シンポジスト
右から 太田貞司さん(京都女子大学教授)
守谷仁布さん(斉藤医院)
吉村富子さん(よしむら薬局)
あらまし
- 荒川区在宅療養連携推進会議の会長を務める太田貞司さん(京都女子大学教授)は、『医療と介護の連携』を次のように語ります。「専門職同士の必要性に始まるが、成熟すると、専門職だけでは実現できず、インフォーマルな活動を巻き込むものへ発展する。やがては、高齢期の生き方という市民の問題になっていく」。何のための連携かを考えれば、それは自然な流れかもしれません。
- 平成24年度に区が設置してから6年が経つ荒川区在宅療養連携推進会議。これまで入院時から地域と情報を共有し、本人や家族の意向をふまえて退院支援を行う「連携シート」を作成するなどの取組みを行ってきました。そして、その取組みを区民と共有すべく、10月14日には、病気になっても住み慣れた地域で暮らし続けるために必要なことを専門職と区民が一緒に考える区民向けのシンポジウム『在宅療養ってなんだろう?〜ほぼほぼ在宅、ときどき入院〜』を開催し、107人が参加しました。
自宅でどんな医療ができる?
シンポジウムに先立ち、区内の診療所の斉藤医院の守屋仁布さんが、医師の立場から「在宅療養とは何か」をわかりやすく説明しました。
守屋さんは「いつも通っていた患者が、ある日から家族が薬を取りに来るようになる。通えなくなったのならば、医師の方から1か月に2回と日を決めて行けばよい。それが『訪問診療』。実際に私も2年半の間、通い続けて看取った方がいる」と話します。そして、「訪問診療でも血圧や採血はもちろん、点滴もできる」と説明します。守屋さんは、大きな病院に「外来+入院」という機能があるように、地域の診療所にも「外来+在宅医療」があると思えばよいと考えています。しかしながら、診療所の6〜7割は医師が一人だけです。どのように、地域にその機能を実現するかが課題です。
事例を通じて区民と考える
右から
菅谷真理さん(訪問看護ステーションみどり)
田仲久美子さん(ミレサポート)
堀江明美さん(関川病院居宅介護支援事業所)
続くシンポジウムでは、専門職たちがそれぞれのユニフォームで登壇し、スクリーンにA子さんの「居宅サービス計画書」の原案が投影されました。A子さんは80歳で要介護4。容態が悪化して入院。検査の結果、胃がんの末期と診断され、手術や治療ができる状態ではありません。A子さんは「家族に迷惑をかけたくないけれど、本当は家に帰りたい」と思っています。息子夫婦も「帰らせてあげたい」と思いつつ、二人とも仕事があり、「どうしたら…」と悩んでいます。壇上は、そのサービス担当者会議の場面。本来いるはずのA子さんと家族の役割として進行役の太田さんが専門職たちに質問します。事例を通じ、専門職の役割と在宅療養のイメージを区民に知ってもらおうとする試みです。
ケアマネジャーの堀江明美さん。「私はA子さんと家族に、気持ちとそれぞれにできること・できないことをうかがい、サービスを調整する」と話します。そして、太田さんの質問には、このケースの場合、訪問看護やヘルパーが週にどれぐらい入ることができるかを説明しました。
次に訪問看護師の菅谷真理さん。「家族は、病院と地域の専門職がつながっていると感じられると安心できる。だから入院中から退院後を見据えて準備する。退院後は、定期的に訪問する以外に24時間連絡できる体制を取る。これは病棟のナースコールと同じ」と話します。合わせて守屋さんが「訪問看護師が医師に連絡した方がよいと判断すれば、医師が往診する」と補足します。
薬剤師の吉村富子さんは「薬剤師も訪問できる。処方どおりに服薬できているか、効果や副作用を医師やケアマネジャーに報告する。末期がんの痛みを薬でコントロールする場合、効果が切れる前に服用する必要がある。家族と介護者の状況に合わせた処方も提案したい」と話します。
訪問介護事業所の田仲久美子さんは、「他の専門職に比べてヘルパーが入る時間が最も長い。観察してわかったことは他の専門職に伝える。そして、『大変だ』という家族の気持ちを少しでもわかってあげる共感やうなずきを大事にしたい」と言います。
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今後の展望の一つ。守屋さんは、荒川区医師会副会長の立場から「区内で30人のかかりつけ医に対して訪問診療ができる専門医1人がいて、何かあったときに入院できる病院があるという体制を作っていければ」と話しました。また、介護が必要になっても孤立しないためには専門職だけでなく地域の人々の理解や支えも必要です。太田さんは「『退院です』と言われたとき、ひとり暮らしでも、家族が働いたり子育てしていても、荒川区で暮らし続けられるだろうか。地域で最期を迎えられるかは地域の問題。今日を区民と一緒に考えるきっかけにしたい」と結びました。