福島県郡山市/平成25年3月現在
要介護認定における課題へ
平成24 年1月から、介護支援専門員協会は市町村事務受託事業として新規要介護認定調査ができる法人になりました。本来、新規の認定調査は市町村職員がしなければならないのですが、それが不可能な実態があったからです。実際に市町村によっては1か月近く調査ができなくて対象者がたまっていくばかりの実態もありました。協会に「○○地域に介護申請が上がってきました」という連絡が来ると、その地域の代表を務めている介護支援専門員に「○○地域にいる80 歳の女性の新規申請がありました」と伝えて、調査員を探してもらいます。調査員が見つかったという連絡があると、こちらから訪問調査票を送ります。これによって調査した件数は、平成24年1月~3月の3か月間に160件、4月から25年3月6日迄で232 件となっています。
こういう非常時に、サービスにつなぐまでの判定などを含めて通常のルールをどこまで簡素化するかということを決めておく必要があると思います。「どこそこの仮設に歩けなくなって困っている人がいるから、介護保険の新規申請をしてあげたら」と気づいた人がいても、それを保健師さんに言いっ放しになっていることが少なくありません。誰が本人に「介護申請をしますか」とアプローチをするかというところが課題です。そのためには地域の中にコアメンバーを作っておく必要があります。
「しばらくここで生活するんだ」ということが決まると、避難している人や生活している人たちの意識は変わります。ですから、緊急の一次避難、避難が長期化して二次避難、それから仮設住宅や借り上げ住宅にいくまでの支援が大事です。その後は、本人の生き方、本人の選択ということになります。もともとアルコール依存症だった人に、仮設に入ってから急に「酒をやめなさい」と指導しても無理な話です。千葉さんは「いつまでも同じように支援するということではなく、支援する側も意識を切り替える必要がある。例えば、県南では、震災から最初の秋に地域住民と借り上げ住宅に避難している被災者の交流の場として、私たちが主催して芋煮会を開いて100人近く集まった。今年は、材料と道具は私たちがそろえてあげるけれど、つくるのは自分たちでやって私たちにご馳走してくださいということにしたら、自治会長さんが頑張って前の日から準備してくれて、芋煮会を開いてくれた」と話します。
支援にあたって必要なしくみと課題
千葉さんは「支援する側はトップリーダー、現地リーダー、そこをつなぐパイプ役という3層構造くらいで管理しないと、効率的な支援はできない」と指摘します。さまざまな団体がばらばらに支援に入ってきて、仮設住宅にも日によっては、午前と午後に3回ずつ違う人たちが来たりします。こうなると「さっきの人に言ったから、もういいだろう」となりますが、その「さっきの人」が誰なのかもわからない状態です。
こういう情報をどうコントロールしたらよいか考える必要があります。支援者側で情報をコントロールするべきだと思いますが、被災者側でも情報をコントロールすることはできます。例えば、支援する側が情報をきちんと受け取ると同時に、「私たちはあなたからこういう話を聞きました。この話は今日中に役場に伝えます」というメッセージを相手に残していくシステムです。複写紙に依頼内容を書いて支援者と被災者の双方で保管しておくとか、各家庭にノートを1冊ずつ配って、「あなたの家に来た人たちには、ここに名前を書いてもらいましょう」という連絡ノートみたいなものでもよいのではないでしょうか。今のシステムでは、訪問された被災者の側の記憶に残っていないし、支援する側の横の情報網もありません。
また、トリアージということでは医療面での優先順位の話は出るのですが、介護の緊急度についての検討がありませんでした。「この人を1か月このまま置いてしまったらレベルが下がってしまう」という身体的なリスクをトリアージする人が必要になります。そういう部分での福祉職の役割は重要になってきます。
当時はどの事業所も定員オーバーで被災者を受け入れていましたが、町村によっては事業所に、他町村からの依頼は受けないでくれという連絡が来ました。なぜかというと、他から受け入れたことによって自分の町村の住民が入れなくなっては困るからということです。介護のトリアージがきちんとできるような体制になっていれば、来るか来ないかわからない人のために、目の前にいる困っている人を受け入れないということは起こらないわけです。そういう全体を見極めることのできる人を作っておくことは、今後の課題です。さらに、市町村という地域でどうするか、県南というエリアでどうするか、県全体としてどうするかというそれぞれのレベルで調整する人が必要になります。小さいコミュニティほど、一人暮らしの高齢者を地域の住民で支えて一緒に避難していました。災害があったからといって、それまで顔を知らない住民同士が突然仲よくなるというのはなかなか難しいのが現実です。
千葉さんは「私はソーシャル・マネジメントというのは、マクロ(社会や制度へのアプローチ)、メゾ(生活圏内のコミュニティや地域社会へのアプローチ)、ミクロ(個別の課題やニーズへのアプローチ)という3つの層から成り立っていると思う。震災によって、個人の生活のレベルと生活圏内のコミュニティや地域社会が崩壊した。そのため、個別のニーズやデマンドが一時的にせよ抑圧されてしまった。仮設住宅なり借上げ住宅なりでとりあえずの生活基盤ができた段階で、メゾのレベルが欠けているところに手を打たなければいけない。マクロとミクロをつなぐメゾの部分が壊れたままであるために、個別の課題やニーズを吸い上げることもできなくなってしまっていた。二次避難所以降の時期に、そのことが顕著になっており、当面の衣食住にめどがついた段階で、メゾの再建に比重を移す必要があったと思う」と指摘します。相談支援専門職チームは、6つの方部ごとに地域の事情やニーズに合わせてやり方や工夫をしてもよい「ゆるいしくみ」です。そのしくみを動かすために6つの団体のそれぞれの専門性を尊重しつつ垣根を取り払った信頼関係がさらに重要となりました。
http://www.fcma.jp/