東京都民生児童委員連合会
新型コロナウイルス 感染拡大状況下における 1万人の民生児童委員活動
掲載日:2020年10月13日
2020年10月号 NOW

 

あらまし

  • 令和元年12月に、3年一期の一斉改選で約1,500名の新任委員を迎え、1万人余の仲間での新たな活動がスタートしました。東京都民生児童委員連合会(以下、都民連)(※)では、12月から3月にかけて11コース・延べ25日間の新任研修が始まり、地元の民生児童委員協議会(以下、民児協)でも新しい仲間との活動が動きだしていました。
    そうした折に新型コロナウイルス感染症が拡大し始め、都民連では2月25日以降500名規模の研修を中止し、地元民児協の活動も、ほぼすべて止まりました。
    今回は、「人とのつながり」が活動そのものである民生児童委員活動の、緊急事態宣言中およびその後の新しい生活様式での取組みについてご紹介します。
  • (※)都民連の事務局は、東社協民生児童委員部が務めています。

 

「自粛」と「心配」な思いのはざまで揺れ動く

◆活動自粛期間中の状況
新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染拡大に伴い、令和2年3月からは活動の自粛が呼び掛けられ、特に緊急事態宣言・東京都の緊急事態措置等期間の4~5月は、多くの地区で事業が中止・延期等されました。〈図1〉

 

「定例会」は、地区内の民生児童委員が一堂に会し、行政や都民連からの依頼事項や、最新の福祉等の情報提供、また委員間の困難ケースについて勉強会など行う場で、活動の基礎となる会議です。新型コロナの状況下でどこまで活動したらよいか、また個別の相談が入った場合どうしたらよいのかなど、本来であれば「定例会」で確認し合うところ、郵送で届く民児協代表会長からのメッセージや行政からの事務連絡をもとに、各委員が判断して活動せざるを得ない状況が続きました。一斉改選後で役員が入れ替わった地区もあります。新任委員も多く、またそもそも誰もが初めての状況に、不安を抱えていました。

 

 

◆委員間で情報共有、相談し合う

長期化する自粛期間は、これまで緊急時に使っていた、一方通行の「連絡網」や個々の委員同士のつながりだけでは不十分で、複数の委員が双方で相談し合える環境が求められました。
今回多く活用されたのが「LINEグループ」です。単位民児協や部会、班などで新たに作成したとの報告がありました。

 

一方で、民生児童委員の平均年齢は、区域担当の民生児童委員は65歳、児童問題を主に担当する主任児童委員は55歳です(東京都による改選時の発表数のため八王子市除く/9月現在、最高年齢は75歳)。新型コロナで世の中が「リモート」となる中、まだまだスマートフォンを所持していない方や、不慣れな方も多くいます。

 

そこで、中止となった定例会の資料を送付する際には、大事な内容が一目で分かるよう概要文を同封したり、送付せずに各地区会長等の役員が役所に取りに行き説明を受け、その役員が自身の地域の委員に直接配布するとともに、困っていること等の相談を受けるなど、工夫が見られました。

 

また、一斉改選後、2月以降は毎月委員委嘱があり、8月までに約200名の新任委員が誕生しました。しかし、「定例会」が中止続きで、地元の仲間の委員とも顔合わせすらできずにいました。

 

そこで、〔小金井市北部地区民児協〕では、近隣の大きな公園に集まり、短時間で新任委員紹介と連絡を行いました。さらに、小中学校が休校中だったため、隣接する委員3人がチーム(班)となり、公園等子どもの居場所を見回りました。民生委員は児童委員であることを改めて自覚するとともに、新任委員は地域を知ることができ、かつ情報交換もできる機会となりました。

 

◆班活動の活用

都民連では、「班活動」を推進しています。これは、都内401地区ある単位民児協と個人との間を埋めるしくみで、ご近所同士で数名で班を組み、地域の情報を共有したり、個別ケースにあたったりするものです。

 

