あらまし
- 「地域を知る、災害を知る」「つながりをつくる」「課題を解決する」という視点で事例を紹介してきた本連載は、今回が最終回です。これまでの事例を振り返りながら、多様な団体や個人が平時や災害時に連携・協働するための指針「市民協働 東京憲章」についてお伝えします。
「東京憲章」の作成経緯
100年前の9月1日、関東大震災が発生し、10万人を超える方が家屋の倒潰や火災で亡くなりました。こうした過去の痛ましい災害を繰り返さないよう、私たちは、改めて自分自身を含め一人ひとりの「いのち」と「くらし」をどのように守れるか、考えなければなりません。
首都直下地震や江東5区大規模水害などの想定されている大規模災害は被害が甚大で、私たち市民にできることは限られていると感じてしまいます。しかし、何もできないわけではありません。自助はもちろんのこと、多様な人や多様な団体が平時から手を取り合い、つながることによって、被害を減らすことができます。
「災害時のための市民協働 東京憲章」(以下、東京憲章)はこうした認識の下、平時や災害時に多様な団体や個人が連携・協働するための指針として東京ボランティア・市民活動センター(TVAC)が事務局となり、多様な団体とともに作成しました(※)。
東京憲章の「2つの視点」
東京憲章には大切にしたい「2つの視点」があります。
①多様性
1つ目は多様性です。東京には多様な人、多様な価値観やくらしがあります。この一人ひとりがもつ多様性を災害時という厳しい状況だからこそ、尊重し合える関係をつくっていくことが大事だと考えています。「こんな大変な時にあなただけ配慮できない」「みんな大変だから我慢してくれ」。過去には避難所でこうした言葉をかけられてショックだった、避難所にいたら死んでしまうと思った、などの声もありました。「外国人が暴動を起こしている」というデマが流れたり、路上生活者を避難所に入れるな、という声が出たり、子どもたちの遊びは我慢させるしかない、という意見が出ることもありました。こうした事態を繰り返さないため、市民一人ひとりが多様性を意識できるような防災・減災の取組みが非常に重要です。
品川区(連載第2回)での防災まちあるきの事例では、ベビーカーの子どもと親、聴覚障害者、外国人など多様な方が一緒に街を歩く取組みが紹介されています。また、江東区(第3回)での事例では車椅子ユーザーや視覚障害者、聴覚障害者などと一緒にワークショップを企画する中で「一人ひとりが対話すること」の重要性を訴えています。さらに、中野区鷺宮西住宅(第6回)では外国籍住民と顔の見える関係を築き、互いを理解することの大切さを強調しています。多様性とは、多様である一人ひとりの尊厳を尊重することにほかなりません。多様な人たちと同じ時間を過ごし、対話し、交流し、理解しあうことこそが、尊厳の多様さに気づく一歩ではないでしょうか。
②平時からの取組み
2つ目は「平時からの取組み」です。災害が起きた後はできることが限られてしまいます。平時にできていないことは、もちろん災害時にもできません。逆に、平時にできていることは、災害時にもできる可能性があります。東京憲章では「平時にある様々な格差や差別、社会構造の中に被害を拡大させる要因があると考え、そこにアプローチしていくことで、災害時の様々な困難を少なくします」と記載されています。
災害が起きたときに一番被害の影響を受けやすい人は社会の中で弱い立場にある人たちです。東日本大震災や熊本地震では多くの方が「震災関連死」として亡くなりました。炊き出しが食べられない、困っていても相談できない、トイレを我慢して身体を壊すなど、配慮が必要な方々へ配慮がされない事態が起きてしまいました。配慮が必要な方が近くにいても気づかなかったり、気づいても声がかけられなかったりしたのかもしれません。
首都直下地震時には最大で300万人が避難者になることが想定されています。先のような状況を生み出さないためには、普段から地域や社会の中でつながりを増やし、お互いに声をかけあい、心配しあったり、励ましたりできる関係をつくっておくことがとても重要です。
国立市(第1回)では緩やかなつながりの中で「ここに来たら防災について聞いたり話したりすることができる」場所づくりを心掛け、平時から防災に触れられる工夫を行っていました。日野市(第4回)や八王子市(第5回)の取組みでは、個別避難計画をすすめる中で、普段のつながりがあるからこそ災害時にも声をかけることができる、と私たちに訴えています。
災害時に突然、さまざまな配慮ができるようになったり、声がかけられるようになったりすることはありません。まさに平時からの関係性が災害時に浮き彫りになります。
平時・災害時 共通の基本方針
東京憲章では先の2つの視点に基づいた「平時・災害時 共通の基本方針」を定めています。項目だけご紹介します。
①被災者一人ひとりの尊厳を尊重します。
②支援や配慮が必要な方々に寄り添い、「いのち」と「くらし」を、みんなで支えます。
③支援者は、情報を交換し、ともに支援活動に取り組みます。
④支援者となる方々へのサポートも重要な支援の一つとして取り組みます。
⑤過去の被災の教訓から学び、平時・災害時の活動に活かします。
2019年の台風をきっかけに、地域レベルでの取組みに加え、自治体のエリアを超えて連携・協働をすすめる動きも出てきています(第7回)。TVACでは、福祉施設・事業者、相談支援機関、民生児童委員、当事者団体、町会・自治会、ボランティア・市民活動団体、企業、その他さまざまな団体や市民一人ひとりと共に多様な団体・人の連携・協働による防災・減災の取組みをすすめていきたいと考えています。
※「市民協働 東京憲章」は、東京都災害ボランティアセンターアクションプラン推進会議の取組みの1つとして、多様な団体によるワーキング・グループで作成しました。
https://www.tvac.or.jp/