あらまし
- 救済委員制度をルーツとする東京の民生委員制度は、平成30年6月に100周年の節目を迎えます。今号では、さらなる活動の発展に向け、東京都民生児童委員連合会が東京版活動強化方策を打ち出す中、各地区の民生委員児童委員協議会ですすめられている地域の実情に応じた取組みを紹介します。
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東京版活動強化方策の5本の柱
(1) 支援力を高める(個別支援活動の向上)
(2) チームで動く(班体制の確立)
(3) 組織を活かす(民児協組織の強化)
(4) 子どもを育む(児童委員活動の充実)
(5) 地域を結ぶ(協働による地域福祉活動)
東京の民生委員制度は、大正7(1918)年に設置された東京府慈善協会救済委員を起源とし、平成30年6月に100周年を迎えます。
民生児童委員は地域住民の身近な相談相手として、あらゆる相談を受け止め、関係機関等につないできました。平成12年以降は、社会福祉基礎構造改革がすすめられる中で民生委員法も改正され、地域福祉推進の担い手としての役割が明記されたことで、より地域に密着した活動が増えていきました。
こうした状況等をふまえ、東京都民生児童委員連合会では平成28年度、今後の10年を見据えた東京版活動強化方策(活動強化方策)を策定しました。各地域の民生委員児童委員協議会(民児協)においても、地域の実情をふまえたさまざまな取組みがすすめられています。
安心して活動できる「班活動」 ―江戸川区小松川第一地区民児協
江戸川区小松川第一地区が、「班活動」の取組みをスタートさせてから約1年が経ちます。取組みのきっかけは、一昨年の一斉改選の時期に欠員が予想以上に出てしまったことでした。小松川第一地区会長の清藤公清さんが欠員の要因を探っていたところ、地域性に関連しているのではないかと考えつきました。
小松川第一地区は地区内を3つのブロックに分けています。第一ブロックは再開発により新旧住民が混在する地域。第二ブロックは、古くからの住民が多い住宅地。第三ブロックはJR総武線平井駅に近く、古い都営住宅が多く高齢化率が他の地域と比べ高い地域です。欠員は第一・第三ブロックで発生していることがわかってきました。活動強化方策で「チームで動く(班体制の確立)」ことが提起されていたこともきっかけになり、一年考えた後、「班活動」を含む具体的な検討を開始しました。
小松川第一地区では、行政担当者も参加する定例会以外に、年3回、自主民児協を開催しています。自主民児協の場を活用して、平成29年秋より班活動に取組み始めました。これまでの3つのブロックを活かして3つの班を編成。全体で情報を共有する際も班ごとに座り、後半約30分で班会議を持っています。
会長の清藤さん以外に、各班から一名ずつ副会長を選出しており、自主民児協開催にあたっては、庶務部会として会長と副会長で事前に打ち合わせを行い議題の確認や意思統一を行います。例えば、児童委員制度創設70年周年を昨年迎えたことを受け、30年度は小松川第一地区として、小学校入学式の日の校門での見守り活動の実施が庶務部会の中で提案されました。各班のエリアに小学校は1校ずつあり、普段から学校との連携がうまくいっているこの地区ならではの取組みです。見守り活動の実施は全体の場で共有しますが、時間の詳細や担当者の調整はその後の班会議で決定していきます。
班活動に取組んでみて、清藤さんは「これまでの定例会議では、本当にみんなに理解してもらえているのかわからなかった。今では、各班内の会話も活発でたくさん質問や意見がでる」と話し、「副会長が中心となり自分の班をまとめる連携プレーで取組んでいる。副会長の理解があっての活動である」と強調します。
1班副会長の横尾伊與子さんは、「班会議は、自分たちの場所という認識があり話しやすい。情報交換する中で、教育支援資金を一人で複数件抱えていたり、都営住宅の課題など他の人の担当地区のことが分かり、『同じ班なのだから、大変な時は声かけてよ』などの声かけも出始めている」と言います。
