医師焼き芋
焼き芋で地域とつながり、まちの人たちと一緒に健やかな暮らしをつくっていく
掲載日:2024年2月8日
2024年2月号 TOPICS

医師焼き芋 代表 平沼仁実さん

 

診察室ではつくれない健康づくりのために

国分寺市が行う協働事業「こくぶんじカレッジ(以下、こくカレ)」から誕生したプロジェクト「医師焼き芋」は、2023年12月で活動開始から2周年を迎えました。医師焼き芋代表の平沼仁実さんは、普段は国分寺市にあるクリニックで勤務するまちのお医者さん(家庭医)です。「クリニックで働く中で、病気や障害の有無だけでは、人の健康・不健康は計れないと感じていた。医師の仕事は病気の治療・予防だが、診察室ではつくれない健康がある。もっと広い意味でまちの人の健康に貢献したいという思いがずっとあった」と、平沼さんは言います。そんな思いが、「医師や看護師が診察室から飛び出し、『芋』と『お節介』を焼く」というコンセプトにつながり、こくカレでさまざまな業界の人と出会ったことで、医師焼き芋のプロジェクトとして実現しました。

 

焼き芋を介して広がっていくコミュニケーション

医師焼き芋は、医師や看護師、ヨガのインストラクターなどが集まって焼き芋を販売しながら、地域の人たちと交流する場をつくっています。地域のイベントなどに参加する形で、焼き芋を買いに来たお客さんと雑談をしつつ、暮らしの中で健康や介護の悩みを抱える人の相談に乗ることもあります。活動は不定期で、概ねイベントの主催側から声がかかった時に開催しています。拠点はなく活動場所は限定していませんが、国分寺市内のパン屋の窯で芋を焼いてもらっているため、焼き芋を運べる場所が活動範囲です。

 

なぜ〝焼き芋〟にしたのか。始まりは広告業界で働くプロジェクトメンバーの発想からだといいます。「『石』と『医師』をかけた、要は〝ダジャレ〟だが、子どもからお年寄りまでお芋が好きな人は多くて、人を選ばず気軽に買える焼き芋は、コミュニケーションの入り口に適していると思った」と、平沼さんは話します。

 

医師焼き芋は一年を通して活動しているため、夏は芋の供給量が少なく、なかなか活動ができない時期もありました。暑い日には冷やし焼き芋を販売したりと、工夫して活動を続けてきました。

 

医療関係者と患者ではなく一緒に楽しめる関係をめざして

活動を開始した当初は、焼き芋の販売だけでなく、医療関係者が〝健康相談〟を行うことを前面に押し出して広報を行っていました。そのような呼びかけで集まった人は、必然的に、真剣に健康問題で悩んでいる人が多くなり、診察室で問診をするのと変わらない状況になってしまったといいます。しかしメンバーには、医療関係者と患者ではなく、〝人〟として出会い、みんなが楽しめる場所をつくりたいという思いがありました。そこで活動のスタンスを考え直し、まずはただの焼き芋屋として周知し、相談したい方がいれば話を聞くという方向性に変えたといいます。そうすることで、相談したいことがなくてもふらっと立ち寄るお客さんが増え、焼き芋を売る人と買う人として対等なコミュニケーションができるようになり、メンバーも活動を楽しめるようになりました。現在は、メンバー共通の姿勢として、その場で問題の解決をめざすのではなく、雑談をする中で一緒に何ができるかを考えていく、ということを大切にしています。

 

メンバーはお揃いのエプロンを着て焼き芋を販売している

 

焼き芋を買ったお客さんが雑談や相談をできるスペース

 

まちと医療を身近にする医師焼き芋

このプロジェクトは、地域の中で医療との接点を病院以外につくることができる場にもなっています。平沼さんは、クリニックの患者が家庭の問題などで悩んでいると、「今度焼き芋を売るからおいで」と声をかけるようになりました。さらに、病院嫌いの患者さんが『焼き芋を買うだけなら』と、医師焼き芋に来てくれることもあったといいます。平沼さんは「クリニックと医師焼き芋という、地域との関わりの場を2つ持ったことで、診察や治療以外のプライベートの困りごともゆっくり聞けるようになった。地域の人がクリニックと医師焼き芋を行き来してくれるのが嬉しい」と、この活動だからこその成果を実感しています。また、地域の人からも「医師焼き芋を通して医師や看護師が身近になり、まちの中に安心して相談できる場所ができたのがありがたい」という声が聞かれています。

 

〝楽しい〟で生まれるプラスのエネルギーを地域に広げる

芋の仕入れや、医師焼き芋のロゴやキャラクターのデザインは、こくカレで出会ったメンバーや知り合いからつながった人に依頼をしているといいます。プロジェクト立ち上げからこれまでを振り返り、「私が持っていた漠然としたビジョンをこうして形にできたのは、多くの人との出会いがあったから。戦略など何もなかったが、結果的に、アイディアを持った人や力を貸してくれる人が周りに集まってくれた」と、平沼さんは話します。

 

今後もプロジェクトを長く続けていくために、〝無理しない〟ことを意識しています。なるべく義務感が出ないよう、メンバーとはミーティングなどで集まることはなく、共有などは会った時に雑談を交えてするようにしているといいます。平沼さんは「メンバーにとっても、来たいと思った時にふらっと来られるような場でありたい。その時できる人ができることをやって、楽しんで活動することで、その〝楽しい〟で生まれるプラスのエネルギーが地域にも広がっていったら良い」と言います。

 

医師焼き芋は、これからも焼き芋を介してさまざまな人とつながり、みんなが楽しめる活動を続けていくことで、まちの人の健康をつくっていきます。

 

 

ロゴとキャラクターの「Dr.焼き芋」

取材先
名称
医師焼き芋
概要
医師焼き芋
https://dr-yakiimo.mystrikingly.com/
タグ
関連特設ページ