場所から、女性支援の「今」を伝える
東京都女性相談支援センターからは、基本計画をふまえたこの間の取組みについて共有があり、電話相談の受付時間の拡大やLINE相談事業の開始による相談体制強化をはじめ、「プレ入所(*3)」の取組み、それから民間団体との連携・協働をすすめる上での「連携担当」の新たな設置などが伝えられました。また、さまざまな困難を抱える女性と日々向き合う女性相談支援員からは、一人ひとりに応じた同行・寄り添い支援の状況とともに、若年女性の相談しやすい環境や体制づくり、民間団体との連携が課題として挙げられ、新法の理念のひとつである本人を尊重した女性支援をすすめる上では庁内連携が改めて重要になることが強調されていました。
会の後半には、国立市で女性支援に取り組むJikkaが登壇。国立市と提携して2019年から、当事者を中心とするワンストップな支援体制を地域でつくっていくことをめざし、「女性パーソナルサポート事業」に取り組んでいます。代表の遠藤良子さんは「これまでのDV被害に遭った女性を地域から隠すような閉じられた支援ではなく、官民が連携して、その人が安心して地域で暮らしていけるように取り組んでいく、『開かれた支援』が求められています。私たち民間だけで完結する支援は持続可能な支援とはならず、官民で取り組んでいく必要があります」と強調し、当事者中心の支援を謳う新法を体現していくには、官民が歩み寄り、連携・協働していくことが前提であると話します。
最後に登壇したのは、主催の女性支援部会からいずみ寮施設長の横田千代子さん。40年以上にわたり、施設職員として目の前の女性と向き合い、女性に対する社会のあり方そのものを問い続けてきた立場から、新たな女性支援法が生まれた意義を、改めて参加者へ投げかけました。「『売春防止法』の下では、なかなか地域と手をつなぐことはできませんでした。でも、『女性支援新法』は違います。困難な問題を抱えたすべての女性のために、私たち社会全体で手をつないでいくことが必要です。関係者が手をつなぎ、『当事者を真ん中に』、そして心をつないでいきませんか。新法を実践に生かすのは私たちの力。ひるむことなく社会の問題として行動を起こしていくことが必要です」と問いかけました。
その後行われた質疑応答では、課題意識だけでなく、取組みの工夫も参加者間で自然と共有され、これからの女性支援について考える気づきやヒントを得る時間となりました。
それぞれの立場から「当事者」を支える人が一堂に会し、回を重ねる中で、強くなっていく連携や協働の意識。会が終わった後も随所で話し込む参加者の姿からは、「この場を起点に次へとつなげる」、そんな気配が確かに感じられました。
- 注釈
*1…女性支援新法
令和6年4月1日に施行された「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」。
“女性の福祉”,“人権の尊重や擁護”,“男女平等” の視点が明確に規定された。
また、国・地方公共団体の責務として、困難な問題を抱える女性への支援に必要な施策を講じることが明記され、都道府県が策定する基本計画に基づき、女性相談支援センター、女性相談支援員、女性自立支援施設、そして民間団体の「協働」により、当事者を中心とするきめ細やかな支援をすすめることが求められている。
厚生労働省HP
*2…売春防止法
1956年に制定された法律。「売春をなすおそれのある女子」に対して補導処分・保護更生を講じ、売春防止を図ることが目的。2024年4月に女性支援法が施行されるまでの68年にわたり、公的な女性支援(婦人保護事業)の法的根拠として運用されてきた。
*3…プレ入所
女性自立支援施設への事前見学、一時保護委託を経て、措置決定し本入所する仕組み。東京都では2022年度から試行され、今回の基本計画においても取組みの推進が言及されている。
<記事関係リンク>
*東社協女性支援部会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/bukai/josei.html
*NPO法人くにたち夢ファームJikka
https://www.jikka-yume.com/
*困難な問題を抱える女性への支援のための施策の実施に関する東京都基本計画
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/about/soshiki/syoushi/ikusei/oshirase/konnanjoseikeikaku