あらまし
- 東社協では、社会福祉法人協議会による検討をふまえ、東京都における社会福祉法人の連携による地域公益活動の実施を検討し、平成28年3月30日に報告書をまとめました。今月号では、報告書に基づき、東京都地域公益活動推進協議会の設立に向けて取組む現在の状況をお伝えします。
東京都における社会福祉法人の連携による地域公益活動について、東京都地域公益活動推進協議会(以下、「推進協議会」)を発足して取組む提案がなされています。現在、推進協議会設立準備委員会を立ち上げて、今秋の設立をめざして準備を行っています。
推進協議会は、社会福祉法人の使命に基づき、福祉課題の解決に向け、社会福祉法人の連携により地域における公益的な取組みを推進することを目的とし、東京都内で事業を行うすべての社会福祉法人の参加をめざしています。東社協内の各業種別部会の内、社会福祉法人協議会をはじめ、14の部会(*1)を中核と位置づけ、14部会すべてから推進協議会に参加することの賛同を得ることができました。これを受け、5月26日、27日の東社協理事会、評議員会を経て、「東京都地域公益活動推進協議会規則」を制定しました。
*1 14の部会:(1)社会福祉法人協議会 (2)区市町村社会福祉協議会部会 (3)東京都高齢者福祉施設協議会 (4)医療部会 (5)更生福祉部会 (6)救護部会 (7)婦人保護部会 (8)身体障害者福祉部会 (9)保育部会 (10)児童部会 (11)母子福祉部会 (12)乳児部会 (13)知的発達障害部会 (14)障害児福祉部会
3つの層による活動を推進
ひきこもりや孤独死、子どもの貧困、ワーキングプア等、既存の社会福祉制度だけでは対応が困難な課題に対して、独自に課題解決に向けて取組んできた法人もあります。しかし、個別の法人だけでは対応が難しい課題には、種別を超えた連携によってこそ、それぞれの専門性を活かし、継続性のある取組みができると考えられます。
このようなことから、推進協議会は、(1)各社会福祉法人、(2)地域(区市町村域)の連携、(3)広域(東京都全域)の連携の3つの層による取組みを推進し、重層的に「制度の狭間の課題」に対応していこうとしています。そして、社会福祉法人の取組みの「見える化」を図ることにより、地域に生じている課題や社会福祉法人の役割についても、広く伝えていこうとしています。また、3つの層の取組みを推進するための財源については、事業所単位で幅広く少額負担する「基礎会費」と、法人規模に応じた一定額を社会福祉法人が負担する「活動会費」の二層構造で「推進協議会費(*2)」を募る方針が示されています。
*2 報告書には、「負担金」と示されていますが、設立準備委員会における検討により、「推進協議会費」に名称変更されています。
「困りごと」を捉えて地域公益活動へ
「いつもひとりで食べるから食がすすまないと話す高齢者の声を聞いた」「暗い中おなかをすかせてぶらぶらしている保育園の卒園児をたびたび見かけた」など、「何とかならないのかな」と思った経験は、誰にもあることでしょう。この「困りごと」を『地域のニーズ』と捉えて「ランチ会」や「居場所づくり」等の取組みにつなげている社会福祉法人があります。日常の福祉サービスや支援の延長線上に見える困りごとをニーズとして捉える職員の感性と共に、職員が捉えたニーズを具体的な活動にできる事業所のしくみと法人の判断があって、地域公益活動がすすめられています。
また、例えば、高齢者施設で「居場所」をつくったところ、就労経験のない若者、家族の借金、子どもの不登校など、そこに集う地域の方との会話から、さまざまな課題を複合的に抱える家族の姿が見えてくることもあるでしょう。一つの法人・事業所の対応には限界がありますが、障害者就労支援事業所、児童養護施設等の職員が共に関わることで、支援策が見つかる可能性が出てきます。それぞれの専門性を活かして連携することで難しい課題への対応にも挑戦することができます。
「できるところから始めて最終的に東京全域で実施」という考え方のもと、区市町村域で種別を超えた社会福祉法人のネットワーク化に取組み始め、平成27年度中に25地区で動きが見られました。地域ごとの資源とニーズを一体的に把握し、不足するサービスを創造し、連携するために、まずは地域のネットワークづくりが重要となります。推進協議会は、地域のネットワークの活動を支援すると共に緊密な連携のもと、東京全体の地域公益活動を推進していく予定です。
