福島県いわき市/平成27年3月現在
福島県いわき市では、東日本大震災に伴い、死者310人、行方不明者37人、損壊住家80,602棟の甚大な被害があり、約2万人の市民が避難所へ避難しました。そうした中、一般避難所では多くの高齢者、障害者が過ごすことが難しくなり、3月17日にいわき市は「臨時福祉避難所」を内郷コミュニティセンターに開設しました。
震災後、いわき市では「福祉避難所」について検討をすすめ、平成26年2月10日、市内の老人保健施設、特別養護老人ホーム、障害者施設のそれぞれの団体、福祉機器協会、いわき市社会福祉協議会(以下「いわき市社協」)と『大規模災害発生時における福祉避難所設置・運営、福祉機器等の供給協力及び人材派遣に係る協定』を締結しました。
いわき市では、災害発生時から概ね3日以内に一般避難所等での要支援者を把握した上、受入れ体制の整った福祉避難所に移送を開始します。そして、民間福祉施設による「協定福祉避難所」では、災害発生から7日間をめどに要支援者を「公的福祉避難所」に集約し、早期に通常サービスを再開することを想定しています。
また、災害ボランティアセンターの運営を経験しているいわき市社協がこの福祉避難所の協定に参加していることも大きな特徴となっています。
東日本大震災におけるいわき市の要支援者
平成23年3月11日の14:46。いわき市でも震度6弱を観測し、市では14:51に市内沿岸部全域に防災行政無線で避難指示を出しました。14:52には小名浜に津波の第1波、15:39には最大3.3mの津波が観測されています。地震の影響で市内のほぼ全域が断水し、翌12日には127か所の避難所に1 万9,813人が避難しました。同日、市は高齢者等要支援者の安否確認を開始。市や地域包括支援センターでは、避難所へ自力で避難できない在宅高齢者や障害者の移送を行いました。
市内では津波で損壊するなど133か所の福祉施設に被害がありました。海岸から100メートルに立地していた国立いわき病院では児童福祉法に基づき入所していた重度心身障害児76人が3月16日に自衛隊ヘリで避難したほか、20日には知的障害者入所施設の入所者33人が支援物資を積んできた船の帰路で避難しました。また、市内病院では透析の実施が困難となり、腎臓機能障害者の他市への避難も必要となりました。市内の高齢者福祉施設、障害者福祉施設等には3月20日から支援物資の配布を開始しました。
市内の介護サービス事業所は、95%が一時閉鎖に追い込まれました。断水や停電、道路や鉄道の寸断に伴う物品や食料の搬入困難、ガソリンの不足、福島第一原発事故に伴う人材の流出などがその要因です。医療機関でも、断水により閉鎖される病院があり、入院患者も病状が安定している方は在宅での引き取りが求められました。そのため、在宅サービスが著しく不足している上に施設や病院から在宅に引き取られる要介護者が増え、最初のうちは家族で何とか持ちこたえようとしたものの、それも限界となる事態へとすすんでいきました。
一般の避難所では、自閉症児や認知症高齢者など環境の変化への対応が困難な方は最初の2~3日は周りの方の協力で何とか過ごせたものの、専用のスペースも確保できず、避難所で過ごすことが困難になってきました。そもそも避難所は体育館が多かったため、段差等で移動が制限されたり、トイレが和式しかないなど、肢体不自由者や高齢者への対応が難しい状況でした。
高齢者等の嚥下障害やアレルギーがある方の食事の提供、排泄に関する周囲の理解も避難所では難しく、障害のあることが外見からは気づかれにくい方への配慮も必要でした。そして、病院や施設の閉鎖により一時帰宅した方が心身の状況が悪化したことで避難所に来るようになり、医療や介護の提供をどうするかが急務な事態となりました。
東日本大震災における臨時福祉避難所の開設
このような事態に対応するため、いわき市では3月17日から5月31日までの76日間、「臨時福祉避難所」を1か所開設しています。
発災後、数日が経過した頃から、避難所担当職員やケアマネジャー、家族、医療機関等から介護や医療の提供に関する相談が多く寄せられるようになりました。特に相談が集中した内郷・好間・三和地域包括支援センターでは、併設されている地区保健福祉センターが事態の深刻さを察知し、3月16日に地区保健福祉センター、いわき市社協、地域包括支援センターの三者が集まりました。
いわき市では、市内を7つのエリアに分けてそれぞれに市の機関である地区保健福祉センターがあります。同じく7つのエリアに民間の非営利団体が受託する地域包括支援センターを設置しています。また、いわき市社協は、介護保険事業(居宅介護支援、訪問介護、訪問入浴介護)を実施しているとともに、3月16 日から災害ボランティアセンターの受入れを始めていました。これらの三者が中心となり、直面する課題に対応するため、「臨時福祉避難所」の開設にとりかかりました。
まずは、福祉避難所をどこに設置するかを検討し、交通機関の便がよく水と電気が止まっていない内郷コミュニティセンターを選びました。同センターには身障者トイレも備えており、近くに総合病院などの医療機関も整っていました。そして、17日には「臨時福祉避難所」を開設。76日間の設置期間に受入れた入所者は34人。ほとんどがそれまで一般の避難所で過ごしていた方たちでした。
「臨時福祉避難所」は、いわき市社協職員、市役所支所職員、地区保健福祉センター職員、地域包括支援センター職員、保健所職員のほか、市内に残っていた介護職員等を中心としたボランティアを募集して運営しました。また、休止している病院の看護師や事業所の職員が集まってくれて、その数はのべ264人。そのおかげで日中は4人以上、夜勤も1~2人の体制でローテーションを組むことができました。
それでも他の一般の避難所には、対応が必要な要支援者はいました。そこで、いわき市社協は、臨時福祉避難所に社協で実施している訪問介護のヘルパーを派遣するとともに、ボランティア希望者への対応とマッチングを担い、一般の避難所においてもボランティアによる障害児の見守り活動等に取組みました。
http://www.city.iwaki.lg.jp/www/