あらまし
- 平成28年3月7日、練馬区社協は、東社協の暴力・虐待を生まない社会づくり検討委員会と共催して、シンポジウム『地域に暮らす私たちにできること』を開催しました。福祉専門職と地域住民が地域でできることを一緒に考えたシンポジウムです。
その人らしく暮らすことが望まれる一方、「生きづらさ」を抱える人が増えています。それは、誰の課題なのでしょう。本人?家族?それとも、社会構造?あるいは、私たちの暮らす地域社会にある課題かも…。新聞やテレビ、ネットから「暴力・虐待」「偏見・差別」がニュースとなってあふれてきますが、それらは日常生活の中ではむしろ隠れてしまっています。
平成28年3月7日、練馬区社協は、東社協の暴力・虐待を生まない社会づくり検討委員会と共催して、シンポジウム『地域に暮らす私たちにできること』を開催しました。福祉専門職と地域住民が地域でできることを一緒に考えたシンポジウムです。
失われている「暮らし」の経験
登壇したシンポジストは社会福祉法人から3人、行政から1人です。そして、会場には、地域で活動している人、民生児童委員、福祉施設・事業所の職員など、76人が参加しました。
児童養護施設「錦華学院」施設長の土田秀行さんは、最近では6割の子が入所前に家庭で虐待を受けている現状を説明しました。そして、「多くの子どもたちは『自分が悪い子だから…』と思ってしまっている。衣食住さえ提供できればよいのではない。より家庭的な関わりが必要で、施設だけではできないことがある。一方、子どもたち自身が何らかの問題を抱えているという誤解が地域に根強い。まずは理解してもらわなくては」と話しました。そして、土田さんは「彼らには『自分だけを大切にみてくれる』という経験が少ない。里親や数日間だけ預かってもらえるフレンドホームがもっと地域に増えてほしい」と、呼びかけました。
婦人保護施設「いずみ寮」施設長の横田千代子さんは、社会構造の中で性被害を受けた女性たちが苦しんでいる実態を訴えました。「あなたは悪くない」と言葉をかけても、「自分は汚い」という女性。そして、具体的な事例を挙げ、幼い頃から暴力を受けてきて「怖かった。助けてほしかった。悲しかった」「みんな、私が嫌い」「一緒に買い物する友だちがほしい」という思いを紹介しました。横田さんは「彼女たちは生きてきたけれど、暮らしてはこなかった」と表現し、生きづらさから脱却していく「暮らし」づくりに地域からの応援が必要なことを強調しました。
地域でどのように「孤立」?
練馬区社会福祉事業団地域支援課長の酒井清子さんは、高齢者介護の現場で見られる「孤立」を話しました。高齢者虐待ケースの7割は要介護認定を受けており、その7割の人に認知症の症状があることを紹介し、介護サービスが入る一方、それまでの地域とのつながりが逆に見えにくくなっていることを指摘しました。また、「仕事をきちんとやってきた人が身内の介護と向き合う中、うまくできないことに苦しんでしまう。そんな生きづらさもある」と話します。酒井さんは「孤立しないゆるやかな見守りと声かけができる場が地域にもっと必要」と指摘します。
光が丘・北保健相談所所長の宮原惠子さんは、「『育てる自信がない』と訴えてくる親もいる」と話します。親自身の自己肯定感を育てる支援も必要です。また、「精神障害者がもっと社会につながるには、地域の理解と協力が不可欠」と話します。専門的な支援とともに、生きづらさを抱える人には、健康な心を持った大人とのつながりが大切なことを宮原さんは強調しました。
もっと知り合いたい!
こうした福祉専門職からの投げかけに対して、会場の地域住民の立場から次のような発言がありました。
「自分に近づけて考えたいが、『そうはいっても…』と思う自分がいる。また、隣が介護サービスを利用していても、誰が来ているのかよくわからない。専門機関側がもっと地域にオープンになることが必要ではないか」。「今日のような話を聞けたのはよかった。地域には役に立ちたいと思っている人はいる。地域にある力をもっと信じてほしい」。
その発言に対して檀上の福祉専門職たちは、より具体的な言葉で伝えていこうとしました。このシンポジウムは、それが十分に伝えきれないところで終わりの時間を迎えてしまいましたが、参加者アンケートには「知らなかったことを学べた」「身近にある施設がどんな施設かわかり、考えさせられた」「施設の力強さが地域にあることを誇りに思う」
「知ることが理解につながり、それが地域に広がる」「古い考えにとらわれている自分を反省した」「各地域で繰り返し考える機会を持つことで少しずつ」「個の問題ではなく、地域のつながりを深めることが解決の糸口になる」「社協の役割が大切だ。期待したい」などの感想がみられました。
福祉専門職には利用者を代弁する役割があり、生きづらさを抱える人たちの声をもっと伝えていく必要があります。また、「課題」だけでなく、生きづらさを乗り越えようとする姿や暮らしへの思いが伝わることで、「気づき」と「育ちあい」の共感を生み出していくことができるかもしれません。
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