左から
練馬区社協経営管理課長 美玉典子さん
練馬区栄町・桜台地区民生児童委員協議会会長 悴田茂雄さん
児童養護施設 錦華学院施設長 土田秀行さん
特別養護老人ホーム 育秀苑施設長 岡本惠美さん
社会福祉法人未来・ねりま理事長 朝生修一さん
練馬区社協経営管理課総務係主事 遠藤菜々さん
あらまし
- 平成28年9月に設立した東京都地域公益活動推進協議会は、(1)各法人、(2)地域(区市町村域)の連携、(3)広域(東京都全域)の連携の三層の取組みにより、社会福祉法人による「地域における公益的な取組み(以下、地域公益活動)」を推進しています。東京都地域公益活動推進協議会では、地域ネットワークの立ち上げのための事務費や、複数法人の連携事業開始時期の事業費の助成を行うとともに、地域ネットワーク関係者連絡会等を開催し、他の地域と情報交換できる機会をつくっています。
練馬区では、平成27年度末に法人が集って「ねりま社会福祉法人等のネット」を設立し、設立当初から4地区(練馬/石神井/大泉/光が丘)に分かれ、それぞれに複数法人が連携した取組みをすすめてきました。ここでは、その一つである「練馬地区」で法人が、民生児童委員を通じ地域の人たちの協力を得て「ねりま☆わっくわく広場」を作り上げてきた実践から、地域の力を高めることにつながるネットワークの活動を紹介します。
分野を越え、お互いを知り、まずは「居場所」づくりから
65の社会福祉法人が区内の4地区に分かれてそれぞれに連携し、地域公益活動に取組む「ねりま社会福祉法人等のネット」は設立から3年目。その4地区の一つ、「練馬地区」では13法人が集い、「地域のためにできること」を検討してきました。
平成30年11月23日、法人が協力し合い、特別養護老人ホーム育秀苑の地域交流スペースで開いた「ねりま☆わっくわく広場」には、地域の小学生たち24名が参加しました。テーマは「新たな気づき、知らなかったことを知る喜びを育む」。各法人が子どもたちに提供できる「体験」を持ち寄りました。「車いす体験」もその一つです。その日の広場は盛況に終わり、何よりも子どもを連れてきた保護者から「今度はいつやるの?」と尋ねられたのは嬉しい反応でした。
しかし、その反応に至るまでは試行錯誤でした。特別養護老人ホーム育秀苑施設長の岡本惠美さんは、「当初、それぞれの施設を会場に持ち回りで連絡会を開き、施設を見学しながらお互いの取組みを知ることからはじめた。それまで種別ごとの場はあったものの、分野を越えたつながりはなかったので、視野が広がる良い機会になった」と話します。
そして、母子生活支援施設で子どもの貧困やひとり親家庭の子どもたちの学習機会について話を聞く中、自然と「地域の子どもたちのために何か取組めないだろうか?」「場の提供からはじめてはどうだろう?」と話がすすみ、30年3月に育秀苑を会場に「第1回練馬地区学習支援 わたしたち・ぼくたちの居場所」を開催しました。まずは母子生活支援施設や学童クラブを運営している法人の協力で、小学生6名が参加しました。同様に2回目を5月に開きましたが、参加は7名。参加児童がなかなか広がりません。
民生児童委員を通じて地域の視点を入れた「広場」へ
2回目のとき、社協から声をかけて民生児童委員で練馬区栄町・桜台地区協議会会長の悴田茂雄さんが会場に顔を出してくれました。会場の様子を見た悴田さんは、「これは大人の目線で動いている。事業所なりの意識になって、肝心な対象者のニーズを把握できていないのでは」と助言してくれました。その助言に岡本さんは「周知にばかり気を取られていた。地域のニーズを探る視点の重要性に気づかされた」と話します。また、児童養護施設の錦華学院施設長の土田秀行さんは「法人として『やらなきゃ』という手探りだったので、その地区の状況に明るい民生児童委員の視点で関わってもらえたのは良かった」と話します。
早速、悴田さんの人脈と発信力を頼りにPTAの保護者たちとの意見交換の場を設けてもらうと、それまで気づいていなかったことがたくさんありました。例えば、「その時間帯は運動して帰ってきてお腹がすいていますよ」など。地域の子どもたちの生活にとってのあたり前に合わせた場を作る必要があるという視点でした。
保護者の方からの指摘でチラシも広場の様子が目でみてすぐわかるよう、写真でアピールしました。名称も「ねりま☆わっくわく広場」に改めました。悴田さんは「『居場所』という言い方には狭さを感じる。地域から見て、楽しめる、集まれる場という意味では『広場』の方がしっくりくる」と話します。土田さんも「両方のチラシを見比べると、やっぱり子どもはこっちを選ぶよな」と笑顔で話します。最寄りの小学校にもつないでもらい、校長先生にチラシの配布をお願いしました。
PTAの保護者からのアドバイスでチラシも改めました
「地域が子どもを育てることに法人が協力する」という意義
盛況になった「広場」。知的障害者の就労支援の事業所を営む社会福祉法人未来・ねりま理事長の朝生修一さんは「支援がはまると、子どもたちはこんなにも笑顔になり、それが励みになる。障害をもった人一人ひとりに合わせた支援をすることと同じで、改めてその大切さに気づかされた」と話します。そして、「子どもたちの生活圏域は小さい。持ち回りで別の遠くの施設を会場にしても、来られない。むしろ、複数の法人でノウハウを共有した後は、各法人で広場をできるようになっても良いのでは」と話します。それは、複数の法人が連携して一つの取組みを成功させることで個々の法人の力を高めるという発想です。そのためにも盛況になった広場の担い手を増やす必要があり、学生ボランティアにも声をかけることにしました。
また、岡本さんは、「地域の人からすると、福祉施設はなかなか関わりのないところ。親子で施設を知ってもらう機会になってほしい」と話します。そして、練馬区社協経営管理課長の美玉典子さんが「新しいことを知ることに喜びを感じた子どもたちが意欲をもち、それがこれからの地域の力につながってくれると嬉しい」と話すと、土田さんも「子どもたちが自分で解決する力、相談できる力を育んでほしい」と話します。
4つの地区別連絡会がそれぞれに地域の力を高める
「ねりま社会福祉法人等のネット」では、「練馬地区」以外の他の3地区でも2か月に1回ほどのペースで「地区別連絡会」を開催し、各地区の特性に応じた取組みもはじまっています。練馬区社協では、部署を横断して複数の職員がそれぞれの地区担当として関わり、ネットワークを活かした取組みを支えています。
また、年に2回開催する「全体会」では、4地区の取組みをお互いに共有しています。土田さんは「社協が全体を見回しながら関わってくれるのがありがたい。地区別連絡会に欠席した法人にもきめ細かく連絡してくれる。社協がホームページにネットワークの取組みを載せてくれているので、各法人のホームページもそことリンクし、みんなで地域に発信できると良いかもしれない」と話します。
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「ねりま社会福祉法人等のネット」の「等」の一文字。そもそも社会福祉法人に限らず、幅広い主体が参加するネットワークでないといけないという想いが設立当初に込められました。そのためにも「地域への発信」は大切です。ネットワークが作りあげた場を通じて「その地域の姿」が見えるようになり、それがさまざまな人が参加していく土台となっていくことができる。そのような可能性がこの活動に期待されます。
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