東京都文京区/平成29年3月現在
東京都文京区では、東日本大震災以降に都心部としての特性をふまえた要配慮者支援対策のため、さまざまな取組みを独自にすすめてきました。
文京区では、関係機関とともに検討を重ねながら、主に次のようなことに取組んできています。
1 | 4つの大学と『母子(妊産婦・乳児)救護所の提供に関する協定』の締結 | 平成24年度 |
2 | 『文京区避難所運営ガイドライン』の策定に伴い、一般避難所に「要配慮者専用スペース」を位置づけ | 平成25年度 |
3 | 『文京区介護サービス事業者(居宅・通所・施設)BCPマニュアル作成ガイドライン』の策定(文京区介護サービス事業者災害対策検討会) | 平成26年度 |
4 | 「文京区災害時要配慮者対策・福祉避難所検討会」の設置 | 平成26年度~ |
5 | 「災害時母子救護所訓練」の実施 | 平成26年度~ |
6 | 『福祉避難所設置・運営マニュアル』の作成 | 平成27年度 |
7 | 『文京区避難行動要支援者避難支援プラン』の策定 | 平成27年度 |
8 | 「福祉避難所開設運営訓練(高齢者施設)」の実施 | 平成27年度~ |
9 | 「福祉避難所開設運営訓練(障害者施設)」の実施 | 平成28年度~ |
10 | 「文京区介護施設従事職員住宅費補助」の実施 | 平成28年度~ |
都心部での災害時要配慮者のニーズと供給のリスクは?
東京23区の中心部。皇居の北側に位置する文京区の人口は約20万人。地域特性として坂道などの高低差が大きい街並みとなっています。そして近年、ひとり暮らしの高齢者が多くなっていますが、マンションなどの新たな建設に伴い新規住民が増えており、町会・自治会等との関係が日ごろから築けていないと、発災時には区民が相互に協力して避難支援ができないおそれがあります。
平成25年6月の「災害対策基本法」の改正に伴い、同年8月には内閣府から「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」が示されています。これを受けて、文京区では平成28年3月に『文京区避難行動要支援者避難支援プラン』をまとめ、そこでは以下の2つの「名簿」を作成することにしました。
この「同意方式名簿」は、名簿にある情報の外部提供に同意するとともに要配慮者本人が安否確認してもらう人を指定する方式ですが、文京区ではその「同意」が約20%にとどまっています。背景に都市部では個人情報が共有されることを敬遠する意識が高いことがあります。そうした現状にはあっても、文京区総務部防災課主査の池田征央さんは、「割合は低いが、始めたばかりの制度でいきなり高い割合であるより、高齢者あんしん相談センター(地域包括支援センター)等を通じて、少しずつ理解を広げていくことが大切と考えている」と話します。それは、区民に必要性を理解してもらった上での実質的な同意を広げようとするものです。
文京区の町会加入率はおおむね60%です。マンションと町会の関係づくりはどこの地域でも難しい課題になります。文京区では、小地域の『地区防災計画』において「支援マップづくり」をすすめるなど、さまざまなアプローチを通じて、都心部における要配慮者の避難支援の課題を解消していこうとしています。
(2)復旧期(4日目以降)に想定されるリスク
避難支援後の復旧期における課題は、災害により増大する要配慮者のニーズに応じて避難場所と人材の供給をいかに確保できるかです。これは、都心部をはじめとする大都市では深刻な課題です。
その一つには「都心部では入所機能をもつ福祉施設が少ない」という実態があります。区では、平成26年度から「文京区災害時要配慮者対策・福祉避難所検討会」を設置して、こうした課題への対策を検討してきました。文京区福祉部福祉政策課主査の内宮純一さん
は、「『緊急入所』と『福祉避難所』の2つが考えられるが、そもそも現状でも特別養護老人ホームのほとんどが満床の状態。災害時に増大するニーズに対して介護保険制度による緊急入所で対応するには限界がある。おそらく災害救助法による福祉避難所で対応していかざるをえないという認識に至った」と、検討会での議論をふり返ります。
さらに、災害時の人材の供給にも課題があります。それは都心部では家賃が高く、「福祉施設の職員が近隣に住んでいない」という実態です。内宮さんは「福祉避難所開設運営訓練でも、施設から5キロ圏内に居住する職員は少なかった。福祉施設の職員が参集できるかが課題となる。災害時の人材確保がうまくいかないと、それは震災関連死のリスクが高くなることにつながりかねない」と危惧します。また、「事業所の復旧に時間を要することも考えられ、サービスが止まり日常生活の回復が遅れることで、要配慮者のADLが低下することが懸念される」と話します。
そして、内宮さんは「訪問介護事業所も通所介護事業所も、過去に実施したアンケートでは、『災害発生時には要配慮者への支援に協力したい』という意向は持っているものの、実際にどれぐらい稼働できるかはわからない。供給力を確保するためには、各事業所のBCP(事業継続計画)を整えていくことが必要。特に都市部では、福祉避難所を増やしていくことにも限界がある。BCPなどによる『減災』の視点でニーズを拡大させないことが重要になるだろう」と話します。
左から)文京区福祉部福祉政策課主査 内宮純一さん
福祉部福祉政策課高齢者施設担当 磯野光孝さん
総務部防災課主査 池田征央さん
福祉部介護保険課介護保険相談係長 髙橋宏之さん
福祉部介護保険課介護保険相談係 木村真梨子さん
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