また、2班副会長の和田孝一さんは、班活動の良さを実感した事例として、「戸別訪問に不安がある場合に『声をかけてくれれば一緒にいくよ』という声かけができるようになった。ただ同行するだけでも、安心して対象者の方と話ができることを実感した」と話します。そして、今後の課題として「調査を受ける側、相談する側である住民の方にも、私たちはチームで支えていると伝えていけるとよい」と話します。
そして、3班副会長の二瓶せつ子さんは、「班会議での意見交換を通じて近隣の情報に強くなったと感じる」と話します。
最後に、清藤さんは、「みんなの意識が自分の担当区割りから班に向いてきたと感じる。これからは、班全体を見守っていかないといけない。また、多様な業務や役割があり個人の負担になりがちな民生児童委員の活動を班でも支えられる方法を考えられるとよい」と今後への想いを語ります。
班活動の様子
支援力を養う事例検討会 ―あきる野市民児協
「民生児童委員と本人の関係をもう少し詳しく教えて」「同居の息子は仕事で忙しいから状況を把握していないのかも。粘り強くアプローチする必要があるね」「今後、同じようなケースが増えていくかもしれないね」――。あきる野市民児協秋川第二地区が実施している事例検討会では、事例提供者の報告が終わるとすぐに活発な意見交換が始まります。
この日は、認知症が疑われる高齢女性のケースについて、20人の民生児童委員が対応方法を検討しました。秋川第二地区会長であきる野市民児協会長の溝口正惠さんは「事例検討会を始めて10年。秋川第一地区、五日市地区を含む全3地区で同様の取組みを行っており、すっかり定着した」と言います。
事例検討会を始めたきっかけは、溝口さん自身が経験したある出来事でした。かつて、自宅で亡くなられていた方の第一発見者になった際、警察等に一人で何度も状況説明を求められるなど対応にとても苦労しました。「地域には町会長さんや社協のふれあい福祉委員もいる。もしやと思った時は必ず複数人で確認に行くなど、活動の中で起こり得る事態への対応方法を共有したかった。また年々、対応困難なケースが増えているので、民生児童委員同士でどう対応していくか一緒に考える場が必要だと思った」と実施の目的について話します。
秋川第二地区では毎月の定例会後に年10回、事例検討会を開催しています。事例は高齢や子育てなどの各部会が持ち回りで用意することになっていますが、当日の参加者から「今日はこんな話をしたい」と相談ケースが持ち込まれる場合もあります。
秋川第二地区副会長の小野ユリ子さんは「ベテランの民生児童委員でも、若い方の対応の仕方や意見を聞いて『そういうやり方もあるのか』と勉強になることがたくさんある」と言います。同じく副会長の中村隆夫さんは「『何回訪問しても全然会ってくれない』といったようなことでも、みんなが同じような経験をしているとわかれば気持ちも楽になる」と、対応方法だけではなく経験を共有することの意義を話します。
事務局のあきる野市生活福祉課庶務計画係係長の田中晶さんは「民生児童委員という同じ立場だからこそ、『そこまでやらなくても』とか『いや、もっと関わった方がいい』といった本音の意見が言い合える」と言います。そして「民生児童委員になりたての人は、気になる人がいても地域包括支援センターなどに電話をかけにくいのが実情。ベテランの民生児童委員から『すぐに電話していいんだよ』と言ってもらえれば心理的なハードルが下がる」と当事者同士で話し合うことのメリットを語ります。
あきる野市民児協では、事例検討会に加え、地域包括支援センターとの情報交換を定期的に行うなど、活動強化方策で示されているような組織を活かして支援力を高める取組みを続けています。こうした取組みが定員に対する充足率100%の維持につながっていると言えるかもしれません。
溝口さんは「仲の良さがあきる野市民児協のいいところ。一人で抱え込まずに、みんなで相談し合うことを大切にしていきたい」と今後の活動方針について語ります。
会議の様子
あきる野市民児協