合同会社Renovate Japan
家と仕事に困っている人と共に空き家を改修し、安心できる時間と空間を提供
掲載日:2021年11月30日
2021年11月号 明日の福祉を切り拓く

合同会社Renovate Japan代表

甲斐 隆之

 

あらまし

  • 甲斐隆之さんは、令和2年に空き家を活用したソーシャルビジネスをスタートさせました。「誰もが生きやすい社会」をめざし、相対的貧困、偏見や差別、空き家の問題の解決に向けた事業に取り組んでいます。

 

制度の狭間にいる人を支援したい

私は母子家庭で育ちました。遺族年金などのセーフティネットがあったので、生活水準をある程度保ちながら生活することができたと思います。

 

今の活動につながるきっかけとなったのは、大学2年生の時に受けた授業でした。その授業は、海外の児童労働や日本のホームレスなど、表立って報道されていないけれど解決されていない世界の問題を取り上げたドキュメンタリーを見て議論するものでした。授業を受けて「自分は母子家庭だったけれど、努力できる環境が準備されていた」ことに気づきました。そして「ともすれば、セーフティネットがなかったり、制度の狭間にいたりして努力したくてもできない環境にあったかもしれない。世の中にはそのような環境にある人や地域がまだまだたくさんあるのだ」と自分の経験と関連づけて強く感じました。「自分が受けた恩恵を還元しないといけない。制度を整え、その狭間にいる人に届く支援をしたい」と思いました。そのため、大学院を卒業後、公共政策に関わるシンクタンクの仕事に就きました。

 

仕事をする中で、公共政策には限界があると感じました。以前、街を歩いていた時に犬を連れたホームレスの方を見かけた時のエピソードです。ふと、「その方が犬と一緒にシェルター(ホームレス緊急一時宿泊施設)に入りたいと思ってもそれが可能なシェルターがあるのだろうか」と疑問に思いました。一方で公共政策の観点からすると、それを許可した場合不平等が生じてしまうので、全員に対して提供できる場所や予算を確保しなければなりません。政策では一人ひとりの細かな事情に対応するには限界があり、結局はそのような方が制度の間に抜け落ちてしまうことになります。もし、民間の事業者だったらそのような縛りはなく活動できると思いました。ではどうやって場所を提供するかと考えた時、空き家問題と絡めて解決できるのではないかと思い、起業することにしました。

 

Renovate Japanのしくみ

まず、空き家を大家さんから借りて、スタッフがDIYで一部屋ずつ改修を始めます。その後、家と仕事に困っている方をアルバイトとして雇い、改修済みの部屋に一時的な住まいとして住んでもらいながら、ほかの部屋の改修を手伝ってもらいます。私たちはこの方々をリノベーターと呼んでいます。手伝ってもらった分は当社から賃金を支払います。アルバイト付きシェルターのようなイメージです。彼らに数週間~数か月の短期間、生活を立て直すための時間と空間を提供するのです。リノベーターは住み込みの期間お金を貯め、スタッフも相談にのりながら次のステップへ向けて準備をすすめることになります。改修後の物件は、誰もが住めるシェアハウスとして貸し出しています。

 

現在は1軒目の改修が終わり、運営スタッフを含め4人が住んでいます。2軒目の改修にも取り掛かっています。

 

リノベーターは、つながりのある、若者の支援団体からの紹介が多いため、20代が中心となっています。

 

改修する物件はどこも大家さんがこの取組みに理解を示してくれています。

 

全国にこのしくみが広がると良い

私たちは小さな団体なので、できることには限界があると感じています。そのため、このコンセプトやしくみを全国に広めたいという思いが強くあります。やり方を真似したり、派生した取組みをしてくださったりする方が各地で増えると良いなと思います。実際に真似したいと言ってくださっている方もいるので、これからどのようにこの方々を支援するか考えていく予定です。

 

よく「改修した後は福祉的な建物として使わないのか」との質問をもらいます。私たちとしては、このしくみは「基本的には助成金などに頼らず、改修した物件できちんと収益を生み出すことで、その収益を使って次に改修する物件でリノベーターが生活を立て直すための時間と空間を生み出している」と考えています。完成後の物件の家賃収入が、次の物件の改修費用やリノベーターの人件費となり、それが循環していくしくみです。私たちは完成後の物件をシェアハウスとして運営していますが、助成金を使って福祉的な施設として運営する方法もあると思いますし、活用方法はさまざまあって良いと思います。

 

私は、貧困問題ともう一つ、多様性社会にも関心を持っています。現在、外国人や性的少数者の方等、賃貸契約に本来は関係ないことが理由で家を借りにくい方々がいます。改修した後の物件はそのような差別なく、誰もが住める物件であってほしいと思います。そして、そうした物件であることを発信していくことも今の状況に一石を投じる意味で重要だと考えています。

 

完成した物件(シェアハウス)の様子

 

プロフィール

  • 甲斐 隆之 Kai Takayuki
    合同会社Renovate Japan代表
  • 大学の授業をきっかけに、社会保障制度を整え、制度の狭間にいる人を支援したいとの思いを持つ。大学院を卒業後、公共政策のコンサルティング等を行うシンクタンクへ就職。その後、家と仕事に困っている人に対し、一時的な住居と空き家の改修に参加することで得られる収入を提供する事業を起業し、取り組んでいる。
取材先
名称
合同会社Renovate Japan
概要
合同会社Renovate Japan
https://renovatejapan.com/
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