特別養護老人ホーム今井苑(右から)
副施設長 岸田全史さん ケアマネジャー 石岡康宏さん
社会福祉法人は「地域における公益的な取組」(以下、地域公益活動)が、社会福祉法第24条第2項で責務として定められています。しかし、コロナ禍でその地域公益活動の内容も変化しています。
今号では、新型コロナの感染拡大を受け、継続可能な活動に切り替えた施設の事例を紹介します。
施設の中から施設の外へ
青梅市にある特別養護老人ホーム今井苑では、コロナ禍前は、施設や近隣の市民センターで地域公益活動を行っていました。例えば、とろみ食やきざみ食などの試食会や感染症対策講座、防災訓練等といった体験型のプログラムです。また、施設として自治会に加入しており、地域の資源回収活動に参加するなど、地域と関係を築いています。
しかし、新型コロナの感染が拡大する中で、これまで行ってきた地域公益活動は軒並み中止せざるを得ませんでした。
活動停止から半年が経とうとする頃、「このまま何もしないのではなく、やれることからやろう」との意見が施設の中であがりました。
そのような中、「青梅の玄関口である近くの青梅インター付近にゴミがたくさん落ちている」との声が聞かれました。副施設長の岸田全史さんは「特養の地域公益活動というと『介護』に関することというのが頭にあった。しかし、コロナ禍で施設内へ人を呼べない中、まずは初歩的な活動として地域に出て、清掃活動を行ってみよう、との話になった」と振り返ります。「施設の中で人が集まる取組み」から「施設の外に出て行く取組み」へ視点を変えたのです。
清掃活動を2年以上続け、社会福祉法人のイメージアップへ
清掃活動の目的や期待は3つあります。継続的な清掃活動を行うことでゴミを捨てにくい環境をつくること、清掃活動の賛同者が増えること、高齢者福祉業界のイメージアップにつながることです。
2020年12月から活動を始め、月に1回、1時間行っています。40分ほどのルートを2~3設定し、月ごとに順番にまわっています。
今井苑の職員は、中心となって活動する職員3人のほか、栄養士や事務職、介護職員などが職種を超えて参加しています。無理なく参加できるように、シフトや本来の業務に影響がない範囲で調整しています。
また、実施にあたっては、青梅市社協を通じてボランティアを募集しました。すると、地域の方が1人、大学生が3人集まりました。毎回5~6人で、お揃いのビブスを着てゴミ拾いを行っています。
岸田さんと共に、中心的に活動しているケアマネジャーの石岡康宏さんは「世間から見ると、社会福祉法人は何をやっている団体か分かりにくいと思う。ビブスを着て、良い意味で目立つ活動をすることで、福祉業界は地域に貢献する活動も行っていることを知ってほしいというねらいもある」と話します。
活動を続ける中で、目に見えて綺麗になっていくことや、その結果ゴミが捨てられにくくなったことが、モチベーションとなりました。清掃活動を行った場所が綺麗になると、ゴミが落ちている他の場所を市のリサイクル清掃課に問い合わせしました。雑草でゴミが見えづらい場所を連絡して刈ってもらう等、市役所とも連携しています。また、青梅インター付近の長寿会(※)の花壇がコロナ禍により、管理が行き届かないこともあり、清掃活動の合間にその手入れも可能な限り実施しました。
現在まで2年ほど活動を続けたことで、青梅市より「環境衛生・美化優良団体」として感謝状が贈呈されました。施設内でも活動が定着してきています。
清掃活動から生まれた新たなつながりの可能性
これまで地域公益活動として行っていた介護座談会等では、今井苑は「先生役」となることが多くありました。しかし、清掃活動ではボランティアで参加する市民と同じ目的を持って活動することで、対等な関係で接することができました。
岸田さんは「参加している大学生は福祉系の学部ではなく、清掃活動のボランティアに興味があって来られた。これまでは福祉に興味がある人や携わっている人しか関わることがなかったが、今回の活動を通じて新たな交流の入口が築けた」と話します。
石岡さんは「この活動を通して、ゴミ拾いや清掃などの『場』をボランティアに提供できたことが貢献の一つなのかなと思った」と話します。
今後、コロナ禍が落ち着いた時には、今井苑の行事に参加したいという大学生の声も聞かれています。また、自治会や市内の法人にも声をかけ、この清掃活動を広げていくことも考えています。
(※)青梅市内各地区の高齢者が自主的に組織した団体(高齢者クラブ)のこと。本文の長寿会は今井長寿会を指す。
ゴミ拾いの様子
揃いのビブスの後ろには今井苑の文字とロゴが書かれている
清掃活動を行っているメンバー
http://seihou-kai.jp/imaien/