清水秋恵さん
あらまし
- 患者さんと医療従事者との橋渡しを行う医療通訳ボランティアとして活躍する清水秋恵さんにお話を伺いました。
言葉が通じず不安だった
私は中国出身で、結婚を機に日本へ来ました。まだ日本語があまりうまく話せなかった頃、病院に行きました。中国で日本語の勉強をしてきていましたが、医師が話す病気や薬などの医療用語は日常会話では使わない言葉のため、わかりませんでした。どこがどんな風に具合が悪いのか自分の体調をうまく伝えることもできませんでした。とても不安だったことを覚えています。その経験から「自分と同じように不安に思う方の役に立ちたい」と医療通訳ボランティアに登録し、MICかながわが協定を結んだ病院に伺って活動をしています。当初は子どもがまだ小さかったため週1回程度の活動でしたが、時間ができた今では毎日のように活動するときもあり、重い病気の患者さんや精神科のケースも担当するようになりました。
医療通訳で大切にしていること
医療通訳をするうえで大切なのは正確性です。病気や治療のことを誤解や間違いがないように伝えなければいけません。依頼があると、しっかり現場で受け答えできるように事前に調べてから活動に臨みます。たくさんのケースを担当してきましたが、今でも日々勉強です。さらに、通訳は機械的に言葉を置き換えるだけではありません。文化の違いなど目には見えない背景を理解し、わかりやすく伝えることも心掛けています。
医療現場では、時に重く厳しい内容の通訳をすることもありますし、患者さんが感情的になることもあります。担当していた方が亡くなることもあります。医療通訳という立場ですが、人間ですから落ち込んだり、辛く悲しい気持ちになることも事実です。活動内容は個人情報なので自分の家族に相談することはできません。しかし、MICかながわのコーディネーターのサポートもありますし、定期的な研修や言語ごとのグループでの自主的な学習会や交流会など医療通訳同士が顔を合わせ経験を共有する機会もあります。仲間の存在はとても大きく、活動を続けていく中での支えになっています。
患者さんも医療現場も支える
私は、ある患者さんの検査結果が伝えられる場面に立ち会いました。結果はガンでした。患者さんは重い病名を聞き、とてもショックを受けていたので、気持ちに寄り添いながら言葉をかけ、話に耳を傾けました。落ち込んでいた患者さんでしたが、会うごとに笑顔が増え、治療がひと段落する頃に「通訳さんがいてくれたから前向きになれた。ありがとう」と言われました。そのとき「やっててよかった」と心の底から思いました。
また、産婦人科の依頼で急きょ病院に駆け付けたケースもありました。出産時に赤ちゃんが低酸素状態となり、お母さんは言葉がわからずパニックになっていました。医療従事者も困っていました。現状と今後の治療について通訳すると、やっとお母さんは落ち着くことができ、医師から「来てくれて本当に良かった」と言葉をかけられました。医療現場を支えることができたと感じた瞬間でした。
人が通訳するからこその強み
これから来日する外国人がもっと増えると、医療通訳のニーズもさらに高まってくると思います。翻訳の機械やアプリなどの技術も進歩していて、それらを活用することもメリットがあることだと思います。しかし、かつて私もそうだったように、言葉が通じず慣れない土地で病気になるというのは本当に不安なことです。そんなときに母国語を話せる人と会うことができたら、それだけでホッとできるのではないでしょうか。人と人とのふれあいの温かみがある。それこそが医療通訳ボランティアの良さであり強みではないかと感じています。
- 認定NPO法人 多言語社会リソースかながわ(MICかながわ)
- 神奈川県内の日本語を母語としない住民が、医療や公共サービスを受けるための支援をする通訳の養成・派遣を中心に活動。医療通訳の派遣先として協定を結んでいる医療機関は69病院。派遣実績は7,185件(2017年度)にのぼる。
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