(社福)聖ヨハネ会
人としての尊厳を守るフィッティングサポート
掲載日:2017年12月20日
2015年11月号 連載

聖ヨハネ会 法人事務局長 竹川 和宏さん(右前)

小金井市立本町高齢者在宅サービスセンターセンター長 山極 愛郎さん(左前)

桜町聖ヨハネホーム園長 藤井 律治さん(左後)

桜町高齢者在宅サービスセンター センター長 鈴木 治実さん(右後)

 

あらまし

  • 社会福祉法人聖ヨハネ会は、カトリックの精神に基づき、永遠の生命を有する人間性を尊重し、「病める人、苦しむ人、弱い立場の人」に奉仕しますという基本理念に基づき事業運営している法人です。この理念に基づき、制度だけでは支援できない地域で暮らす方の福祉ニーズに対応する「フィッティングサポート」の取組みをご紹介します。

 

「いつもお心をいただきまして、ありがとうございます」と達筆な字で書かれた残暑見舞いのはがきは、聖ヨハネ会が「フィッティングサポート」を提供したSさんから、後日、法人の職員宛に送られてきたものです。支援以前のSさんの様子からは想像がつかない程の心の変化が読み取れます。

平成20年の夏、衛生状態が極めて悪化した一軒家でひとり暮らしをしていたSさんは83歳。ゴミ等が溢れ、風呂やトイレが使用できずに排泄物を市道の側溝に廃棄し、ネズミや害虫の発生により、近所からは苦情が絶えない状況で、市や包括支援センターも対応に苦慮していました。サービス拒否や被害意識が強くありましたが、聖ヨハネ会が行っている配食サービスだけは受けていたため、安否確認と様子観察を続けていました。様子を見るうちに、高齢者詐欺のターゲットになっている様子や衛生状況の悪化、火事の心配も出てきたことから、「このままでは人としての尊厳を守れない」と考え、自己判断できるこの時期に、本人の同意を得て、積極的な介入・支援をしようと法人として検討するようになりました。

 

 

清掃前のSさん宅

 

時間をかけた関係作りと連携支援の計画に基づく支援

Sさんへの支援について、高齢者福祉部門3施設で検討し、制度に基づく支援に限らず、法人として本人に必要な支援を行うことを決定しました。現在、桜町聖ヨハネホーム(特養)の園長である藤井律治さんは、当時は在宅サービスセンターの職員として、配食サービスの担当者と共に何度も自宅を訪れました。また、月に2回位、自宅にお迎えに行き、在宅サービスセンターに来てもらい、食事を無料で提供し、会話するなかで、少しずつ関係づくりをするとともに、サービスを受けることに慣れていただけるようにしました。Sさんには、「大切な物を入れられるようプラスチックの衣装ケースを提供する。この中に入れたものは絶対に処分しないがそれ以外の物は処分する。自宅の清掃をしないと介護サービスが受けられない」と説明していきました。Sさんは半年かかって、清掃等の支援を受けることを決めました。

この間、関係機関担当者会議を何度も開き、情報共有、課題の共通認識を図り、支援プランの立案等を行いました。また、サービス実施にあたっては、本人に支援方針を説明し、「同意書」と「申込書」に記入してもらい、意思確認の経緯をわかりやすく残すように工夫しました。

Sさんが在宅での自立した生活を維持するためには、まず、自宅もご自身も清潔にする必要がありました。自宅の清掃と同時に入浴や衣類・寝具の交換等の支援を行い、一挙に住環境を整える支援が考えられました。3泊4日のショートステイ利用で、入浴や皮膚のケア、食事の支援をし、その間に法人の職員が自宅の一斉清掃、消毒・殺菌、ゴミ類及び汚染物の廃棄等を行うという計画です。そして、長く入浴していなかったSさんのショートステイ利用に先立ち、別棟の在宅サービスセンターでの入浴、衣類交換を行う段取りとしました。Sさんの自宅の一斉清掃を行うスタッフについて、法人内で社会貢献活動と位置づけて取組むことを表明した上で、職員の中から協力者を募りました。法人内の各部門の職員の他、市の介護福祉課、包括支援センターとも役割分担して進め、また、理事会・評議員会でも報告して法人全体での共通理解を図りました。

