社会福祉法人一誠会「初音の杜」
地域福祉部長 鷹野 賢一さん
あらまし
- 紙媒体やインターネットなど、情報発信にはそれぞれに特徴を持つ、たくさんのツールがあります。どのように使っていくと情報が伝えたい受け手に届くのか—。
多様なツールを活用した情報発信の工夫について、社会福祉法人一誠会の事例をご紹介します。
一誠会は、特別養護老人ホーム・居宅介護支援事業所「偕楽園ホーム」とグループホーム・デイサービスセンター「初音の杜」を、八王子市で運営しています。平成30年9月には小規模特養、ショートステイ、看護型小規模多機能型居宅介護、サービス付高齢者向け住宅を含む「第二偕楽園ホーム」を近隣に開設予定で、開所から約40年間、地域の中で高齢者福祉に取組んでいます。
施設を身近に感じてほしい
一誠会では、各部署の責任者も入り構成する「広報委員会」が軸となり、広報誌「黎明」の発行(隔月1回)と、ホームページやFacebookの運営を行っています。また、介護職など各専門職が更新するブログを平成26年より開設し、各専門職がそれぞれの視点から情報を発信しています。
「広報委員会」の委員長で「初音の杜」地域福祉部長の鷹野賢一さんは、一誠会の情報発信の方針として「サービス内容を提示する」、「職員の採用につなげる」、「社会福祉法人の取組みや地域公益活動を伝える」ことを挙げます。「今サービスを必要としている人だけでなく、今後サービスを使うかもしれないという準備段階から一誠会の取組みを知ってもらい、施設を身近に感じてほしい。そして、介護予防の意識を高めたり、将来サービスを受ける際の選択肢を増やしてもらいたい。そのため、若い世代が活用しているインターネットでの情報発信にも力を入れている」と、話します。
生の言葉を伝え、共感を得られる
一誠会のブログは、「偕楽園ホーム」の施設長、介護スタッフ、理学療法士、居宅介護支援事業所のケアマネジャーと、「初音の杜」はデイサービスとグループホームのスタッフの6つがあります。
内容は利用者との日々の出来事をはじめ、施設内外の研修、地域行事でのエピソード、施設で飼育している動物や庭の植物の話、さらに認知症に関する知識や介護にまつわるニュースといった専門職ならではの記事や日々の所感を織り交ぜ、担当者それぞれの個性があふれる多様なテーマが取り上げられています。「週3回以上更新する」ことを含めた最低限のルールは決めていますが、基本的には各ブログの担当者が更新しています。
ブログについて、鷹野さんは「大変だけど、楽しくやっている」と言います。「介護職としての喜びや仕事をしている中で感じていることなどを伝えられる場は、普段あまりないもの。ブログで発信することで、自分たちのやってきていることや想いを生の言葉で伝えられ、しかもそれに共感してもらえると、やりがいにもなる」と話します。
迅速な情報発信のための工夫
一誠会では、情報発信までにかかる時間を短縮するため、利用者の入所時に「プライバシー確認に関する同意書」を作成しています。写真や名前など項目ごとに意思を決められるので「写真は構わないけれど、名前は載せないで」といった細かな希望も出せます。それを一覧表にし、スタッフは日ごろから利用者それぞれの希望を把握して業務を行ないます。
作成した記事はまず各担当者がブログに掲載し、後から広報委員会が確認しています。一度ネット上に公開されるリスクはありますが、今まで修正が必要だと考えられる内容はありませんでした。ブログによる情報発信の体制が定着していることや、プライバシーに関する確認をアセスメントの一環で行っていることが、職員全体のネット上のマナー意識につながっているのかもしれません。
「当たり前」の情報も受け手には新鮮
ホームページの「採用情報」では、毎週実施している職員研修の概要を掲載しています。採用面接では、このページを見て「研修が充実していて、自分の成長につながると思い志望した」という学生が多いと言います。職員にとっては「当たり前」と感じがちな業務も、見える形にすることで関心につながります。
ホームページには地域の飲食店の紹介ページもあります。施設を訪れた人が「ちょっと立ち寄ってみよう」と思うきっかけになり、地域の活性化につながれば、という思いが込められています。
事実をきちんと発信する
万が一の事故やクレームなどマイナスの情報も、発信している「情報」の一つです。一誠会ではホームページに「ヒヤリハット報告」を掲載し、広報誌でも「苦情の窓」コーナーを設けています。鷹野さんは「持っている情報はきちんと開示しなければならない。『苦情の窓』は匿名で意見を寄せてくださった方など、直接回答できない方へ答える場でもある」と話します。
人と人のつながりが情報を届ける
広報誌「黎明」は、ホームページの閲覧者より年齢の高い方を主な読者として想定しています。そのため字を大きくし、写真を多く掲載しています。
表紙を含めてA4サイズ12ページの中に、15以上のコーナーが盛り込まれています。各事業所からの情報や高齢の方の生活に役立つ情報、またボランティアの活動を紹介するコーナーもあります。これはボランティアの方々に好評で、「記事が載ることで『一緒に施設をつくっている』という実感につながっているようだ」と、鷹野さんは言います。
また、記事には地域のイベントに職員が参加した報告も掲載されています。地域に顔を出す機会が増えることは、地域住民とのつながりを、強く確かなものにしてきています。はじめは一誠会の職員が「何かできることはありますか」と住民に声をかけていたのが、今は「こんな企画があるので、これをやってほしい」と住民の方から声をかけられるようになってきました。
広報誌や施設で開催するイベントのチラシは、広報委員会が地域の各家庭にポスティングして届けています。その中で「イベントに参加したいけれど、車がなくて施設に行けない」といった住民の声が聞こえるようになりました。施設にいてイベント情報を発信しているだけでは見えなかった地域のニーズです。鷹野さんは「施設の名前や存在は知っていても、何をしているところか、どんな時に利用できるかまで知っている住民は少なかった」と言います。そして、「一方的に発信していても理解はすすまない。地域に出ることは発信のプラスアルファとして広報においても大切なこと」と話します。
さまざまな発信ツールができても、情報が伝わるには人と人のつながりと双方向の関係性が欠かせません。「今では、施設がある宮下町の方が私の地元より知り合いがたくさんいる」と、鷹野さんは笑顔を見せます。
一誠会ブログ一覧
広報誌「黎明」
●ブログは一誠会ホームページ(http://kairakuenhome.or.jp/)にまとまっています。
●広報誌「黎明」は隔月1回発行。一誠会ホームページからも読むことができます。