(社福)東京緑新会 多摩療護園
利用者と協議の上で対策をすすめる~多摩療護園~
掲載日:2020年9月15日
2020年9月号 連載

※この記事は、福祉広報2020年9月号に掲載した「連載」記事の詳細版です。

 

 

左)多摩療護園園長 平井寛さん
右)同副園長 岩谷健治さん

 

あらまし

  • 社会福祉法人東京緑新会 多摩療護園は、主に身体障害者を対象に生活介護(入所・通所)等を行い、相談支援事業所も併設する障害者支援施設です。昭和47年に都立民営方式にて開設され、平成21年に民間移譲された歴史ある施設です。

 

感染防止のための物品調達

同園では令和2年2月中旬から新型コロナウイルス感染症対策に動き始めました。副園長の岩谷健治さんは「重度・重複障害の方が多く、感染すれば重症化する可能性が高い。感染させない対策が必須だ」と言います。

 

しかし、4月中旬をピークに5月末頃まで感染予防に必要な物品が極端に手に入りにくく、その調達に追われました。マスクは、取引業者が優先してくれたものの納品が半減し、店頭での購入や妊娠中の職員が在宅勤務をする際に作るなどして数を確保し、直接・間接支援など業務内容に応じて、使い捨てと布マスクを使い分けました。消毒液は、使用場所により次亜塩素酸水などの代替品に切り替え、フェイスガードやビニールガウン等は市販の材料で自作するなどして揃え、急場をしのいできました。

 

6月以降、徐々に調達状況は改善しましたが、もし施設内で感染が発生した時に必要十分な量と種類を確実に揃えているとは言い切れない状況です。今後に向け、さらに必要な物品を備える予定です。

 

利用者間の接触を少なくする工夫

各事業ではできる対策を行った上で、利用者と家族の日常生活を守ることも重視しながら継続しています。

 

3月より、通所・入所の事業別に利用者同士の接触を避けるため、施設内の利用階を分け、動線を分離することとしました。通所事業の利用者は施設内の5階のみを利用しています。

入所事業では、3・4階が入所者の居室(個室)のある階です。入所者ごとに、居室のある階以外の移動を避け、マット運動やレクリエーションなどの日中活動プログラムも階ごとに時間をずらし、それぞれ提供するなどしてきました。

 

職員については、日中活動プログラムを担当する理学療法士等、一部の専門職や、人数の少ない夜勤帯では体制上の困難もありますが、可能な限り、対応する階を固定する体制をとっています。また職員は、毎日の検温や手指や靴裏等の消毒等に加え、5月初めから日常の行動履歴の記録も始めました。記録は自宅保管し、体調不良時の受診の判断や、万が一の感染発覚の際、行動確認等に役立てます。

 

利用者との協議のもとで対策

同園には、入所者の自治会があります。利用者と職員との月1回の定例の懇談会や定期協議会等に加え、この間、臨時の話し合いを随時持ち、対応を協議してきました。

 

緊急事態宣言中は、駅前や街なかへの外出は控えてもらう一方、近隣での散歩や買い物は職員の付き添いのもと、従来通り行えることとしました。園長の平井寛さんは「施設の立地や近隣の感染状況、職員は帰宅後に買い物に行っている事実等をふまえ、利用者にのみ不公平感を与えたり過剰に制限をかけるべきでないと判断をした。利用者の日常を守り、ストレスを減らすことも重要と考えた」と言います。

 

6月には全面的に外出を解禁したものの、感染拡大傾向となった7月からは、家族・友人との外出自粛、利用先の感染症対策の確認、マスクやフェイスガード等着用の徹底等、対策を強めています。

 

また、家族の面会のための来所は4月にいったん中止し、5月末から段階的に通常に戻しました。しかし現在は再度、時間制限等を行っています。これらの対応についても、利用者との意見交換を繰り返して方針を立て、家族にもこまめに連絡するよう努めています。

 

