NPO法人東京養育家庭の会 理事長 青葉 紘宇さん
長く続けることの勧め
掲載日:2017年11月29日
2015年9月号 福祉職が語る

NPO法人東京養育家庭の会 理事長 青葉 紘宇さん

 

長く仕事を続けること

どんな仕事でも次に進むときの下地になっていること、その時得たいろいろな事柄が肥やしとなっていることは確かである。無駄なことはない。私の場合も児童相談所で仕事をする中で、参考になったのは非行に走ってしまった子どもや障害を持った人たちのとの出会いによる経験であった。今の里親の会を営むにあたって背骨となっているのは、これまで出会った様々な人生から頂いた経験である。

 

「○○兄妹のお母さんのお骨今どこにあるのかしら」と、子どもが捜しているとの問い合わせもある。たしかに昔、私は兄妹と福祉事務所の方と4人で斎場で子どもの母親を荼毘に付したことがあった。今その時の幼子が18歳を迎え社会に出るにあたって、施設長経由で聞いてきた。福祉の分野で長く籍を置いていて、長い付き合いになっている関係でこのようなやり取りが成り立ったのだろう。

 

幼児で里親に措置した子どもが18歳を迎え、スムーズに自立が進んでいないという話も耳に入る。子育ての難しさを知らされるときもある。また、里親会で企画したユースの集いの名簿に自分の措置した子どもの名前と出会うこともある。長くいると人間関係が繋がり、思わぬ出会いに人の世の奇縁を感じ、長く続けて良かったとつくづく感じる。

 

結局、福祉の仕事は人に尽くすこと

仕事に生きがいを求めるのは一般的感情であり、新たに職に就くにあたって誰でも考えることである。自分中心に考えることは当然のことである。しかし、人間を相手にする仕事は、異動があったり、立場が変わっても、結局のところ向き合った相手のために自分の人生を費やしたに過ぎないという印象のみが残る。仕事の軸を自分から他者に置きかえると、長続きができるのではないかとも思っている。今の時代は自己実現が目標となっており、まず自分のためを考えてその後、周りを見渡す社会となっているので、他者のため等という発想は古臭いものと感じられるかもしれない。しかし、これまでのお付き合いを顧みると、自分を越えて動いている人が結局のところ長く残っているし、何かを成し遂げているようである。

 

今にして思うと、福祉の仕事は相手の生活場面に何がしかのお手伝いをすることであったということに尽きる思いでいる。

 

運命を受入れる心情

児童福祉の分野は18歳を迎えた子どもと巣立ちの別れの時が訪れる。その時までに一人で生きていく準備ができている子どもは少ない。一般的には措置延長や資金の援助をお願いしたくなる。もっともである。環境を整えるのは大人の役割でもっともっと整備されなければならない。18歳後の子どもたちの暮らしを見ていると、不完全な社会にあって変革に挑むことの大切さとあわせて、現状を受入れることも生きる術ではないかと考えている。むしろ、自分の境遇を受入れた子どもの方が社会に出て楽しく過ごしているように見える。虐待の桎梏から抜け出る一つの場面ではないかとも考えている。

 

親に恵まれなかった子どもの巣立ちにあたって、「これまでいろいろあっただろうが、親や社会を恨んでもはじまらない。むしろ足枷になる。ハンデのあることを正面から受入れて次のステップに進め」と、私の非力を棚上げにして、言葉と行動に表している。この風景は宗教のお説教に聞こえるかも知れない。精神論に傾くと何やら危険な臭いを感じ取る人もいるかも知れないが、周りにいる者としてできる一つの手法ではないかとも思っている。だれが何時どんな立場で伝えるかが鍵となるのだろう。言葉に出して表現するものではないかもしれない。しかし、誰かがいつか伝えなければならないことと思う。

 

子どもに心構えを説けるように、私たち大人が自分を磨かなければならないと感じている今日この頃である。

 

プロフィール

  • 青葉 紘宇さん
    昭和19年生まれ、早稲田大学教育学部卒業後、小田原小年院に法務教官として勤務。その後東京都民生局に異動して各種障害者施設に勤務。この頃、国際障害年前後の時でもあり日本障害者協議会に関与する。
    平成4年児童相談所に異動。児相福祉司の時に障害児デイサービス事業の応援、里親として里子を受託し家庭養育の仲間入りをする。平成17年に退職後、学童クラブの運営にあたりながら、東京養育家庭の会の理事長となり現在に至る。
取材先
名称
NPO法人東京養育家庭の会 理事長 青葉 紘宇さん
概要
NPO法人東京養育家庭の会
http://tokyo-yoikukatei.jp/
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