日野市内社会福祉法人ネットワーク
つながることで課題に気づき、つながりを生かして課題に取り組む~日野市内社会福祉法人ネットワーク~
掲載日:2019年9月3日
2019年8月号 連載 社会福祉法人の地域ネットワーク

 

日野市内社会福祉法人ネットワーク幹事会7法人のうちの4法人のみなさん
(左から)日野市社協総務係主査 千野裕子さん 日野市社協総務係課長補佐 山田明生さん 

友遊の家 友遊ケアセンター理事長 神田耕治さん 東京緑新会 多摩療護園園長 平井寛さん 

日野市社協会長 奥住日出男さん 夢ふうせん 工房夢ふうせん施設長 浅野大輔さん 

日野市社協事務局長 松本茂夫さん 日野市社協事務局次長 木村真理さん

 

平成28年9月に設立した東京都地域公益活動推進協議会は、(1)各法人、(2)地域(区市町村域)の連携、(3)広域(東京都全域)の連携の三層の取組みにより、社会福祉法人の「地域における公益的な取組み(以下、地域公益活動)」を推進しています。東京都地域公益活動推進協議会では、地域ネットワークの立ち上げのための事務費や、複数法人の連携事業開始時期の事業費の助成を行うとともに、地域ネットワーク関係者連絡会等を開催し、他の地域と情報交換できる機会をつくっています。

 

あらまし

  • “日野市内社会福祉法人ネットワーク”は、約1年間の準備期間を経て、平成29年2月に設立されました。
    それ以前は、一部の分野や課題ごとのネットワークはあったものの、種別を超えたつながりはなく、設立当初はお互いを知るための取組みなどに力を入れました。設立から3年目を迎えた今、その新たなつながりのなかで、新しい取組みやアイデアが生まれています。

 

 

協働での取組みから互いを、そして地域を知る

「日野市内社会福祉法人ネットワーク」の設立準備の第一歩は、障害分野の社会福祉法人立施設の現幹事二人が日野市社会福祉協議会(以下、「社協」)に「社会福祉法人のネットワークをつくろう」と声を掛けたことから始まりました。日野市には、一部の施設種別や課題ごとのつながりはありましたが、分野をまたがるものはありませんでした。以降、準備会が結成され、約1年後の平成29年2月、日野市全体の社会福祉法人立の施設・事業所のネットワークが誕生しました。

しかし、いざ取り組むとなると、「公益事業とは何をすればよいのか」という疑問の声があがり、また種別や地域によっても捉えている地域課題に違いがあることがわかりました。このことから、「まずは分野、地域ごとでも取り組みやすいところから取り組んでいこう」という方針ですすめることとしました。

 

設立1年目は、社協が地域住民等と協働して行う事業「みんなと一緒の運動会(障害者運動会)」、「災害ボランティアセンター立ち上げ訓練」、「日野市民でつくる防災・減災シンポジウム」などに、本ネットワークとして参加しました。社会福祉法人として提供できる力を地域に発信しつつ、各施設・事業所同士、また地域住民・地域団体と各施設・事業所が知り合い、協働する機会を持ちました。これらを通して、参加施設・事業所からは、「地域で暮らす障害のある方も含めさまざまな住民や団体と知り合うことができた」、「施設・事業所の種別を超えた職員のつながりができた」、福祉避難所の協定を市と締結している施設からは、「リアリティをもって地域住民を受け入れる準備を考えるきっかけになった」という声が寄せられました。地域との距離が近づき、また、種別を超えた社会福祉法人のつながりが動き出したのです。

平成30年度は、これまでの取組みに加え「日野市内社会福祉法人活用ガイドブック」の作成と配布を行いました。また、市内を4つの圏域に分けての職員同士の「地区別意見交換会」のほか、社協主催の「福祉のつどい」のなかで、本ネットワークとの共催による地域共生社会を考えるシンポジウム「食が結ぶ子どもの支援」を開催しました。

 

シンポジウム「食が結ぶ子どもの支援」の様子

 

ガイドブックは、各社会福祉法人の施設・事業所が持つ力を可視化し、地域に活用されることを目的としたものです。(社福)東京緑新会多摩療護園ではガイドブック掲載を機に、機械浴室や特殊車いすの貸出しを開始しました。するとまもなく地域住民の方から相談がありました。同園長の平井寛さんは「潜在的なニーズを感じた」と話します。また、会議室も地域活動などに活用されはじめています。

