(社福)南相馬福祉会 特別養護老人ホーム福寿園
受入れ先を自ら探し、要介護高齢者が横浜市まで避難
掲載日:2017年12月22日
ブックレット番号:2 事例番号:23
福島県南相馬市/平成25年3月現在

 

6月から施設を再開し、利用者とともに再び南相馬へ

震災から1ヵ月後の平成23 年4月11 日に第一原発から30 ㎞圏外ぎりぎりのところにあった鹿島厚生病院が外来診療を再開し、5月からは入院体制が再開しました。

これにより3つの特別養護老人ホームのうちの1つ、32 ㎞地点にあった万葉園を「再開しよう」ということになりました。早速、229人の家族全員に意向調査を実施したところ、90 人近くが「南相馬に戻してほしい」というお答えでした。実際に遠方に避難していただいた利用者は、週末のたびに家族が5時間もかけて避難先のホームを訪ねていただいたり、大変な負担をかけていました。万葉園には、もともと定員50 人の特別養護老人ホームと定員9人のグループホームがありましたが、地元の大工さんに頼んで食堂をプライバシーが守れてナースコールのある状態に改築してもらい、仮設の居室を作り、93 人が万葉園に戻れる体制を整えました。

 

そして、震災から3か月近く経った6月10 日から万葉園に戻るための取組みを始めました。南相馬市内のタクシー会社3社と契約し、1回7万5千円で介護タクシーにマットレスを敷いて職員が同乗する形で1台に2人を乗せて南相馬に利用者が戻ってきました。

また、6月1日からは特別養護老人ホーム福寿園に併設する福寿園デイサービスセンター、居宅介護支援センター、福寿園ヘルパーステーション、原町東地域包括支援センターをそれぞれ再開させました。6月に再開するまでの間、ヘルパーステーションと地域包括支援センターは在宅避難者に対して食料を届けたり、安否確認を続けていました。仮設住宅に避難して暮らしている高齢者は認知症がすすんだり、廃用性症候群がみられるようになっており、「デイサービスを使いたい」という意向が多かったため、定員超過で受入れを再開しました。実際に6月時点で市内の他の法人では、1か所のデイサービスしか再開しておらず、その他が再開できたのは10 月以降でした。

 

さらに、福寿園に隣接する南相馬市立総合病院が5月にまず5床の入院を再開し、徐々に再開する病床を増やしていきました。しかし、依然、医師が足りないため再開できる病床に限界がある状態でした。一方、9月末で緊急時避難準備区域が解除されたこともあり、特別養護老人ホーム福寿園も平成23 年10 月にようやく再開にこぎつけました。これにより、小高地区の施設以外の事業をほぼ再開させることができました。

横浜へ避難するまでの7日間、万葉園では、利用者の入浴が日中ですむので、一般の方にチラシを配布して夜間、お風呂を開放しました。これ以外にも、厳しい避難生活を送る地域の方々に施設機能をどのように提供できるかを考えて、備蓄していた毛布を提供したり、在宅の要介護高齢者を30 人、津波被害に遭った老人保健施設から4人、仮設住宅の認知症高齢者を3人それぞれ施設で受け入れました。

 

 

職員が減少し、介護人材の確保も極めて困難な状況

大内さんと高玉さんは、職員がどんどん減っていた時期をふり返ります。「お昼ぐらいからだいたい何となく表情から予感でき、夕方になると、部屋にやってきて、『ごめんなさい』と泣きながら、『家族とともに県外に避難することになったので…』と伝えられる。『いいんだよ。気にするな』としか言えず、本当につらかった」と話します。残った職員は、2階の会議室に寝泊りして家に帰ることもできないまま、懸命にケアをし続けた時期もありました。

震災前には全体で235名いた職員が3か月で7割まで減りました。万葉園はなんとか運営できている状態ですが、福寿園は看護師も少なく職員体制がギリギリの状態です。残っている職員も男性職員は単身で市内に残っていたり、女性職員は市外に家族が避難して、70キロの道のりを毎日2時間かけて通勤してくれる職員もいます。大内さんは「冬場は私でも山道は運転を避けたいくらいなのに、それを毎日続けてくれている」と話します。さらに、若年層が県外に流出したことにより、介護職員の新規採用は極めて困難な状況にあります。

 

福島県相双地域等への介護職員等の応援事業

こうした状況を少しでも解消するため、福島県社会福祉協議会の働きかけを契機として厚生労働省・福島県及び関係団体による「福島県相双地域等福祉人材確保対策会議」が設置され、施設職員の雇用対策及び応急的な応援に対する方策が検討されました。福島県社会福祉協議会福祉サービス支援課課長の村島克典さんは「職員は疲弊しており、また、定員に対応できる職員数が確保できないため、利用者数を制限したり、ショートステイも稼動できないなど再開後の事業展開が困難になっていた。雇用による職員の確保を基本としつつも、応急措置として全国からの介護職員等の応援をお願いすることとなった」と説明します。

平成24年5月31 日に「福島県相双地域等への介護職員等の応援事業実施要綱」がまとまり、6月4日から第1陣の応援が始まりました。県社協と県老施協で各1名のコーディネーターを配置して全国の特別養護老人ホーム及び介護老人保健施設から応援可能な職員を募り、条件の整った職員が相双地域等の施設において応援を行います。応援を受けたのは、南相馬市・飯舘村・広野町の5つの法人の5つの特別養護老人ホームです。

 

 

ところが、応援の受入れにあたって、どこの旅館・ホテルもいっぱいで応援職員の宿泊先の確保に苦慮しました。最初の2か月は宮城県のアパートから毎日、通勤してもらう形でしたが、全国社会福祉経営者協議会が特別養護老人ホーム「竹水園」の隣接する敷地に仮設の職員宿舎を設置し、8月からはこの宿舎で対応できるようになりました。平成24 年10 月末現在で37 の施設から59 人の介護職員が応援に参加しています。応援職員は基本的に利用者に対する人員配置にはカウントしていません。

福寿園では3人の応援職員が2週間~3か月を単位に交代で入っています。大内さんは「他の施設の介護職員から応援を受けるというのは、『施設による考え方の違いがぶつかったり利用者のことを短期間で理解するのは難しいのではないか』という考え方もあるかもしれない。しかし、実際には、そういったことは一切ない。基本的にいわゆるどこの施設でも実施している入浴の部分を中心に手伝ってもらっている。それによって疲弊した職員が非常に助かっている。現状では今後もまだ応援をいただく必要がある」と話します。

 

取材先
名称
(社福)南相馬福祉会 特別養護老人ホーム福寿園
概要
(社福)南相馬福祉会
http://minamisomafukushikai.or.jp/
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