丘咲 つぐみさん
あらまし
- 丘咲つぐみさんは、当事者としての立場から虐待を受けながらも生き抜いた〝虐待サバイバー〟に向けて必要な支援を行うほか、社会に対してその実態や支援の必要性を提起し続けています。
◆虐待から生き抜いた一人として、支援する日をめざして
子ども時代に虐待を受けながらもなんとか生き抜いて大人になった〝虐待サバイバー〟。虐待から逃れた後も、複雑性PTSDや摂食障害などさまざまなかたちでその後の人生も大きく影響を受け、生きづらさを抱えている人が多く存在します。私自身もまた、周囲に虐待を気づかれることや置かれている状況に疑問も抱かずにただ生き抜いてきた一人であり、心身ともに一番辛かった30歳の頃に、虐待サバイバーへの支援の必要性を強く感じました。
当時は精神疾患や摂食障害が深刻だったほか、脊髄の難病により車いすにも乗れず寝たきりの状態で過ごす時期が多くありました。そんな私が子どもを一人で育てながら、社会でどう生きていったらいいのか。とにかく情報を集め、母子世帯向けの貸付や生活保護などに頼りながらギリギリのところを生き延びていました。その一方で、自分はなんとか制度や支援に行き着くことができたけれど、虐待で心に深い傷のある人がこうした一連の手続きを自力で行うにはあまりにもしんどく、酷だなと思いました。いつか自分の状態を回復できたら、支援者として虐待防止や被害者支援に取り組みたい。そんな思いを胸に、その後、税理士になり生活を安定させながら、支援する日に向けて走り続けてきました。
◆児童虐待防止に向けて私が取り組むべきこと
2018年の「児童虐待ゼロ協会」発足から、22年に一般社団法人「Onara」の設立に至る4年間は、資格もない自分が、どこに焦点を当てて活動していくべきなのかを模索する日々でした。地域で見守り活動をしてみたり、子ども食堂に関わってみたりなど探り探りだったと思います。そのような中、活動の原点であった問題意識に立ち返りながら、同じ虐待サバイバーでも児童養護施設や里親家庭などの社会的養護に至るかどうかで受けられる支援に大きな差がある現状を知り、支援につながることなく生きてきた人に対して取り組む意義を感じました。
Onaraではこれまで10代~70代の約1300人に対して、それぞれの状況に応じた伴走支援を行ってきました。団体の公式LINEやオンラインを中心に話を聞き、支援の手続きを一緒にすすめることや就職支援のほか、地域のフードバンクにつなぐこともしています。一人ひとりが好きなタイミングでいつでも帰ることのできる、そんな実家のような存在をめざしてきました。
◆社会から見えなかった虐待へ、一人でも多くの意識を
活動を続けてきて、多くの人が子ども時代に〝虐待〟と意識していない、または周囲に助けを求めても状況が変わらないまま大人になり、その後も一人で生きづらさに耐えながら、誰かに話すことや、話せる場所すらなかったことを実感します。社会的養護に至らなかった虐待サバイバーを対象にアンケートを実施した際には、3週間で600件以上の回答が集まり、「初めて自分のことを聞いてもらえた」との声が多く寄せられました。そうした虐待サバイバーの実態を発信し、支援の必要性を問いかける活動も伴走支援とともに続けています。設立してもうすぐ2年になりますが、今後は常設の拠点を設けるなど新たな取組みを構想中です。
児童虐待への社会認知が高まる一方で、社会には見えなかった虐待があって、大人になってからも苦しんでいる人が数多くいます。一人でも多くの人がそのことに意識を向け、虐待を受けてきたすべての人が〝生きていて良かった〟と思える社会になるよう、当事者の一人として声を上げ続けます。
食料を届けるなど、一人ひとりの状況に応じた支援を行っている
https://onara.tokyo/