あらまし
- 厚生労働省(※1)によれば、2020年度の心中以外の虐待死において0歳児が全体の約65%と最も多く、そのうち0歳0か月が半数を占めています。その背景には、実母の養育困難や育児不安、産後うつのほか、「妊婦健診・乳幼児健診の未受診」や「予期しない妊娠」などの妊娠期・周産期の問題が明らかになりました。特定妊婦(※2)等を対象とした妊娠期からの支援体制の強化は喫緊の課題であり、17年「新しい社会的養育ビジョン」では、「妊娠期から出産後の母子を継続的に支援する社会的養育体制の整備」の必要性が言及されています。
求められる産前産後支援
「母子生活支援施設リフレここのえ」は、DV被害や養育困難等多様な背景の母子が利用しています。20世帯を入所定員とし、安心して母子が暮らせる場の提供から、生活支援、就労・法的手続き支援など世帯に寄り添った支援を展開してきました。
新たに、19年から緊急一時保護事業(※3)を活用して特定妊婦を対象に産前産後支援「Sun・Sun・Smileプログラム」をスタートしました。施設長の横井義広さんはその経緯について、「他県施設の取組みを見聞きして、刺激を受けた。支援ニーズや母子生活支援施設への社会的期待に加え、施設機能・経営強化も視野に17年頃から取り組むことを考え始めた」と話します。
母子生活支援施設が取り組む意義
施設長と職員2名のプロジェクトを立ち上げ、検討をすすめる一方、医療機関でない生活支援施設で妊娠期から受け入れることに不安や反対などさまざまな声がありました。助産師や妊産婦支援に取り組む婦人保護施設関係者より妊娠・出産の基礎知識や緊急時の対応等の講習を受けながら、職員間で母子生活支援施設として産前産後支援を行う理由を繰り返し考えたといいます。
プロジェクトメンバーであり母子支援員の流石理沙さんは「各講師から受けた『多くの人に抱っこされた子どもは幸せになる』『医療的なことは基本をおさえ、何より安心して産める環境をつくることが大切』などの言葉は、私たちを後押しした。周産期に携わる不安を和らげ、支援の役割・意義を自覚することにつながった」と振り返ります。「母子生活支援施設として一緒に育てる」ことを支援の根幹とし、受入れ病院の確保や助産師との契約、マニュアル策定等、受入れ環境の整備をすすめていきました。
お母さんに寄り添い、安心を
19年4月から産前産後支援を始め、4ケースを受け入れてきました。緊急一時保護事業を契約している区市からの依頼を受け、保健センターや母子父子自立支援員、施設職員などによる関係者会議でのアセスメントを経て、産前産後支援の利用に至ります。DV被害や経済的困窮、若年など利用者をとりまく状況はさまざまで、必要に応じて関係機関と連携し、出産後の見立てについてもあわせて検討をしていきます。
受入れ後は、職員全員が関わり妊娠期から出産後までの健康管理や生活支援、育児支援など、世帯に応じた柔軟な支援を行っています。流石さんは「妊娠期から一緒に健診に行ったり、生まれてくる赤ちゃんの名前を考えたりと家族同様の関わりをすることで『私たちも出産を楽しみに待っている』ということがお母さんにも伝わっているのでは。安心して産める環境を提供し、お母さんに寄り添いながら支援できることが、医療施設ではなく母子生活支援施設で取り組む意義だと思う」と支援を通じて実感しています。退所後もアフターケアとして支援を継続し、交流会等で母子に会えることも職員のやりがいにつながっています。
求められる産前産後支援をめざして
現在も支援のあり方を模索し続けており、課題の一つとして取組みの周知があるといいます。横井さんは「妊娠葛藤相談と居住支援を行っているNPO法人から利用につながったことがあった。より社会ニーズに応える産前産後支援を考える上で、地域で妊産婦に対して取り組む民間団体等とつながっていくことが大切になる」と今後を話します。
Sun・Sun・Smileプログラムの始動から4年。母子生活支援施設としてさまざまな母子を支援してきたことを強みに、リフレここのえはより良い産前産後支援の形をめざし続けています。
(※1)子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第18次報告)
(※2)出産後の子どもの養育について出産前より支援が特に必要と認められる妊婦
(※3)母子世帯や単身女性で緊急の事情により住むところがない方を対象に、一時的な住居の提供や生活相談など実施