ねりまコンビニ協働プロジェクト
カードゲーム「N-impro(ニンプロ)」を使った 認知症とともに安心して暮らせる地域づくり
掲載日:2020年3月11日
2020年3月号 TOPICS

 

「N-impro」カードゲームの様子

 

カードゲーム「N-impro」体験会

令和2年1月28日、練馬区・中村橋地域包括支援センター(以下、中村橋包括)で「N-impro(ニンプロ)体験会」が開かれました。

 

「N-impro」は、自分がコンビニ店員である想定で認知症かもしれない高齢者などへの対応を考えるカードゲームと、認知症についてのミニ講座で構成されるプログラムです。東京大学大学院、区内介護サービス事業所、区内コンビニエンスストア、練馬区の協働事業である「ねりまコンビニ協働プロジェクト」により開発されました。

 

当日は、地域で見守り活動をしている方やケアマネなど15名の参加がありました。中村橋包括の社会福祉士 島田浩美さんによる「認知症ミニ講座」で練馬区の高齢者を取り巻く状況や認知症の基礎知識、「N-impro」の目的の説明を受けた後、参加者たちは活発な意見交換をしながらゲームを楽しみました。

 

練馬区では、77%の高齢者がコンビニから300m圏内に居住しており、全国平均38%に比べて、より身近にコンビニの存在があります。「N-impro」は、コンビニ店員の高齢者への対応スキルを高めることを目的に開発されたものですが、今日ではより広がりをみせ、一般住民も含めた地域共生社会づくりに向けた取組みとしても活用されています。

 

練馬区をベースとした調査研究

「N-impro」が現在の形に至るまでには、たくさんの関係者の出会いと協働がありました。始まりは、東京大学大学院で行われた研究でした。

 

東京大学大学院医学系研究科の講師 五十嵐歩さんを中心とする健康科学・看護学専攻の研究者たちは、平成25年頃から、コンビニエンスストアにおける高齢者支援の可能性に着目し、研究をすすめていました。日本フランチャイズチェーン協会(※1)による表彰を受けた全国のコンビニへのインタビュー調査を通じ、コンビニが高齢者にとって重要な社会インフラとなっている実態と課題を把握しました。続いて、以前から親交のあった練馬区内の介護事業者と協力し、認知症の当事者と介護者、それを見守る地域のコンビニからの視点を検討するため、練馬区のコンビニ店舗にもインタビュー調査を実施しました。こうして練馬区をベースとした調査研究が始まりました。

 

研究のメンバーである東京大学大学院医学系研究科博士課程の松本博成さんは、コンビニの店長や従業員へのインタビューを振り返り「常連客のことを、本当によく見ていた。認知症だとは知らなくても、この人にはどんな手助けが必要かということを把握し、従業員の間でも共有していた。しかし、認知症特有の症状を正しく理解する機会がなく、何か起こった時にどうすればよいか、どこに相談すればよいか、といった情報を持っていないことに不安を感じているということが分かった」と言います。

 

このことから、東京大学大学院とインタビュー調査に協力した介護事業所、コンビニ経営者により「ねりまコンビニ協働プロジェクト」が組織され、地域のコンビニと地域包括支援センター(以下、包括)の専門職との連携と協働にむけた取組みが始まりました。

 

※1 日本の代表的なフランチャイザー企業等で構成する業界団体。全国のコンビニ加盟店を対象として、安全なまちづくりへの協力などについてのアンケート調査なども行っている。

 

(左から)東京大学大学院医学系研究科講師 五十嵐 歩さん、練馬区高齢施策担当部高齢者支援課 在宅療養係 久保 智子さん、東京大学大学院医学系研究科博士課程 松本 博成さん

 

「N-impro」の誕生

コンビニからのインタビュー調査回答に「小銭を出すのが難しく、いつも手伝っている」「購入商品を店員が家まで運んでいる」などの日常的な支援の様子や、「病院から抜け出してきたらしき身なりの高齢者が来店し、包括に連絡しようとしているうちに姿が見えなくなってしまった」「アルコール飲料ばかり大量に購入する心配な高齢の常連客がいる」など、対応に迷うさまざまなエピソードがありました。プロジェクトチームは、こうしたエピソードをカードゲームに再構成した「N-impro」の開発に着手しました。

 

この試みは、平成29年8月に、練馬区独立70周年記念事業「地域おこしプロジェクト」に採択されました。「ねりまコンビニ協働プロジェクト」に行政が加わり、更なる開発と普及に向けた取組みをすすめることとなりました。

 

