あらまし
- 福祉分野では、種別を問わず、人材確保難が続いています。多くの施設・事業所では、職員採用にあたって人材紹介会社や派遣会社に頼らざるを得ない状況です。特に、人材紹介会社の利用をめぐっては、紹介手数料や職業紹介の条件について、トラブルも報告されています。
- 今号では、2023年2月に都道府県労働局に設置された相談窓口に寄せられている声と、介護分野の人材確保等の状況についてお伝えします。
◆国が求人者向け特別相談窓口を設置
「職業紹介」とは、求人および求職の申込みを受け、求人者と求職者間の雇用関係の成立をあっせんする制度です。有料と無料の職業紹介事業があり、どちらも厚生労働大臣の許可がないと、事業を行うことはできません。許可された職業紹介事業者が法令を遵守して業務にあたることが前提である一方で、紹介手数料などの職業紹介の条件等に関するトラブルが起きており、対策の検討がすすめられてきています。
図 職業紹介制度
(厚生労働省ホームページをもとに作成)
この間、主に求人や職業紹介等について定めている「職業安定法」の改正や関係指針の改定など、職業紹介事業者への規制は、福祉分野に限らず行われてきました。23年2月には、都道府県労働局に「『医療・介護・保育』求人者向け特別相談窓口」が設置されました。この窓口では、医師・看護師などの医療従事者や介護従事者、保育士などの採用にあたって、人材紹介会社を利用し、トラブルが発生した際の相談を受け付けています。東京労働局需給調整事業部需給調整事業第二課課長補佐の竹内典子さんは「『紹介手数料が高い』『紹介された人材が早期に退職してしまう』『この請求は違反ではないのか』など、さまざまな相談が寄せられている。内容に応じて情報提供や適切な窓口の案内をするほか、違反が確認された場合には適正に指導をしていく」と話します。
また、この窓口は、実際にトラブルが発生した時だけでなく、人材紹介会社とのやりとりにおいて、分からないことや不安なことの問い合わせも受けています。「『この会社が言っていることは本当?』などの心配事も寄せていただきたい。トラブルを未然に防ぐための正しいルールをお伝えできる」と、竹内さんは窓口の役割について話します。東京労働局では、人材紹介会社への指導監督を適切に実施するとともに「医療・介護・保育分野における適正な職業紹介事業者の認定制度」を周知するなどして、「有料職業紹介事業のさらなる透明化」などの対応にも力を入れています。
東京労働局需給調整事業部
需給調整事業第二課課長補佐
竹内典子さん
◆介護分野での人材確保と定着の状況
東京都高齢者福祉施設協議会(高齢協)の人材対策委員会では、派遣・紹介職員について、「特養における介護職員・人材確保状況に関する調査報告」を22年12月に公表しています。
この調査によると、高齢協会員の特別養護老人ホーム510施設のうち、回答が有効な302施設(分析可能率59・2%)で、21年中に新卒を採用した施設は44・4%で、中途採用を行った施設は78・5%と、半数以上の施設で新卒を採用できておらず、派遣職員等に頼らざるを得ない状況がうかがえます。また、人材派遣・紹介会社を利用する目的として「募集をしても応募がないため」と回答した施設は71・9%。利用する上でのリスクについては、「直接雇用に比べてコストが高くなる」が79・1%、次いで「短期間で退職してしまう」が53・3%となっています。
至誠ホームミンナ園長で、人材対策委員会の委員長を務める諏訪逸さんは「調査からは、採用目標人数や施設規模を考慮していないため、充足状況などのより詳しい現状は見えてこない。しかし、多くの施設が人材確保難の状況で、派遣会社や人材紹介会社を利用せざるを得ないことは明らか」と言います。しかし「人材紹介会社等の利用に頼りすぎることは、自法人における採用に関するノウハウが蓄積されず、施設のPR方法などの工夫をしなくなる恐れもある」と危惧しています。
また、職員が離職しない職場づくりに取り組み続ける必要性にも触れ、「厳しい人員体制の中でも離職者が少ない施設はある。給与や処遇面での課題は引き続きあるが、職場の風通しの良さや明確なキャリアパスなど、職員一人ひとりが働きがいを持ち、高いモチベーションを維持できる環境の整備も求められている」と、諏訪さんは話します。
本調査で、人材の確保・定着をすすめるための取組みについて、60・9%の施設が「法人・施設の存在感のさらなるアピール(情報発信・認知度アップ)」が必要と感じています。諏訪さんは「福祉を学んでいない人や小学生、中学生を含めた若い世代にどうアピールしていくのか具体的な検討が必要。あわせて、人材の定着については各施設の取組みを参考にしながらすすめていく。この調査も、採用状況の厳しさや、増え続ける派遣・人材紹介会社への費用などをより具体的に示せる内容に見直し、さらには、職員不足により人員基準を満たせず、事業規模を縮小せざるを得ない施設もあるといった現状も訴えていく材料にしていきたい」と、人材対策委員会の今後の展開についても話します。
社会福祉法人至誠学舎立川
至誠ホームミンナ 園長 諏訪逸さん
(高齢協 人材対策委員会 委員長)
◆意思疎通をして、求める人材像を共有する
より良い人材確保のために、人材紹介会社等と施設側双方ができることは何かを考えていくことが求められます。諏訪さんは「人材紹介会社等には、法人や施設の事業内容を事前にリサーチしてもらいたい。一方で、我々も自分たちがどのような事業を行っていて、どんな強みがあるのか、そして求めている人材像を具体的に伝えることが大切だと思う」と言います。「この部分を丁寧に行うことで、マッチングの不具合等による早期退職を防止し、採用側からも『また紹介してほしい』と思う機会が増え、双方に信頼関係が生まれると考えている」と続けます。
竹内さんも「日々忙しい中では、人材紹介会社・施設がコミュニケーションに時間を割くことは難しいかもしれない。しかし、施設側は、ほしい人材のイメージを確定させた上で、どのような人を今求めているのかをしっかりと人材紹介会社に伝えきり、両者が共通認識を持つことが大切」と、意思疎通の重要性を話します。また、求人をする際は「業務内容や賃金などの求人条件に加えて、施設の特徴や雰囲気、職員の声を載せるなど、求職者が情報を見ただけで、職場環境や求められる仕事の内容がイメージできるとやはり良い」と言います。
そして、人材紹介会社等の利用にあたっては、「まず許可を受けている会社かどうかを確認することが第一。その上で、どんなサービスが受けられるのか、料金はどのような設定になっているのかを確認すること。この認識が両者でずれていることがトラブルにつながる一要因。人材紹介会社はこれらの内容を明示することが決められているため、万が一説明がない場合に要求するのは正当。そのほか、会社のホームページを確認したり、相談窓口を活用したりしていただきたい」と強調します。
https://www.mhlw.go.jp/content/001048695.pdf
人材総合サービスサイト
https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/JinzaiWeb/GICB101010.do?action=initDisp&screenId=GICB101010
医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度
https://www.jesra.or.jp/tekiseinintei/
東京都高齢者福祉施設協議会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/bukai/kourei/