一斉清掃後は、今後の生活について考えていただくことや、ヘルパーの導入、医療機関の受診などを提案して必要な支援につなげ、Sさんは、特養などへの入所が必要になるまでの間、サービスを利用しながら在宅生活を継続することができました。

 

清掃後のSさん宅

 

Sさんから届いたはがき

 

法人の理念に則った実践を「フィッティングサポート」と定義

小金井市立本町高齢者在宅サービスセンターのセンター長、山極愛郎さんは、「法人の理念に基づき、自分たちが何をすべきか、職員に意識化を図るためにフィッティングサポートと定義づけをして取組むことにした」と言います。制度だけではなく、必要なニーズに対応していくことこそ社会福祉法人である聖ヨハネ会がやるべきことと考え、数多く存在するサービスラインには乗らないケースに法人独自のフィッティングサポートで対応しています。

これまでに対応した事例には次のようなものがあります。

〇要介護認定を受けていない状況のまま急激に認知症が進んだ一人暮らしの高齢者への総合的な支援

〇本人の希望する在宅でのターミナル支援(派遣計画外でも必要性に応じて夜間も含めた訪問による見守りや支援の実施)

〇精神面、認知面での低下があり、詐欺的被害にあった経験から、お金を使いたくないと介護保険サービスの利用が進まない方への支援

一つひとつの事例を見ていくと、本人の状況も登場する関係者も異なり、また、必要とされる支援も様々です。聖ヨハネホーム園長の藤井さんは「支援を必要とする方が安

定して暮らすために、本質的に何が必要かと考えれば、必然とやるべきことが見えてくる」と言います。「制度」に着目してそのフレームから対象者を見る発想ではなく、支援を必要としている「人」に着目して支援を創り出していく発想が求められているといえるでしょう。

 

※用語説明

聖ヨハネ会のフィッティングサポートの定義

介護保険制度に基づくサービスの枠組みや営利を目的とした事業者都合等からはこぼれ落ちてしまうケースの福祉ニーズに対し、人としての尊厳が守られた生活が営めるように必要な社会サービスの利用ラインに乗せたり、ケースの個別性に応じ手間暇をかけることを惜しまない福祉サポートをフィッティングサポートと言う。

 

実践経験が地域社会を支える職員の意識を変える

家族形態の変化、独居や高齢者世帯や認知症高齢者の増加等を背景として、キーパーソン不在のケースが増えていますが、こうしたケースへの介入は介護保険サービスだけでは困難な場合も多いのが現実です。これに対し聖ヨハネ会では、在宅分野でまずは「フィッティングサポート」をしっかりと根づかせたいと考え実践しています。そして、最終的には在宅支援のたすきを施設職員とも共有し、必要に応じてたすきを受け渡していきたいと考えています。老いから終末まで、その人らしさを大切にした尊厳ある支援を最期まで行いたいと願っています。

社会福祉法人の使命や理念を「フィッティングサポート」という名称で概念化させることで、地域で暮らす人を支えています。そして、地域に目を向け、在宅生活を支えていく職員として人財育成しようと努めていることが社会福祉法人聖ヨハネ会の取組みからうかがい知ることができます。

 

 

 

法人概要

  • (社福)聖ヨハネ会
    昭和26年4月に法人設立。カトリックの精神に基づき、永遠の生命を有する人間性を尊重し、「病める人、苦しむ人、弱い立場の人」に奉仕することを基本理念としている。病院、特養ホーム、ディサービス、障害福祉サービスなどの事業を運営。
取材先
名称
(社福)聖ヨハネ会
概要
(社福)聖ヨハネ会
http://www.seiyohanekai.or.jp/
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