  • 「N-impro(ニンプロ)」ってどんなゲーム?
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  • N-improは、カードとミニ講座で構成されます。コンビニで実際にあった高齢者支援のエピソードをもとに、画一的な対応方法を示すのではなく、地域の実情に合った方法や、他にもこんな選択肢がある、など議論を促す内容となっています。
    ゲームを通じて立場の違う参加者同士がお互いの経験を共有し、今後の連携に役立つ関係づくりを行えることが特徴です。
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  • ゲームのすすめ方
  • 「N-impro」は、1テーブル7名程度で行います。ファシリテーターが各テーブルに1名つき、進行役を務めます。ファシリテーターが「状況カード」を読み上げます。内容は次のようなものです。
    「あなたはコンビニアルバイトです。配食している独居高齢者のお宅。いつもはすぐ出てきてくれるが、今日はチャイムを3回も鳴らしても全く反応がない。家の電気は点いていて、鍵も開いているようだ。声をかけるためにドアを開ける?」
    これに対し、参加者はyes/noどちらかのカードを選んで裏返しにして出します。そして、ファシリテーターの合図で全員一斉にオープンします。
    結果により、多数派や1対多で少数派となった場合は「大根(1点)」カードや「おでん(3点)」カードが配られる、というゲームです。
    その後、yes/noのそれぞれのカードをどうして選んだのか、どのような状況を想定したのか、他にどのような選択肢があるか、などをみんなで話し合います。
    取材当日のテーブルでは、「アルバイトの立場では、判断がつかないのでいったん店に戻る」「大家さんや隣室を訪ねて、最近の様子を聞く」「安否確認のサービスがオプションでついていれば、室内を確認する」といった意見が飛び交いました。
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  • 参加者の声
  • ●20代女性・・・(練馬区に数年前に転入。現在は子育て奮闘中。訪問支援協力員(※2)に興味あり。)
  • 「認知症当事者が周囲にいないため、何も知らず怖いイメージを持っていた。ミニ講座では、認知症の初期症状がどのようなものか学ぶことができたが、知らなかったら気づかず無関心でいたかも。今後は街中で見かけたら、しかるべきところに連絡することができる。ゲーム中は、いろいろな立場の方の意見を聞くことができた。包括のイベントは初めてだが、高齢者に対する区のいろいろな取組みも知ることができた。」
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  • ●70代男性・・・(昨年、訪問支援協力員を知り、登録。同世代の男性が地域で活躍できる場が広がればと思っている。)
  • 「自分も年を重ねていくなか、周囲が高齢者を当たり前のこととして見守る環境があると知ることができて安心感をもった。年齢に関係なく楽しめるので、職場や学校などで開催し、リタイア前後のこれから地域に密接に関わる世代や、小中学生などにも広めていってほしい。」
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  • ※2 練馬区「ひとり暮らし高齢者等訪問支援事業」で見守りを行う登録制の区民ボランティア
    https://www.city.nerima.tokyo.jp/hokenfukushi/koreisha/hitori/029789621.html

 

顔の見える関係づくり

プロジェクトでは、包括からコンビニへの効果的なアプローチ方法を探るため、中村橋包括の担当地域をモデル地域と位置づけました。プロジェクトメンバーは、区と「練馬区高齢者見守りネットワーク事業協定」(※3)を締結しているコンビニチェーン2社に働きかけ、包括の職員とともに地域内の9店舗を1軒1軒廻りインタビュー調査を依頼しました。

 

インタビューすること自体が「顔の見える関係づくり」にも役立ちました。実際に店舗で発生した事例について詳しく聞き取り、支援が必要だと思われる場合には包括に連絡があれば対応できる、ということを専門職の立場から伝えることもできました。また、インタビュー後も関係を継続していくためのニュースレター(N-impro新聞)も作成しました。これは、包括の職員が定期的に直接届けることで、コンビニ訪問をしやすくするツールでもあり、高齢者対応の基礎知識やコンビニからの連絡で支援につながった事例紹介、イベント告知などを掲載しています。

 

五十嵐さんは「インタビューや体験会を重ね、関係が構築されるにつれ、コンビニから包括への連絡や相談が増加している。包括による定期的な見守りや介護保険サービスの導入、当事者の家族との情報共有につながった事例も報告されている。練馬区全体での活動が本格化した平成30年度以降、他の自治体と比較して練馬区のコンビニが包括と連携した割合が高まっていることも調査で明らかになった。今後も連絡回数の推移や対応状況を継続して把握していく」と言います。

 

※3 ひとり暮らしの高齢者などを地域で見守ることを目的とし、練馬区が民間事業者や団体との間で結ぶ協定
https://www.city.nerima.tokyo.jp/hokenfukushi/koreisha/nichijo/mimamorikyoutei.html

 

地域に広がる「N-impro」

平成30年度までの「地域おこしプロジェクト」の間、「N-impro」は、体験会参加者からの意見を取り入れ、改良が重ねられてきました。今年度は、区の事業として引き継がれ、普及に向けた体験会や、各種イベント内での体験など、4月から12月までにすでに45回開催され、コンビニ関係者だけでなく地域住民延べ約830名が参加しています。

 

「N-impro」体験会を開催するにはN-improリーダー養成研修を修了したN-improリーダーによる運営が必要です。区内の各包括には1名以上の研修修了者が在籍しており、開催要望があった場合に中心となって運営します。包括職員以外にも、事業所のケアマネ、認知症家族会やサロン運営関係者など合わせて約150名の方がこれまでに養成研修を修了しました。

 

参加者はコンビニ関係者だけでなく、民生児童委員や地域で高齢者に対応する機会のある方が町会などで開催したり、訪問支援協力員の集まりや包括を受託する法人の研修、区民が主催する高校生向けの認知症サポーター養成講座、図書館イベントなど、さまざまな地域住民の集まりの場でも活用され、広がりを見せています。

 

練馬区高齢施策担当部高齢者支援課在宅療養係の久保智子さんは、「ゲームという形をとることで、いろいろな立場の方がすぐに打ち解けて活発に意見を言うことができる。自分とは違う立場・職業からの視点も知ることができる。高校生が参加した際には、率直な意見がでて盛り上がった。このゲームを通じて地域のいろいろな方がつながる場となり、認知症に対する理解を深められる。高齢者が安心して買い物し、暮らしていける地域社会の形成につなげていきたい」と言います。

 

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学術機関からコンビニと介護事業所、包括へ、そして区の事業を通して地域の住民へ。地域共生の担い手の輪が広がっています。

 

  • 「N-impro」についてのお問合せ
    練馬区 高齢施策担当部
    高齢者支援課 在宅療養係
    電話:03-5984-4597
取材先
名称
ねりまコンビニ協働プロジェクト
概要
ねりまコンビニ協働プロジェクト
https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/kuseisanka/kyodosuisin/chiikiokosiproject/project_zisshi/happyoukai.html
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