区市町村のネットワーク化の状況
東村山市は、都内の6地区で実施したモデル事業の一つとして、地域ネットワーク化に取組み、平成27年7月16日に市内の27全法人が加入する「東村山市内社会福祉法人連絡会」を発足しました。福祉ニーズや地域公益活動に関する情報交換、連携事業の検討を行う全体会のほか、連絡会の方向性や連携事業を検討し全体会に提案するための幹事会を毎月1回開催し、市内法人の地域公益活動実施状況等アンケート、市民に社会福祉法人を知ってもらうための広報誌の発行等を行いました。
また、社会福祉法人の置かれている現状と地域公益活動を実施する意義について、各法人の職員が共通認識を持てるよう、法人幹部対象、職員対象の2回に分けて同じ内容の研修会を実施しました。参加職員からは、「社会貢献しろとか内部留保を出せという事ではなく、社会福祉法人制度改革の一環だと理解し、その上で社会福祉法人は地域の福祉課題を解決する使命があり、連絡会で検討して事業を起こす必要があると感じた」「課題から逃げずに取組むことが重要であり、そのために連携が必要と感じた」等の感想があげられました。
今後の連絡会の連携事業として、相談事業に取組む案が示され、現在、事業化に向けた検討がすすめられています。代表幹事である社会福祉法人村山苑理事長の品川卓正さんは、「連携体制をどう生かすかがこれからの取組み。各法人が対応できる人材、設備、場所、資金等を整理し、個別の法人では対応できないことに連携して取組んでいきたい」と今後の展望について話しています。
このほか、立川市では、市内法人の連合体として、福祉避難所としての施設利用について、行政と協定を結ぶことをめざして検討がすすめられています。また、大田区では、大田区社会福祉法人協議会を発足し、その内の4法人が、会場、資金、人材を役割分担して連携し、ひとり親家庭の子どもを対象とした体験型の学習支援事業に取組んでいます。今後も同様に課題ごとに複数法人で取組んでいくことが考えられています。
地域によって、内容も取組み方も異なる形で少しずつ事業化の動きが見えてきました。今後は、各ネットワークで活動や事業を行うことと、まだ取組みが始まっていない地域でのネットワーク化をめざして推進していく予定です。
広域では中間的就労推進事業を実施
さまざまな困難の中で生活に困窮している方の包括的支援を行う「生活困窮者自立支援制度」が平成27年4月から開始されました。支援の窓口である相談支援機関が全ての福祉事務所設置自治体に設置され、これまで支援につながらなかった方々が相談につながっています。一方で、すぐに一般就労することが難しい方の支援策である「就労訓練事業(いわゆる中間的就労)」は、受入れ事業所に対する公費助成等はなく、社会福祉法人等による取組みが期待されていますが、その数はまだ非常に少ない状況です。
このような背景のもと、社会福祉法人の広域連携による地域公益事業として実施する「はたらくサポートとうきょう」は、生活困窮者自立支援制度の就労訓練事業を中心としつつ、それ以外の方にも対象者を拡げ、多様な就労形態で受入れて支援するしくみをつくります。社会福祉法人の事業所が「はたらく場」を提供し、「はたらきたいけれどはたらきにくい人」を受入れ、相談支援機関等と共に支援します。また、推進協議会は、就労支援担当者の研修、マッチングのための情報提供等、各事業所をサポートし、東京全体の取組みを推進していきます。
オール東京の連携をめざして
今後、設立準備委員会による準備が整い次第、東社協会員事業所を運営する社会福祉法人を対象として推進協議会への参加呼びかけをしていきます。参加法人には、(1)地域ネットワーク化への協力・参加、(2)3つの層の取組みのいずれか、または複数の実施、(3)推進協議会費の納入をしていただく予定です。
まずは、区市町村域で社会福祉法人の組織化を図り、将来的には、その組織を基盤として、民生児童委員、町会・自治会、地域住民、NPO法人、企業等の多様な関係者と連携したプラットフォームによる地域づくりにつなげることが目標です。
オール東京をめざした第一歩に社会福祉法人の皆様のご参加、行政、地域の関係者等の皆様のご理解、ご協力をお願いいたします。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/koueki/index.html