通所は利用人数枠を減らして実施

通所事業は、緊急事態宣言下では一日の利用人数を約半数に減らし、滞在時間も短縮しました。送迎バスの乗車人数を減らして輸送回数を増やすなど送迎ルートを見直したり、希望者の多い入浴の提供日を増やすなどの対応を行いました。また、本来の通所日に利用できない方に対しては、電話で健康状態を確認したり、相談を受けるなどしました。現時点では利用希望者はいませんが、必要な方には自宅を訪問して支援を提供する体制も考慮しています。

 

国の通知(※注)に基づき、同園の通所事業の利用者が住む日野市、八王子市、多摩市、稲城市では、事業所が感染拡大防止の観点から休業等した場合でも、利用者に対して健康管理や相談支援等、できる限りの支援の提供を行った場合、通常の利用と同等のサービス提供を行ったとして報酬対象と認められる措置がとられたため、心配された施設経営への大きな影響はありませんでした。「その分、一層、利用者へ通常どおりのサービス提供ができないことが申し訳ないと感じた」と平井さんは言います。

 

ただし、2月以来、世情を鑑み、利用するか悩みながらも現在でも感染を恐れて利用を自主的に控え続けている方もいます。重症心身障害の方や家族の感染不安など影響は非常に大きい状況です。

 

※注:令和2年4月9日厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課事務連絡「新型コロナウイルス感染症にかかる障害福祉サービス等事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて(第4報)」https://www.mhlw.go.jp/content/000650200.pdf

 

実習の受入れは断念 

同園では毎年多くの実習生を受け入れています。今年度も感染症対策のもと、学生約80名の受入れ準備をすすめていましたが、若者の感染拡大により、7月に受入れ中止を決めました。代わりに、学校2校の依頼を受け、リモートで施設を紹介する授業の実施に協力する予定です。

 

「日野市内社会福祉法人連絡会」も協力する「日野市フードパントリー」の取組み

なお、このコロナ禍において、これまで日野市内の社会福祉法人の連携ですすめてきた地域公益活動の成果も感じています。

 

日野市では、平成29年8月に、市内の約30の法人(施設)で地域課題を把握し、解決に向け連携・協力していくため、「日野市内社会福祉法人連絡会」を設立しました。多摩療護園もこの連絡会の幹事として、事務局の日野市社会福祉協議会や他法人と連携しながら情報共有や取組みをすすめています。

 

令和元年11月より、市内のNPO法人「フードバンクTAMA」との連携で、日野市の補助も受け、「日野市フードパントリー事業」を実施しています。市内在住のひとり親家庭や失業中など、経済的事情で食にお困りの方に、食品企業等から寄付を受けた食品をお渡しする事業です。「フードバンクTAMA」の事務所のほか、「夢ふうせん」、「日野市社会福祉協議会」、「多摩療護園」の3社会福祉法人の拠点に食品を詰めた段ボールを置き、必要な方が受け取りに来られたらお渡ししています。

 

特に令和2年5、6月には、親子連れやシングルマザー、高齢者などがこの事業の利用を希望し、多摩療護園に来所されました。来所された方とは、単に食品をお渡しするだけでなく、困りごとがないかお話しし、必要な場合には市や適切な相談機関につなぐようにしています。中には、一人暮らしで炊飯器を持っておらず、米の提供に躊躇される方がいるなど、それぞれの生活事情が垣間見えました。「これまで多摩療護園では、立地条件もあり、食品を受け取りに来られる方は少なかったが、コロナ禍で利用が増えた。経済的に困窮している方が増えていることを実感した」と岩谷さんは言います。

 

福祉施設が地域に必要な事業を行う意義等を感じており、今後も取組みを続けたいと考えています。

 

今後も同園では、慎重に状況を見極め、実際に感染の発生した他法人や、同種別・近隣の施設とも情報交換をしながら、利用者との話し合いのもと、マニュアルの見直しを図り、対策を徹底していく予定です。

 

同園の前に掲げられた、「日野市フードパントリー事業」の拠点であることを示すのぼり。

取材先
名称
(社福)東京緑新会 多摩療護園
概要
(社福)東京緑新会
http://www.t-ryokushin.or.jp/
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