※この記事は、福祉広報2020年8月号に掲載した「連載」記事の詳細版です。
あらまし
- 株式会社やさしい手(以下、やさしい手)は、在宅介護サービスを中心に事業を展開しています。
- 4月、新型コロナウイルスが感染拡大する中、「ご利用者の生活を守るため、事業を継続しなければならない」との使命感をもって会社として介護サービスを継続する方針を打ち出しました。
感染症対策
新型コロナウイルスは飛沫や接触による感染が考えられることから、まず、安全にサービス提供を行えるよう、感染防止のための備品を確実に準備しました。全ての事業所にマスク、消毒液を設置し、訪問時に使うアイゴーグル、シューズカバーなどの備品を早めに用意しました。
4月上旬、新型コロナウイルス感染症への対策について、本社で対応フローや手順をまとめたマニュアルを作成し、各地域の支社長を通じて全職員に周知しました。マニュアルの内容や研修、連絡事項については、1千人近くいるヘルパーに配布している端末に内蔵されているシステム内の会社からのお知らせ機能や、少人数で集まる会議を通して伝達し、対応の統一を図っています。
それぞれの不安
緊急事態宣言期間中、ご利用者からは「外に出るのが不安」「感染したら家に来てもらえないのではないか」といった声が聞かれました。
また、ご利用者が多数の人に接触する不安から、サービスの利用を控え、ご家族自身が面倒を見るケースも多くなったと言います。やさしい手が運営しているサービス付き高齢者住宅では、4月の初めから入館制限を行い、代わりにZoomによる面会を始めました。「オンラインのニーズの高まりと遠方のご家族も面会できることから受け入れてもらいやすかった」と総合サポート部 後藤俊介さんは言います。
職員からは「公共交通機関を利用した通勤が不安」といった声があがりました。また、小さい子どもがいるヘルパーは休むことも多くなり、代わりに他の職員やサービスで対応していたと言います。
サービスの工夫
緊急事態宣言期間のサービスの利用状況について「掃除、買い物代行といった訪問介護の生活援助サービスやデイサービスは利用控えがあった一方で、日常生活に不可欠な身体介護サービスのニーズは変わらなかった」と後藤さんは言います。
やさしい手では、サービスの利用回数が減ったり、休止した場合でもご利用者の生活の質を守るため、サービスの振替や工夫をしました。例えば、デイサービスを休止した人には訪問介護への振替を提案したり、オンラインでの体操の配信を始めたりしました。総合サポート部 笠原幸江さんは「パソコンやスマートフォンを持っていないご利用者にはタブレットを貸し出した。持っているご利用者含め、職員が自宅に伺って直接説明した。また、当日にも電話した上で参加してもらった。職員が自宅に伺い、一緒に操作したことで、ご利用者にとってはオンラインでの参加に対するハードルは下がったのではないか」と言います。
また、多くの病院が外来診察を中止していたことから、ご利用者に体調変化があった場合に備え、在宅医療の連携を強化しました。総合サポート部 及川真由美さんは「緊急事態宣言期間中38℃台の熱を出されたご利用者がいたが、在宅医療の先生に相談し、入院につながった。サービスの振替の提案などを工夫したことで、ご利用者の安心・安全を守ることができたのではないか」と振り返ります。
サービス担当者会議をオンラインで開催
やさしい手では、3月頃から関係者が直接集まってのカンファレンスが難しくなったため、Zoomによるオンライン会議を導入しています。4月には全職員がZoomを活用し始めました。
そして、ホームページで、サービス担当者会議をオンラインで実施した様子を紹介する動画を公開しています。「コロナ禍で介護サービスが止まるのではないかといったご利用者、ご家族、関係者の不安を取り除き、今まで通りのサービスを届けていることを伝えるために、動画を公開した」と後藤さんは語ります。
ホームページには「コロナ対策ページ」を設置し、右記動画や「Q&Aよくあるお問合せ」、「各拠点の取組み事例」などを掲載しています。「各拠点の取組み事例」は濃厚接触者や感染疑いのあるご利用者、職員が発生した際の事例を各事業所が図にまとめて掲載し、情報の公開を心がけています。無症状の感染者もいることから、14日間遡って公表しています。
ホームページに掲載されているZoomによるサービス担当者会議の動画
職員の勤務形態
本社オフィスについて、いわゆる3密を避け、ソーシャルディスタンスを保つために、従来の密集したデスクの配置をやめ、会議室をなくし、職員同士の間隔をとれるようにしました。在宅勤務は、事業継続のため本社の機能を止めてはいけないとのことから、必要最低限の範囲で行いました。
37.5℃以上の発熱があった場合は休むよう職員に伝えています。それ以下で発熱があった職員については、本人と体調を相談しながら在宅勤務命令を出す場合もありました。ヘルパーが在宅勤務をする際は、職員に配布している端末を通じて加算要件などの勉強やご利用者の観察状況の確認など、事前に決めておいた業務を行いました。
今後に向けて
「このような状況でも感染症対策を行った上でサービスを継続していることで、ご利用者からは信頼してもらえていると感じている」と後藤さんは話します。
今後に向けて、後藤さんは「第2波が来ることを前提に毎朝職員の発熱管理をするなど、今行っている早期発見・早期区分といった対策を継続したい。また、地域ごとにあるPCR検査が可能な医療機関など新型コロナウイルス感染症に関する膨大な情報を人の手で管理していくことには限界があると思うので、それを整理し、社内で活用できるシステムの開発を検討している」と語ります。
https://www.yasashiite.com/