社会福祉法人しあわせ会 白州いずみの家
支援スタッフ・支援リーダー 田邊 謙一さん
あらまし
- 山梨県北杜市にある障害者支援施設「白州いずみの家」で働いて4年目になる田邊謙一さんに、現在のお仕事に就くまでの経緯や利用者の方々との関わりへの思い等について、伺いました。
人との出会いで現在の仕事へ
高校を卒業した後上京し、音響の専門学校に入学しました。吉祥寺にあるアパレルの店舗でアルバイトをし、卒業後はそのまま社員となり、25歳まで働きました。その頃、当時のカフェブームの影響を受け、「30代前半には自分の店を持ちたい」と夢を抱きました。飲食業の経験も積むため、地元の山梨県富士吉田市に帰り、イタリアンとフレンチのレストランで3年間ずつ修行をしました。料理の世界は体育会系で、「あの経験に比べれば何事も大したことない」と思えるほど過酷な日々を過ごしました。
音響を学んだことは仕事には結びつきませんでしたが、20代から趣味で音楽イベントの開催を続けていました。30歳の時、イベントのお客さんに誘われて出会ったクライミングに、どっぷりはまりました。ジムに通い、野外の山の岩肌を登ることにも魅了されました。クライミングに没頭するため、精神的にも時間的にもプライベートと完全に切り替えられる仕事として、清掃業に転職しました。
クライミングを通じて仲良くなった人の中に、現在の職場の上司がいました。人間的な魅力あふれる方で、僕の人柄や接客業の経験を買い、仕事に誘ってくれました。障害のある方と接した経験はありませんでしたが「この人がいる職場なら」と思いました。クライミングに適した岩が多くある北杜市や近隣の甲府市の環境にも惹かれ、37歳だった平成29年に、白州いずみの家に入職しました。
「仲良くなる」ことを目標に
白州いずみの家は、昭和62年に開設した、定員30人と最小規模の入所施設です。いわゆる「都外施設」で、利用者の9割が都内出身です。利用者は日中、屋内と屋外に分かれて活動しています。屋内では織物や木工などの作業、屋外では山に入って木を伐り、薪をつくるなど、この環境ならではの活動も行っています。
初めは、福祉や障害のある方への支援の知識はありませんでした。実際、仕事を始める前の施設見学の際、精神疾患のある方にきつい言葉をかけられたことには衝撃を受けました。でも僕は、どんな仕事に就いた時にも、お客さんや同僚とまず「仲良くなる」ことを目標にしてきました。そのため、まずは友だちとして、仲間として、家族として、利用者の方たちと仲良くなろう、楽しんで生活しよう、と思いました。今は支援スタッフとしての専門的な距離感も知っていますが、「仲良くする」気持ちは、これからもずっと大切にしたいと思っています。
利用者の人間的な魅力に惹かれる
施設見学の時、ダウン症の方に名前を聞かれ、「紙に書いて」と言われて渡しました。勤務開始日に名前を呼んでくれ、友だちのように優しく接してもらったことが忘れられません。その後、彼のケース担当になり、さらに関係が深まりました。担当を交代する際、彼のお母さんが「あなたがいてくれて良かった」と言ってくださったことも印象的で、今でも仕事に向かう原動力になっています。
利用者の方たちは、喜怒哀楽の感情表現が豊かで、一緒にいたいと思わせる魅力にあふれています。かつての職場では、厳しい人間関係で大変な思いをしたこともあります。利用者さんに接していると「これでいいんだよ」と言われているようで、こうありたいと思う毎日です。
怖がらずに柔軟な気持ちで
福祉の仕事は未経験でしたが、研修に積極的に参加し、専門知識を身に付けるよう努力しています。自閉症の方の特性の一つである「同一性の保持」の知識を学んだ時には「自分にも譲れないこだわりはあるな」と、利用者さんへの共感を覚えました。支援方法に迷うこともありますが、毎月のケース会議で話し合い、スタッフに助言をもらって学んでいます。
利用者には高齢に差し掛かった方も多いですが、年齢に関わらずその方の良いところを引き出したい、興味を持てることを増やしたいと思っています。一方で、若く活発で行動障害がある方もおり、限られたスタッフでどう双方に充実した支援を提供できるかは目下の課題です。
福祉の仕事は全国どこでも必要とされています。白州いずみの家はとても良い施設なのでぜひ訪ねてください。まずは障害のある方をむやみに怖がらず、また専門知識で頭でっかちになるのでもなく、人として柔軟に関わってほしいです。そうすればきっと利用者さんに魅せられ、楽しく長く働けると思っています。
田邊さんが一緒に暮らすペットの猫
http://www.eps4.comlink.ne.jp/~izumi-ie/