(左から)日野市社会福祉協議会 日野市ボランティア・センター 係長 宮崎雅也さん
豊田第一自主防災隊 山口晶子さん
あらまし
- 今回は「つながりをつくる」という視点から、日野市社会福祉協議会による防災を切り口にした地域における取組みを、「課題解決」の視点から、自治会活動をベースにした避難所運営の取組みや個別避難計画作成に関わる取組みを紹介します。
防災を切り口に地域活動を展開
日野市ボランティア・センター(VC)では、2009年頃からさまざまな防災・減災活動に取り組んできました。
地域における防災教育としては、楽しみながら防災の知識を身につけられる「イザ!カエルキャラバン!」(※1)のほか、防災組織や小中学校でDIG(災害図上訓練)やHUG(避難所運営ゲーム)等を実施しています。また、東日本大震災を教訓に市民や市内の福祉関係者・学識経験者が防災・減災の取組みについて話し合う「みんなでつくる日野の防災プロジェクト」を立ち上げ、「日野市民でつくる防災・減災シンポジウム」(※2)を毎年開催し、今では市民が中心となり企画から運営まで行っています。近年では災害時要配慮者支援に関するヒアリングやワークショップも行っています。
日野市VCの宮崎雅也さんは「普段行っている地域活動の延長線上に防災があると考え取り組んできた。『イザ!カエルキャラバン!』などの活動が口コミで広がって、市民から防災に関する相談や依頼がVCに入ってくるようになった」と振り返ります。
地域の防災組織で小学校の校長先生と顔を合わせたことがきっかけで、防災に関する連続講座の開催につながった例もあります。現在、日野第三小学校では5年生の総合的な学習の時間で、災害時に自分たちができることについて学んでいます。講座では防災について学ぶだけではなく、地域共生社会や災害時要配慮者の視点を取り入れています。小学校の近隣にある重症心身障害児と医療的ケア児を対象にした事業所の利用者とスタッフを招き、児童と交流する機会なども設けました。防災と福祉を分離せず、防災を切り口にしながら自然と福祉的な要素も学べるように工夫しています。
小学校での授業の様子。「NPO法人ゆめのめ」による講話と車いす体験を実施した
台風の経験をふまえ、避難所運営マニュアルを整備
日野市VCでは、自治会等の地縁組織にも継続的に関わっています。JR豊田駅の南側に位置し、市内を流れる浅川に面した豊田地域もその一つです。
令和元年台風19号では、市内17か所の避難所に最大8600人が避難しました。豊田地域では豊田小学校が避難所として開設されました。
運営に携わった豊田第一自主防災隊の山口晶子さんは、「運営マニュアルや指揮命令系統もなく、集まった住民が周りの状況を確認し、とっさに判断して対応した」と当時の状況を語ります。
17〜18年度に豊田第一自治会の会長を務めていた山口さんは、市主催の女性防災リーダー養成講座で防災活動に熱心に取り組む他地域の住民や宮崎さんとつながり、自治会活動として防災講座や危険箇所を知るウォークラリー、災害時安否確認訓練等を実施してきました。近隣の豊田第二、第三、第四自治会にも声をかけながら活動を継続し、現在に至ります。
令和元年台風19号の後、山口さんたちは避難所運営について振り返りを行いました。運営に関わった人をはじめ、避難してきた人の声を集めて記録に残すとともに、共有する場を持ちました。
その後、市の防災安全課や学校とも調整の上、避難所運営で共に汗を流した豊田第一~第四自治会を軸に、避難所運営マニュアルの策定に取り掛かりました。災害時の対応はケースバイケースなのでマニュアルは不要という意見もありましたが、誰が最初に避難所に来ても対応できるように整備することにしました。
マニュアル案に沿って訓練を行った後、グループワークをして気づいた点をまとめ、修正点をマニュアルに反映していきました。現在は、避難所運営スタッフの役割ごとに、やるべきことをA4サイズ1枚程度に収めた差し替え式のマニュアルとしてまとまっています。また、初動対応をスムーズに行うための初動ボックスも設置しました。
避難所開設訓練で部屋割りについて確認する
個別避難計画作成はプロセス重視で
山口さんは22年度から市の臨時職員として、避難行動要支援者を対象とした個別避難計画の作成にも携わっています。職員を公募していることを知った宮崎さんが山口さんに声をかけたそうです。宮崎さんは「個別避難計画は、普段の地域活動の延長上でマッチングしていかないと生きてこない。その意味で、地域で避難所運営の取組みにも関わり、要配慮者にも理解がある山口さんは適任だと思った」と経緯を話します。
個別避難計画の作成が必要と思われる方から話し合いを始めているという山口さんは、「計画作成を機に、ご家族で防災について話し合うきっかけにしてもらえたらという思いですすめている。計画作成にあたって必要なことはシートに盛り込んであるので、それを『どうしようか』と話し合うことで防災意識が芽生えてくる。ご本人やご家族の意向はもちろん、ケアマネジャーや医療関係者の話も聞きながら、最終的にはご本人やご家族とで決めていっていただくことをめざしている」と言います。そして「計画をつくるプロセスが最も大切。作成後も状況によってはもちろん更新されることもある」と、計画作成がゴールではなく、計画作成を通して普段から防災について話し合い、必要に応じてメンテナンスをしていくことが大事な点であると強調します。
宮崎さんは、「普段のつながりがあるからこそ、お互いに人となりが分かり、声をかけることができる。防災・減災はみんなに関わりがあることなので、それに取り組むことは地域福祉活動だと捉え、これからも当たり前の活動を続けていきたい」と話します。
訓練で気づいた点をマニュアルに反映させていく
(※1)地域の防災プログラムとおもちゃの交換会を組み合わせた防災イベント。NPO法人プラス・アーツが2005年から普及活動を行っている。
(※2)2022年9月~10月に開催した「日野市民でつくる防災・減災シンポジウム2022」のアーカイブ放送をYouTubeで配信中。
https://hinosuke.org/