あらまし
- 福祉施設や事業所が災害時にその機能や役割を十分に発揮していく際の課題やニーズを把握し、災害時における東京の要配慮者支援の特性に応じた必要な取組み方策に活かしていくことが必要となっています。
東社協では、施設部会会員施設・事業所を対象として平成30年9月25日〜10月17日に「都内福祉施設・事業所における災害時の利用者ならびに地域の高齢者・障害者・子ども等への支援に関するアンケート」を実施し、1,020施設から回答を得ました。
実施のあらまし
本調査は、平成30年9月〜10月の期間、本会施設部会会員施設・事業所3,170施設を対象に実施し、1,020施設から回答を得ました(回収率32・2%。表1)。会員施設・事業所を対象にした災害に関する調査としては、24年の「首都圏の災害時における福祉施設の役割に関する調査」以来の実施となります。
調査の基本的な視点は次の4点です。
(1)福祉施設・事業所が災害時に自らの利用者を守り、必要なサービスを維持するための課題や取組みの工夫を把握する。
(2)在宅福祉サービスの休止などによりニーズが増大したとき、福祉施設・事業所がその機能を活かし、地域の高齢者、障害者、子ども等のためにできることを把握する。
(3)福祉避難所の設置・運営などについて福祉施設・事業所が自治体との間で協定等を結んでいる状況とその取組み課題を把握する。
(4)右記の地域における取組みをすすめるうえで、各種別の部会をはじめとする都道府県圏域からの広域支援に求めることを把握する。
調査結果をⅠ〜Ⅴの項目に分けて、主な内容を紹介します。
Ⅰ 東京の特性に応じた災害時の福祉施設の供給体制のリスクと対応
〔建物や食事提供の形態〕
福祉施設・事業所の建物の所有形態は「自己保有」が59.8%となっています。さらに、利用者が使用している建物構造が縦移動を必要とする「複数フロア」となっている施設が81.4%に上るのは東京における施設の大きな特徴です。特に特別養護老人ホーム(以下、特養)ではその割合が97.0%となっています(表2)。
また、災害時に利用者サービスを継続できるかのポイントの一つに「食事提供」の可不可があります。平時に「食事を提供している」施設のうち52.2%の施設が「自前調理」で、47.8%が「調理を外部に委託」とほぼ半々です。「自前調理」の場合には、設備が使えるか、食材が調達できるか、人的な体制を自ら確保できるかが課題です。一方、「外部委託」では、自施設が無事でも委託先が体制を確保できない場合の代替方策が必要となります。
〔災害時の職員体制の確保〕
東京の福祉施設では、特に都市部において「施設の近隣に職員が居住していない」という特徴があります。「発災直後」に〝交通機関が不通〟の場合では、96.2%の施設が「参集できる職員は7割以下」と想定し、さらに、半数を超える51.1%の施設が「参集できる職員は4割以下」としています(図1)。
また、「発災翌日〜1週間」では「出勤できる職員は4割以下」は〝交通機関が不通〟によるが43.3%ですが、〝家族の保育や介護が必要〟は53.9%になっています。「保育や介護サービス、学校等の休止」は災害時の福祉施設の人員確保にも影響が出てくると考えられます。
〔災害時に福祉施設が事業休止に至る要因〕
災害時、どのような場合に施設が「事業休止」に至るかを複数回答で尋ねたところ、半数以上の施設が想定した要因は8つありました。それは、「建物が損壊」と「建物の安全性が確保できない」をはじめ、「『水道』『電気』『ガス』が確保できない」「食事が提供できない」「区域に立ち入れない」「職員を確保できない」です。また、事業の休止に至らなくても提供できなくなるおそれがあるのは「食事」「入浴」「送迎」「ショートステイ」が挙げられ、職員体制等によっては「日中活動にも制限」が想定されます。
Ⅱ 災害時の福祉施設利用者と地域の高齢者、障害者、子ども等に想定されるリスク
〔発災直後に施設利用者に想定されるリスク〕
発災直後の福祉施設利用者に想定されるリスクは、85.6%の施設が「利用者自身が自らの身の安全を守ることが難しい」を挙げるとともに、自由記述でその安全確保に人手が必要なことも指摘されています。特に時間帯によっては限られた人員体制での対応も必要です。また、「パニックになる」「冷暖房が確保できないと健康面にリスクが生じる」「医療的なケアを必要とする利用者がいる」など、発災直後には高齢者、障害者、子どもたちの「安全確保」が最も大切になります。
