取材時のDカフェの様子
「この場所は、もう、まちの人のものになっている」
「自分の物忘れについての不安が最初の参加のきっかけ」と話すのは、ひとり暮らしのAさんです。その後、Aさんは認知症ではないとの診断を受けましたが、これをきっかけに認知症に関心を持つようになりました。今は支える側として、町田市の認知症カフェ「Dカフェ」に参加しています。認知症のご主人と暮らすBさんは市の広報を見て「コーヒーは好きだし近いから一緒に行ってみよう」と夫婦で参加しはじめました。ご主人は、この場での情報をきっかけに、デイサービスなどを利用するようになりました。
柔らかな日差しと音楽、他のお客も思い思いの過ごし方をされている店内のテーブルに、立て看板が置かれ、この日のDカフェは始まりました。日々のできごと、家族それぞれの思い、葛藤や不安などが言葉になり、交わされていきます。支援者として参加しているNPO法人ひまわりの会代表・本人会議発起人の一人、まちの保健室の松本札子さんは、「一人ひとりの経験が皆の経験になればいい。この場所はそういう場所だから」と初参加の方の言葉に耳を傾けます。そして「認知症の本人も家族も自分からは認知症のことはなかなか人に言いづらい。でも、ぜひ自分の経験を隣近所の人にも伝えてほしい。理解する仲間が増えれば、支援の輪が点から面に広がり、まちはもっと住みやすくなる」と指摘します。
このスターバックス コーヒー 町田金森店でのDカフェは、今年で3年目を迎え、いまや日常の風景となっています。支援者のNPO法人ひまわりの会・まちの保健室室長、平田容子さんは、「ここは、予約もいらない、来たい時に来られる場所。たとえば私たち支援者がDカフェの開始時間に遅れてきてもここは大丈夫。不特定多数の仲間がいる。それくらい、この場所は、もう、まちの人のものになっている」と話します。
始まりは、当事者の「本物のカフェでやってみたい」から
Dカフェは、さらに遡ること1年前、平成27年から試行錯誤がされていました。この模索をふまえ、当事者の方からは「地域の本物のカフェでやってみたい」「幅広い人たちに理解してほしい」という声があがっていました。
その話を聞いた、近くの地域包括支援センターのセンター長が、同店舗のストアマネージャーの林健二さんを市の担当者に紹介。同コーヒーチェーンは、地域貢献を理念としており、各店舗でさまざまな取組みがされています。町田金森店は、高齢者福祉施設との交流や地域の清掃活動に参加しており、センター長とは交流がありました。この出会いがきっかけで「本物のカフェでやってみよう」という林さんの発案につながりました。
その後も、地域の団体等と協働して当事者の方が店員になる「注文を間違えるカフェ」などのさまざまな取組みもされています。それも、人と人とのつながりが蜘蛛の巣のように広がっていった結果、と林さんは話します。
スターバックス コーヒー 町田金森店 ストアマネージャー 林健二さん
日常の延長線上でのDカフェを
Dカフェ開始当初は、イベント的な大がかりなものを単発で実施するスタイルでした。やがて、一般の方と分け隔てなく、日常のカフェの延長線上で継続的に身近なところにある方がよいと現在の形に至りました。
林さんが「場の作用の力」を感じたできごとがあります。あるとき、Dカフェに参加の前は、「身内に認知症を知られたくない」と言っていた方が、帰るときには、「人に言ってもいいんだ」と180度気持ちが変わっていました。また、オープンスペースでの実施は、周りの方にも影響を与えます。一般のお客が、飛び入りで参加することもあります。
Dカフェを始めて林さん自身も、「認知症の方」「障がい者」という言い方に違和感を覚えるようになってくるなど、捉え方が変わってきたといいます。以前に流行した「世界に一つだけの花」という歌に例えて、「人が花だとしたら、皆が周りの花をよく見て、『きれいですね、良いですね』と共感しあえるような関係性になるといい。信頼と寛容をベースとした、誰でも豊かに認め合い許しあえる社会になれば」と林さんは期待します。
今ではDカフェは町田市内スターバックス コーヒー全8店舗に増え、3~4日に1回市内のどこかで開催される頻度となっています。また、病院が近い店舗では病院職員も参加するなど、地域ごとに個性が出てきています。「病院職員と患者の関係が、Dカフェに場所を変えると、人と人、同じコミュニティの一員になるのが面白いところ」と林さんは語ります。
~市と包括協定・これからも継続して発展・展開をしていけるように~
町田市では、このスターバックスとのDカフェだけではなく認知症の方が住みやすいまちづくりに向け、さまざまなセクターが協働して活動をしています。町田市いきいき生活部高齢者福祉課地域支援担当課長の高橋由希子さんは、「特別なことはしていない。”当事者の声”を大切にしてきた。そこに地域やさまざまなセクターの皆さんが共感・賛同してくれているのだと思う」と言います。
例えば、「認知症初期はカミングアウトしづらい」ということは、当事者会の方々とダイレクトな意見交換を重ねたなかで出されました。また、「日常のなかで、ちょっとした理解と心遣いがあれば、自分でできることもたくさんある。生活のなかでできることは自分でやっていきたい」という声もあがりました。なかには、専門職の方から「難しいのではないか」という声が出たものもありましたが、「当事者がそう言っているのだから」ということでまとまっていきました。
今年4月、町田市はスターバックス コーヒー ジャパン株式会社と改めて「認知症の人にやさしい地域づくりに関する包括的連携協定」を締結しました。今後もDカフェを安定・継続的に実施していくとともに、さらにより若い層に知ってもらうため普及啓発に力を入れていく予定です。
町田市いきいき生活部高齢者福祉課のみなさん
地域支援係 米山雅人さん 地域支援担当課長 高橋由希子さん 地域支援係 池田智子さん
町田市「認知症の人にやさしいまちづくり」の取組みの一例
https://dfshop.thebase.in/items/12105420
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当事者を中心に行政・民間・地域が協働しまちづくりが行われています。さらなる展開に期待がされます。
なるほどWord
- 認知症カフェ
・認知症の人やその家族、地域の人や専門家と相互に情報を共有しお互いを理解する場。厚生労働省・新オレンジプランにより設置が推奨されている。
・町田市では「Dカフェ(認知症を表すDementiaのD)」としている。
https://www.dementia-friendly-machida.org/