株式会社FILAGE 代表取締役
書評家/絵本作家
ナカセコ エミコさん
「書店有給休暇」、ネット書店「働く女性のための選書サービス“季節の本屋さん”」を運営。キャリアカウンセラーの資格も持ち、各種ワークショップや講演会も主催。自著に『COFFEE TIME -珈琲とめぐる毎日-』などがある。
あらまし
- 国立市の商店街にひっそりとたたずむ本屋「書店有給休暇」店主のナカセコ エミコさんに、本との出会いから書店の開業、これからのことについてお伺いしました。
幼少期から本が大好きだった
本や絵本が大好きな子どもでした。幼少期は熱を出すことが多く、母親と病院帰りに本屋に行き、好きな本を買ってもらえることがひそかな楽しみでした。よく読んでいたのが児童文学で、その中でも特に印象に残っているのが「赤毛のアン」です。物語を読んでいると、行ったことのない場所や風景を疑似体験でき、世界が広がっていったことを覚えています。中学・高校では、学校の図書館へよく行きました。そこの若い女性司書の方の居心地の良い場所づくりがとても上手で、次第に「彼女のような司書になりたい」と思うようになりました。
大学在学中に司書の資格を取りましたが、学校司書の求人に空きがなく、ひとまず地元の銀行へ就職することに。1年ほど経った頃、公立図書館で司書の求人に空きが出たため、銀行を退職し、念願の司書になることができました。一般企業とのダブルワークという形で3年ほど働いたのですが、思い描いていた仕事とのギャップを感じるようになりました。そうして3年が過ぎた頃、会社で東京への異動の話が出たことを機に、思い切って司書を辞めることにしたのです。
会社員を辞め、本に携わる事業を展開
東京に異動してからは毎日忙しい日々が続きました。「またいつか本に携わる仕事がしたい」という気持ちはありつつも、とにかく当時は仕事が忙しく、あんなに大好きだった本を楽しむ気力も体力もないほどでした。主任、係長、支店長など管理職まで経験し40歳を迎えた頃、「新しいことをするには今しかない!」と一念発起し、会社を辞め、大好きな本に携わる事業をしようと独立。1年間、個人事業主を経験した後、株式会社FILAGE(フィラージュ)を立ち上げました。しばらくはライター業や書評の仕事をしていましたが、会社員時代をふと振り返り、「あの頃の私のように忙しい女性向けに、本のサブスクサービスがあったらいいな」と思い立ち、オンラインの「働く女性のための選書サービス“季節の本屋さん”」を始めることにしました。ジャンルは絵本をはじめ、女性の生き方や働き方、衣食住にまつわるものなど、季節に合わせて疲れている時に癒されたり心が温まったりする読後感の良い本を選んでお届けしています。絵本の出版社とコラボして自ら手掛けた絵本も販売していて、今では300名ほどの方に利用いただいています。
2023年4月には、クラウドファンディングで本屋「書店有給休暇」をオープンしました。本や雑貨の販売のほか、読書会やワークショップも開催しています。店名には「自分のための時間をここでゆっくり過ごしてほしい」という想いを込めています。私にとって中学・高校時代に過ごした図書館が自分らしくいられる居場所だったように、「書店有給休暇」がそんな本屋になれたらいいなと思って始めました。
本のラインナップは選書サービスとほぼ同じで、雑貨やステーショナリーなども置いています。店の一角にカウンターがあり、コーヒーマシンで淹れたコーヒーも販売しています。カウンターでコーヒーを飲みながらひと息つく方もいれば、読書や編み物をする方、人生相談をされる方もいて、皆さん自分なりに自由に過ごされています。母親のプレゼントを買いに来た小学生や、幼稚園に置く絵本を選びに来た理事長の先生など、幅広い年齢層の方に来ていただいていて、高校の課題授業で店に来てくれた本好きの女子高生と読書談義に花を咲かせたことも。会社員時代には出会わなかった人たちとの一期一会の出会いがあり、毎日が新鮮です。ここでの出会いや思い出、自分の考えなどを綴って一冊の本としてまとめたら面白そうだなと考えているところです。
頑張る人の心安らぐ居場所であり続けたい
勉強や仕事、育児や介護など、現代の人たちは何かと忙しいですよね。本来の力量を超えて頑張りすぎている人が多い気がします。毎日頑張っている人たちにとって、「書店有給休暇」が自分のための時間をゆっくり過ごせる場所のひとつになれたら嬉しいです。誰もが肩の荷を下ろせ、本がある心安らぐ空間づくりをこれからも続けていけたらと思っています。
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