 

職員同士の「地区別意見交換会」は、共通の課題である福祉人材の定着・育成を目的に「福祉の魅力」を現場職員が言語化するというテーマで実践しました。参加者の中には「今の仕事で悩みを抱えている」という方がいましたが、その日を境に元気になり、前向きに仕事に取り組めるようになりました。参加した(社福)夢ふうせん工房夢ふうせん施設長の浅野大輔さんは「このような場で自分の仕事を改めて客観的に見つめなおすことの大切さを感じた」と言います。

 

日野市の福祉の担い手たち。「福祉の仕事の魅力」を考えました

 

動き出すと新しい取組みが生まれる

これらの取組みを経て、今、ネットワーク内では新しい取組みやアイデアが生まれてきています。そのうち、実現に向けて動き出した3つを紹介します。

(1)地域の多様な協力による高齢者の買い物の移動支援

 

地域貢献活動の具体的な取組みについて(社福)友遊の家理事長の神田耕治さんは、他地区の事例を参考に「日中空いているデイサービスの車を活用できないか」と幹事会に提案。神田さんは、南平地区の地域包括支援センターが開催する「高齢者の移動支援」をテーマとした地域ケア会議に参加し、南平地区には地区社協があったことから、地区社協・民生委員・地域包括支援センター等との協議を重ねました。車の発着場所として(社福)つくしんぼ保育園の協力も得られ、結果、隔週土曜日に高齢者の買い物支援に取り組むことになりました。現在、試行期間を終え、本格実施に向けた準備を進めています。

 

地域の多様な協力による高齢者の買い物支援の様子

 

(2)障害者の移動支援を担う人材育成

日野市では現在、障害者の「移動支援」にかかる従事者不足から、障害者がサービスを利用しにくい状況にあります。このことから「人材そのものを育てることも必要」と障害分野の施設・事業所が、連携による学生を中心とした人材の発掘と育成に取り組むことを検討しています。現在、移動支援のための研修プログラムを企画中です。
その取組みの第一歩として、市内にある大学の「地域ニーズ」の授業で、障害者本人が講師となり普段の仕事や生活の様子を伝え、学生に具体的なイメージを持ってもらうことを予定しています。

 

(3)フードパントリーの拠点
NPO法人フードバンクTAMAが検討を進めている市内のフードパントリー事業(*)において「食の中継地点は多いほうがよい」と、社会福祉法人のネットワークを活用し、複数拠点の設置を検討しています。昨年度開催したシンポジウム「食が結ぶ子どもの支援」での問題意識が、この取組みにつながっています。

(*フードパントリー事業:住民の身近な地域に「フードパントリー(食の中継点)」を設置し、生活困窮者に食料を提供すると同時に、生活状況や困りごとについて話を聞き、適切な支援機関等につなぐ。フードバンク等と連携を想定。(設置する区市町村に立ち上げ費用を東京都が補助))

 

地域の活性化がまた施設の活性化に~双方向のエンパワメントをめざして~

社協会長の奥住日出男さんは「このようなネットワークが種別を超えてできた意味は非常に大きい。社会福祉法人は社会福祉事業で多くの方が気付かないことを先取りして行っている。地域公益事業も市民にとって期待の持てる事業。多くの方に応援してほしい」と言います。

 

本ネットワークの代表幹事である多摩療護園園長の平井寛さんは、同施設利用者によるクラブ活動の披露の場がネットワークの交流により地域に広がったことで、住民も、利用者も職員も元気づけられたと話します。このことから「地域の活性化は施設の活性化にもつながっていく。地域貢献は同時に社会福祉法人本体の活動にもプラスになる。地域と施設の双方向で、さらにお互いをエンパワメントしていくような関係を目指していきたい」と話します。また、職員には、このような場を通じ「『地域の中にある施設』で働いているという実感を持ってもらいたい」と期待します。

 

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地域の法人同士、また、法人と地域が繋がっていくことで、より地域課題が見えるようになり、新たな取組みにつながっています。日野市内社会福祉法人ネットワークでは、これらをさらに相乗的に発展させ、市全体が豊かな住みやすいまちになっていくことをめざします。

 

以下のページでダウンロードできます。
https://www.hinosuke.org/modules/topics/index.php?content_id=379

取材先
名称
日野市内社会福祉法人ネットワーク
概要
(社福)日野市社会福祉協議会
https://www.hinosuke.org/
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