毎週土曜日に行っている初級日本語教室の様子
NPO法人ASIAN COMMUNITY TAKASHIMADAIRA(以下、高島平ACT。代表理事 爲房裕一郎さん)…東京都板橋区にある高島平二丁目、三丁目団地で、外国籍住民とともに、地域で多様性と柔軟性を持ったコミュニティを築くことを目的に、団地内で日本語教室などの活動を行っている。
高島平団地は、賃貸住宅が約8千200戸、分譲住宅が約2千戸の大規模団地で、1972年より入居が始まりました。
高島平ACTは、高島平二丁目、三丁目団地に外国籍住民が増加する中で、日本人住民との共生や相互理解を目的に、2011年に設立されました。設立からしばらくは、日本語教室や多文化講座、クリスマス会、外国籍住民を対象にした相談活動などを行っていました。2014年~2017年には、高齢者や外国籍住民のくつろぎの場として、団地内の商店街にコミュニティスペースをオープンしました。
その後、本格的な活動は一時休止していましたが、日本語教室と外国籍住民の相談活動は継続して実施していました。2020年に再始動し、現在は、外国籍住民を含む4名の運営メンバーを中心に、三丁目団地の集会所で、これまでの日本語教室や多文化講座の開催に加えて、スマホ講座なども行っています。
住民たちが持つ力を発揮してもらいたい
日本語教室は、毎週土曜日に開催しています。主に団地に住む高齢者が講師となり、5~6名の外国籍住民に初級日本語支援をしています。学生ボランティアが講師として活動に参加することもあります。
高島平ACT理事の吉成勝男さんは「高齢者は、日本で生活するために必要な言葉を教えるだけでなく、長年の経験や知識も伝えられている。高齢者が持つ力を発揮することができ、役割が生まれる」と言います。さらに「日本語教室に参加した中国人女性から『日本を訪れて日本人とこれほど近くで親しく話をしたのは初めて』と言われたことがあり、とても印象に残っている」と話します。
多文化講座は、板橋区の職員や大学教授らを招き、地域の高齢化や多文化化などをテーマにしています。
スマホ講座では、外国籍住民が講師となり、高齢者にスマホの初歩的な使い方を丁寧に教えています。団地の外国籍住民の中には、ITエンジニアの方もおり、毎回好評だといいます。吉成さんは「外国籍住民にも持っている力がある。スマホ講座が、彼らが持つ力を発揮できる一歩となったら良い。ゆくゆくは、コミュニティをつくる担い手になってくれたら嬉しい」と言います。
外国籍住民と日本人住民、双方向の関係性が広がってほしい
高島平三丁目団地自治会の役員も務めている吉成さんは「高島平ACTの活動を続ける中で、日本人住民の外国籍住民に対する偏見などの否定的な感情と、外国籍住民の『日本人は自分たちのことを受け入れてくれない』といった感情の間に『距離』や『すれ違い』を感じることがあった」と言います。例えば、団地内で粗大ごみの不法投棄が問題になると「外国人が捨てたに違いない」と、決めつけてしまう住民が以前は少なくありませんでした。しかし、徐々に「日本人でもいろいろな人がいるから」といった声があがることも多くなってきたといいます。「団地内での地道な活動でも、続けていくことで少しずつ意識が変わってきている。日本語教室やスマホ講座等での交流を通じて、日本人住民と外国籍住民が近くで接すると、『助ける・助けられる』関係が生まれ、地域コミュニティを良くすることができると確信している」と、吉成さんは話します。
また、自治会との連携が欠かせませんが、外国籍住民との交流や関係性づくりをすすめる中での課題もあります。日本人の現役世代や若い世代と同じように、外国籍住民も、昼間は働いていたり、ほかに良い土地があれば引っ越したりするため、自治会に参加することへの関心は薄いといいます。しかし、吉成さんは「一時的なつながりや引っ越しなどで入れ替わりがあるとしても、同じ地域の住民としてコミュニティの結束性をどう維持していけるか、考えていく必要がある。住民たちそれぞれの思いを調整して、多くの人が自分たちの力を発揮できるようにしていくことが大切」と、団地での活動の役割を語ります。そして「いつか、自治会役員のメンバーに外国籍住民も入ってくれるような地域になっていってほしい」と期待しています。
今後の活動について
高島平ACTでは、高齢者に向けて、「相続」や「金銭管理」といった金融をテーマにした講座を開催することを計画しています。また、外国籍住民の中には、中国籍の方も多くいます。両親が中国人で、日本で生活する場合は、子どもは日本語と中国語が話せることが多いですが、日本人と中国人の親を持つ子どもは、どうしても日本語中心の生活となり、中国語や中国の文化が分からないといった状況になることがあります。そのような家庭に向けて、子どもには親などが中国語を教え、親には団地の高齢者が日本語を教える教室の開催も検討しています。吉成さんは「試験的にさまざまなイベントを実施してみて、興味を持ってもらえたものや評判の良かったものをさらにより良いものにしていきたい」と、今後の活動について話します。
大勢の住民が一堂に集まることが難しい状況ですが、オンライン会議ツールを併用しながら、感染症対策をしっかりと行った上で、さまざまなイベントを企画していく予定です。
さらに、ほかのNPO法人とも連携し、海外の文化や音楽を紹介する活動や場をつくることも構想しています。「私たちと同じように団地の中で外国籍住民との関係づくりに悩んでいる団体や、すでに先駆的な取組みをしているNPO法人とも交流をしていけたら」と、連携を活かした活動への期待を話します。
誰もが参加しやすいコミュニティをめざす
「高島平団地という、限られた小さな地域でも、『多様性』を受け入れたり、『寛容さ』を持ってさまざまな住民や文化と接したりすることが大切。この地域でのコミュニティを継続させ、外国籍住民が入りやすいコミュニティをつくっていきたいと思っている。そうすることで、高齢者などの日本人住民にも刺激となり、地域の活性化にもつながる」と、吉成さんは、外国籍住民の力と一緒に地域コミュニティをつくりあげていくことの大切さを話します。
スマホ講座の様子。
日本語教室を受講している外国籍の生徒が高齢者にスマホの操作方法を教える
多文化講座の様子。
司会を務めるのは、高島平ACT運営メンバーの李さん
http://act-takashimadaira.tokyo/