江戸川みんなの防災プロジェクト(EMINBO)
みんなが主役となり、災害に強い地域をつくる
掲載日:2022年6月9日
2022年6月号 TOPICS

大規模水害などの災害リスクに備える市民による防災プロジェクト

江戸川みんなの防災プロジェクト(EMINBO)は、江戸川区東部地区の瑞江を拠点とする自立生活センターSTEPえどがわのスタッフや区民有志が「災害時、誰一人取り残されないための防災」の輪を広げることを目的として、2018年に立ち上げたボランティアグループです。

 

主なメンバーは、障害当事者をはじめ、防災や建設のコンサルタント、福祉や医療の専門職です。メンバーでSTEPえどがわ事務局長の土屋峰和さんは「ヘルパーを派遣する事業者であると同時に、江戸川区で暮らす一人の車いす利用者として、水害時にどうしたらいいのか、何ができるのかを考えている」と話します。

 

EMINBOでは「みんなが助かる、みんなで助ける」をコンセプトに、防災について楽しく学び、交流できる場づくりや、防災ツールの開発・普及、障害当事者による広域避難検証などに取り組んでいます。プロジェクトマネージャーの高橋聖子さんは「地域には多様な人がいて、災害の影響もさまざま。災害時の困難さを知る当事者や当事者に近い人たちの意見を聞きながら、『みんなが助かること』を願う人を増やしていきたい」と取組みのねらいを話します。

 

広域避難や避難生活をめぐる課題

江戸川区を含む東京東部は海抜ゼロメートル地帯です。台風や豪雨などにより荒川や江戸川が氾濫した場合、ほとんどの地域で浸水し、2週間以上水が引かない地域もあると想定されています。そのため、墨田・江東・葛飾・足立・江戸川の各区で構成する江東5区広域避難推進協議会は、巨大台風の接近など水害の危険性が高まることが予想される場合には、あらかじめリスクの高い地域から安全な地域に移動する早期の広域避難などを呼びかけています。

 

東日本を中心に甚大な被害をもたらした令和元年台風19号が接近した際、STEPえどがわでは練習も兼ねて広域避難を検討しましたが、三連休の初日だったため避難先が確保できず断念したといいます。メンバーでSTEPえどがわ介護事業責任者の市川裕美さんは「避難をしようにも課題が多く、自宅に留まらざるを得ない人も多かった」と振り返ります。

 

たとえ建物の上階に垂直避難ができたとしても、浸水が長期間にわたればその間は自宅で「籠城」することになります。ライフラインの状況が見通せない中、水や食料の備蓄が大量に必要になるだけでなく、ヘルパーの派遣も困難になることが予想されます。それは、日常的にヘルパーを利用している当事者にとって生活が成り立たないことを意味します。こうした点も大きな課題です。

 

発災を想定した広域避難訓練を実施

これらの状況をふまえ、EMINBOではSTEPえどがわを中心に、車いす利用者の広域避難の実際を検証してみることにしました。発災時を想定し、リフト付き車両ルートと公共交通機関ルートに6人ずつ分かれ、山梨県内のバリアフリーペンションへ向かいました。その結果、特に公共交通機関の移動において、窓口での車いす指定席の購入に時間がかかることや、車いすスペースの狭さ、利用人数制限などさまざまな課題があることが分かりました。

 

参加したメンバーの星野渉さんは「半分旅行気分で出発しながらも、実際には広域避難のルートを辿っており、楽しみつつ防災について学び、具体的な課題が見えてきた」と話します。検証結果や課題は区の所管課と共有していますが、まだ具体的な動きにはつながっていないといいます。

 

EMINBOの議長で、STEPえどがわ代表の今村登さんは「『水害時にここにいてはいけない』というその先をどうするか。当事者だけでは解決できないし、行政も簡単には答えが出せない。行政に対して何とかしてということではなく、自分たちも一緒に考えていきたいと働きかけているが、なかなか連携できていない」と現状について話します。大規模水害時の事前対策にはまだ課題が多いことから、22年6月に50人規模の広域避難訓練を予定しています。

 

市民の主体的な取組みを後押しする

EMINBOが当初から実施している「防災ふらっとカフェ」は、気軽に防災について語り、地域で顔をつないでいく取組みです。こうした場では障害を前面に出さずとも、ファシリテーターを障害当事者のメンバーが担うことで、自然と関わりが出てくるといいます。今村さんは「『障害者のために』ではなく、『みんなが助かる』の中に障害者がいるのを忘れないでね、という感じ」と関わりのスタンスを説明します。

 

カフェは単独開催のほか、子育てサークルや精神障害の事業所等を運営する社会福祉法人、助産師会、ろう者協会など、さまざまな団体と協働実施してきました。これまでの取組みを通じて、市民の防災行動を阻害する要因の理解や、防災ツールの作成、区内のネットワーク構築などがすすんできたといいます。今後はカフェの主体的な担い手を増やし、EMINBOは企画のサポート等の伴走支援に力を入れていくといいます。

 

20年からは、自らの防災対策を他の人に伝える「防災アンバサダー」を増やす取組みにも着手しました。高橋さんは「大事なのは一緒に何かをやること。新型コロナが収まったらさらに広げていきたい」と話します。

今村さんは「この活動を通していろいろな人と地元でつながりができた。行政も一緒になって、インクルーシブをキーワードに、より具体的で実効性のある防災対策に取り組みたい」と今後の展望を語ります。

 

 

 

2019年の広域避難訓練の様子

 

 

防災ふらっとカフェで地域のつながりをつくる

取材先
名称
江戸川みんなの防災プロジェクト(EMINBO)
概要
江戸川みんなの防災プロジェクト(EMINBO)
http://edomb.wp.xdomain.jp/about/summary
タグ
関連特設ページ