ホームスタート(家庭訪問型子育て支援)実践報告・説明会
平成28年10月14日、新宿区立四谷地域センターで、家庭訪問型子育て支援ホームスタート 実践報告・説明会が開催されました。71名の参加で満員となった会場で、まず東京ホームスタート推進協議会副会長で、社会福祉法人共生会ホームスタート希望の家の笹尾正乃さんから、開会の挨拶とホームスタートについての説明がありました。
すべての子どもに幸せなスタートを
「すべての子どもに幸せなスタートを」を目標に掲げるホームスタートは、6歳未満の子どもがいる家庭に、研修を受けた地域の子育て経験者が週に1回2時間程度訪問し、「傾聴(親の気持ちを受止めて話を聞く)」と「協働(親と一緒に家事や育児、外出をする)」を行う家庭訪問型子育て支援ボランティア活動です。
核家族化がすすみ、地域のつながりが薄れるなか、子育ては「孤育て」と呼ばれるほど孤独なものとなっています。誰にも相談できず、誰にも頼れないまま、追い詰められてしまう家庭も少なくありません。笹尾さんは、「ホームスタートは地域に住むすべての子育て家庭を対象としており、ボランティアや関係機関と協働することで、小さな困り事が深刻化、重篤化してしまう前に支援を届けることができる」と話します。
利用者を「待つ」支援の限界
この活動の鍵となるのが、活動のマネジメントを行う「オーガナイザー」です。各訪問活動の調整や、ボランティアの養成、地域の団体・機関との連携を担う等、一定の専門性が求められるため、多くは社会福祉法人やNPO法人等の職員が研修を受けてその任にあたります。報告会では、「ホームスタート二葉」でオーガナイザーを務める社会福祉法人二葉保育園の大矢裕子さんから、実践の報告が行われました。
二葉保育園では、平成15年から新宿区の委託事業として「地域子育て支援センター二葉」を開設していました。同子育て広場には、年間250組の親子が利用登録をし、毎日25組程度の利用がありますが、大矢さんは「子どもが生後半年になるまでは、子育て広場等の施設は利用しにくい。利用者を『待つ』支援では、手が届かない親子がいると感じていた」と話します。さまざまな理由で来所できない親子や、個別化、複雑化するニーズにどう応えていくかを検討した結果、ホームスタートの導入を決め、新宿区の協働事業提案制度に応募して平成23年から事業を開始しました。平成25年度からは委託事業として実施しています。
利用のきっかけづくりのため、保健師や民生児童委員への周知や、子育て広場や行政の窓口にチラシを置かせてもらうなど、さまざまな工夫をしています。大矢さんは、「利用者を対象としたアンケートでは、ホームスタートが子育てサービスの利用方法を知るきっかけとなったり、親の心の安定や自己肯定感につながったという結果が出ている。『いつか自分もボランティアとして、誰かの助けになりたい』と言ってくれる利用者もいる」と話します。ボランティアの側でも、「子育て経験が役に立ってうれしい」、「近所に知り合いの親子ができた」等、ボランティア自身の生きがいや、地域活動の促進にもつながっています。
「与える支援」から「共助・循環型の支援」へ
その後、NPO法人ホームスタートジャパンで調査研究担当を務める、高崎健康福祉大学人間発達学部准教授の野田敦史さんから、「子育て支援新制度から考える さらなる仕組みや子育て環境づくり」についての講演が行われました。野田さんは「ホームスタートは、子育て家庭への支援を通じて地域そのものをエンパワメントする取組み」と話すとともに、「今までの子育て支援は、行政や専門の支援機関・団体による『与える支援』が中心だったが、今後は地域住民が主体となった『共助・循環型の支援』が重要な役割を果たす」と、ホームスタートが、住民参加型であることの重要性を強調しました。
最後に、ホームスタートの元利用者で、1歳と2歳の子どもを育てている女性が、「近くに両親がおらず、一日中子どもと向かい合っていることに閉塞感を感じていた。一緒に買い物に行ってくれたり、おしゃべりをしたり、日常的な、当たり前のことを共にしてくれただけで、救われた気持ちになった」と、利用した感想と感謝の気持ちを発表しました。
東京では、ホームスタートを実施している6団体が27年9月に「東京ホームスタート推進協議会」を立ち上げ、今後さらに6団体が加わることが決まっています。笹尾さんは、「今後、ホームスタートを含め、さまざまな取組みが地域で実施され、みんなで親子を育て、見守ることができるよう、支援の輪を広げていきたい」と、住民と行政・支援機関が協力して、子育て家庭を支援する意義を訴えました。