ボランティアの支え
完全に水没してしまったクレールエステート悠楽は、汚泥により壊滅的なダメージを受けていました。発災5日目から備品や什器の運び出し作業を行い、岡山県老人福祉施設協議会と倉敷市特養連絡協議会から2日間で110人のボランティアが応援に駆けつけてくれました。
また岸本さんの旧知の大学教員からは「福祉を学ぶ学生に現場を見せて、お年寄りに対して自分たちができること考えてもらいたい」と連絡があり、入居者の持ち物の運び出しと洗浄作業を担ってくれました。その後も、こんなときだからこそと悠楽と後楽の合同のお祭りを企画してくれました。岸本さんは「学生たちは洗浄活動も笑顔でやってくれていた。学生に限らず、いろいろな人のつながりでたくさんのボランティアが来てくれて、人ってこんなにも温かいものなのかと感じた」と話します。矢吹さんも「ボランティアのみなさんが活動されている姿を見て、私たちも励まされたし、もっとがんばろうと思った」とボランティアの支えに感謝しています。
福祉の仲間に伝えたいこと
今回の災害対応について矢吹さんは「職員自身がいろいろ判断したり、こういう対応はどうだろうかと提案してくれた。そういった職員を信じることができた。指示待ちではなく自ら動いてくれていたのは、これまでの職員育成の成果が出たと思う」と言います。また「災害時には客観視できるような存在が必要で、その観点から発災後にどういったしかけを作るかが大切。一般住民の方々が大勢避難して来られることも想定しておいたほうがよい。そのうえで対応マニュアルの整備や訓練を実施するとよいと思う」と話します。
岸本さんは、「早い決断が重要だった」と言います。今回の水害でも、避難すべきかどうか迷った人がその場に取り残され、自力で避難することができませんでした。「福祉に携わる者として、利用者を安全に導くことは使命。そのためには決断力と行動力が大切」と強調します。そして「利用者全員が避難する場合、どれだけの職員や車両が必要で、どのくらいの時間がかかるのかシミュレーションしておいた方がよい」と言います。マニュアルも大切ですが、避難先までの所要時間を確認する実地訓練の必要性を指摘します。
さらに災害対策の基本は自助に尽きるとし、「私たち自身、避難が遅れたため屋上に垂直避難せざるを得なくなった。自分のところで精一杯で、地域が一番大変なときに何もできなかった。早めに浸水地域外に避難していれば翌日の私たちの救助は不要になり、その分他の人に手を回せたはず。もちろん私たち自身もできることがたくさんあった」と岸本さんは言います。そして「こう言っている自分自身も、心の奥底には『もう災害は来ないだろう』という気持ちがほんの少しだけ芽生え、日が経つに連れて大きくなっていってしまう。そのことを意識して命を守る訓練に取組みたい」と、自分の気持ちに正直に向き合って、今後の対策について考えています。
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