さらに、「施設にとどまれない場合に、避難先の確保と移動が困難」なことのほか、「(通所施設で)家族が帰宅困難となり、自宅に戻せない」「(児童養護施設等で)通学中の時間帯で二次災害に遭うリスクがある」など、施設種別によって異なる課題も挙げられています。
〔地域の高齢者、障害者、子ども等に想定されるリスク〕
それぞれの福祉施設の利用者と同じような対象者で地域に暮らす人たちの災害時におけるリスクを尋ねたところ、要配慮者に共通する心理特性に配慮したものが多くみられました。
種別を越えて半数以上の施設が挙げたのは、「先行きが見通せずに高まる不安」「一般避難所で過ごすことが困難」「必要な情報の入手が困難」「不安を訴えずにためこむ」で、四大リスクとなっています(図2)。
Ⅲ 災害時に福祉施設が地域の高齢者、障害者、子ども等に提供できる支援
〔災害時に施設が地域の高齢者、障害者、子ども等にできる支援〕
地域で暮らしている要配慮者へ、災害時に施設が支援を提供できるかを尋ねた設問では、「積極的に支援を提供できる」(6.5%)と「状況や内容によっては災害時でも提供できる」(56.1%)を合わせると、62.6%の施設が「何らかの支援ができる」としています。
〔災害時に施設が一般避難所にできる支援〕
災害時に福祉施設が近隣の一般避難所に対して支援を提供できるかを尋ねると「専門職を派遣しての直接的な支援」が15.3%と多くないものの、「環境整備、ノウハウの提供のアドバイス」「支援に必要な物資の提供」は約3割が「できる」と回答しています。なお、障害施設では半数近くが「環境整備、ノウハウを提供できる」、保育所も半数近くが「必要な物資を提供できる」としています(図3)。
Ⅳ 福祉避難所に関する協定の締結状況
〔福祉避難所に関する自治体との協定〕
種別全体では34.9%の施設が自治体と福祉避難所に関する協定を締結しています(図4)。特養では82.8%が締結済みで、障害施設も42.5%と半数近くが締結しています。なお、協定締結時期は平成23年の東日本大震災以降に集中しており、危機意識が高まった時期は取組みがすすみやすい状況がうかがえます。
〔福祉避難所設置・運営の取組みと課題〕
福祉避難所に関する協定を締結している施設のうち、「設置・運営マニュアルを作成」しているのは37.6%、「訓練を実施している」は30.1%でした(図5)。一方、「特に取組んでいない」も19.2%に上っています。施設からは「協定は締結していても、具体的な内容が決まっていない」といった課題が指摘されています。
Ⅴ 災害時に福祉施設が役割を発揮するうえで、広域支援に期待すること
〔災害時、所属する種別部会の取組みに期待すること〕
災害時の支援については、「施設運営に関する人的支援」(62.5%)、「被災状況等に関する情報集約と共有」(57.3%)、「利用者の避難受入れ先の調整」(54.7%)を半数以上の施設が挙げていました(図6)。
いずれも施設にとって緊急度が高く、施設単独では対応に限界がある項目が上位にきています。被災状況や支援の情報を正確に把握し、応援職員の派遣や利用者の受入れについて調整するなど、広域だからこそできる支援への期待が大きくなっています。
また、主に都内での大規模災害に備え、平時から種別部会・協議会の枠組みを越えて多様な団体とネットワークを構築し、災害時には要配慮者支援に関する広域調整を実施する東京都災害福祉広域支援ネットワークに対しては、具体的な支援を確実に実行できるような体制づくりを求める声が寄せられています。
● ● ●
今回の調査により、都内の福祉施設・事業所における災害に備えた取組みの状況や課題、また地域の要配慮者支援に対する意向などが見えてきました。課題を解決し、〝災害に強い福祉〟を実現するため、適切な情報提供や研修の実施、関係機関による意見交換の場の設定など、さまざまな取組みがより一層求められています。
※調査結果の概要を東社協ホームページ「調査・提言」に掲載しています。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/index.html