NPO法人ストローク会 副理事長 金子 鮎子さん
チャンスは自らつくれる。ともに働くことで工夫し見つけていく
掲載日:2017年11月29日
2017年10月号 福祉職が語る

NPO法人ストローク会 副理事長 金子 鮎子さん

 

私は若い頃から精神分野に関心があり、長年、精神障害のある方の生活と就労に関わり、その応援に携わってきました。幼い頃、家族でフロイトの夢の話を聞いて興味を抱いていました。

昭和27年頃から精神関係の本が相次いで出版されるようになり、大学の図書室でそうした本を読み、自分の心の動きを点検して来ました。

終戦から数年、女性の大学進学者は約2%と大変珍しい時代でしたが、進学した女性達の中では卒業後に働くのは当たり前の考えでした。

しかし、当時は女性でかつ文学部卒を採用しようという企業はほとんどなく、「全優」でない私が唯一受験できたNHKへ応募し、入職しました。

 

働けるチャンスをつくっていく

私にとって、働くことは生きること。働くことで人と知り合い、学び、種々のチャンスが生まれます。入職1年目は事務の仕事に就き、2年目には放送現場への希望が叶い、テレビニュースの部門に異動しました。

取材現場で人手が足りない時は「行きます!」と手を挙げ、照明係として先輩について行き、カメラマンの仕事を覚えていきました。

当時の仕事には「美智子さまのアルバム(当時の皇太子妃)」や昭和39年の東京オリンピックの取材もありました。NHK在職中からカウンセリングの勉強会や抑うつ友の会にも参加し、精神障害のある方と関わりました。昭和47年、退院後の精神障害のある方同士が話し合える場をつくろうと「日曜サロン」や「家族の集い」を仲間たちと立ち上げました。

夜や休日は、患者さんの家庭訪問をしました。そんな中、家族の方から「大企業に勤めているなら、清掃でもいいから子どもに仕事を紹介してくれませんか」と頼まれ、NHKに出入りする清掃会社にお願いしました。しかし、何人かお願いしても皆長続きしない。

 

清掃会社の所長さんから「これでは当てに出来ない。きちんと訓練してから連れて来なさい」と言われ、もっともだと思いました。

働く人として、信用されなくてはだめだと思いました。清掃の仕事は、短時間の勤務が出来ます。清掃会社にお願いした精神障害のある方の中で、ある男性が一人だけ短時間から始めて、長く続きました。真面目に6年程勤め、副主任にまで昇格しました。

きちんと出勤して、仕事をする。周りから「仕事を任せられる」と信頼を得ていきました。

彼の存在は、障害はあっても、本当に働きたいという気持ちがしっかりしていれば、働けるようになれる―これが清掃会社を立ち上げようという私の気持ちを後押ししてくれました。

 

定年退職後、平成元年3月に精神障害のある方と一緒に働く清掃会社(株)ストロークを設立しました。

 

学ぶことからはじまった

全てが初めて尽くしでした。清掃は、知り合いの清掃会社に頼んで、自分の会社と掛け持ちで、障害のある方とともに3年間働かせてもらいました。

掃除の基礎を学ぶのと同時に、実際に一緒に動くことで、仕事の教え方を学ぶ機会にもなりました。

私たちが恵まれていたのは、精神障害のある方が働ける会社は他に例がなく、行政の方が、今でも協力関係にある大手清掃会社のトップを紹介してくれたことです。

おかげで、当初は専門的な清掃用具を貸していただいたり、本格的な清掃技術の研修の機会にも恵まれました。

 

信頼と実績を積み上げていく

(株)ストロークで心がけたことは、ともに働く彼らを「世の中に信用され、頼りになる働き手として育てる」ことです。

彼らは義理堅く、真面目なのですが、勤務が当てにならない難点があります。その上、自分の体調に無頓着なところもあります。

しかし徐々に自信をつけて、自分の仕事に責任をもち、自己管理ができるように育っていきます。うちで働くあるスタッフから、担当するビルで、「きれいに清掃してくれてありがとう」と感謝されて本当に嬉しかったと報告がありました。

 

家族以外の第三者からのねぎらいや感謝の言葉は、その方の強い「励み」になります。家族以外の評価の方が先に来ることが意外に多いのです。私はこの報告を聞いて「ホッ」としました。

信頼と実績の積み上げが自信の回復や誇りにつながるのです。

 

一緒にやって工夫し発見する

現在は、精神障害のある方の働く場が増えてきました。

しかし、支援者が障害のある方をガードしてしまい、本人の「働きたい」気持ちを上手く伸ばせないことも多いのです。精神障害のある方は周囲にとても敏感です。

過去の失敗経験から「こう働きたい」という思いを言い出しにくい面もありますが、当事者も一歩進んで、自らの思いを率直に伝え、周囲に協力してもらえるような「アピール力」をつけることが大切です。

支援者がその思いと可能性に気づいて、「引き出し」「働きかける」。

当事者と支援者が一緒に工夫し合う、実際の現場だからこそ見えてくるものがあるのではないでしょうか。

 

プロフィール

  • 金子 鮎子さん
    昭和8年7月東京生まれ。昭和30年3月早稲田大学文学部卒業。昭和30年4月から昭和63年8月定年までNHK在職。人事、報道(日本初のテレビの女性カメラマンとしてニュース取材にも従事)、広報、研修等の業務を担当。平成元年、(株)ストロークを設立。平成13年、NPO法人ストローク会を立ち上げる。平成24年からはNPO法人ストローク会に総合支援法の就労継続支援A型事業所ストローク・サービスを開設、現在に至る。
取材先
名称
NPO法人ストローク会 副理事長 金子 鮎子さん
概要
NPO法人ストローク会
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