今回、委員間の情報伝達・共有方法について考える機会となりました。特に「班」は大切な情報を、適切なタイミングで、的確に伝達できることが改めて確認できました。今後、新型コロナだけでなく、風水害や地震においても役立ちます。また、日常においても、委員自身が体調を崩して動けない時などにも、住民への支援が滞ることなくできるため、地域にあった班活動の設置に期待がされます。

 

新型コロナによる休校明けに、学校から複数の不登校の相談を受けた〔大田区新井宿地区民児協〕においても、班を組んだ見守り活動を行いました。外出自粛が続く中で特定の委員だけが様子を確認しに家の周りを歩いては不自然なため、数人で班を組み、買い物帰り等にさりげなく家の前を通るようにして、気づいた点を区域担当委員に連絡をするようにしました。複数の目で見守る安心感だけでなく、見守りの長期化も考えられるため、担当委員の負担軽減にも役立っています。

 

 

◆孤立を心配し安否確認

今回新型コロナの影響下で、多くの委員が心配したのは、もともと孤立しがちなひとり暮らし高齢者や児童虐待が懸念される家庭が、これまで以上にリスクを抱えてしまっているのに、見守り活動ができないことでした。

 

自粛期間は、個々の判断で地域をパトロールしたり、ひとり暮らし高齢者宅のポストに新聞が溜まっていないか、電気が夜になるとついているかなど、外からの見守りをした方も多かったようです。また、新型コロナ対策や特殊詐欺などのチラシをポスティングしたり、その際一筆添えたり、脳トレのクイズを付けるなど、つながりを保つための工夫も聞かれました。

 

5月は毎年、民生児童委員活動強化週間があり、全都をあげてパネル展やパレード、街頭PRなどを行っていました。今年はほぼすべて中止となっていた中、〔中央区民児協〕では「活動強化月間」と位置づけ、ひとり暮らし高齢者名簿を活用して、電話による見守り訪問をすることにしました。新任委員は地域の高齢者と顔合わせもできておらず不安も聞かれましたが、LINEグループで小まめに情報提供や情報交換を行い、すすめることができました。

 

また、居場所づくりとして高齢者サロンや子育てサロンを行っている地区も多くありますが、大半が中止しました。〔世田谷区上馬地区民児協〕では行っていたミニデイを中止しました。会長の松本道子さんは参加者に安否確認の電話をしていましたが、中には、閉じこもりによる認知機能への影響が心配な方も出てきました。そこで、6月からは毎月「ミニデイ通信」をつくり、詐欺の注意喚起や「エコバッグを洗いましょう」など身近な役立つ話など、さまざまな話題を盛り込み、ポスティングを始めました。参加者からはお礼とともに、ミニデイ再開を期待する声も届きました。通信や再会を待ち望む「楽しみ」が、ふさぎがちな引きこもり生活に張りを持たせてくれました。

 

子どもへの支援として、〔豊島区民児協〕では、学校の休校を受け、ひとり親世帯等を対象に区民ひろばでランチ支援を行うNPO法人の事業に協力しました。当日配布を手伝うだけでなく、事前に主任児童委員等がこれまでの活動でつながっているお母さんにメール等で連絡し、その方から周囲のひとり親世帯のお友達グループに流してもらうなどしました。周知していく中で、「自粛期間で誰とも話せず、子どもにイライラして怒ってしまう」と涙ぐみながら打ち明けてくれる場面もあったそうです。また、日頃気に掛けていたきょうだいに情報を伝えてもらい、お弁当を取りに来た元気なお兄ちゃんの姿に、つながり続ける大切さを感じました。

 

〔豊島区民児協〕
お弁当を渡して喜ばれました

 

 

少しずつ、感染状況を見極めながらも、できることから活動を始める

◆委員自身のモチベーションを保つために

自粛の長期化により、新任委員だけでなく再任委員の意欲も下がりがちになります。何のために自分は民生児童委員として委嘱されたのか、自粛とは本当に何もしなくていいのか。気持ちがふさがないよう、各地区の役員と行政担当者とで相談しながら、感染状況を見極めつつ、少しずつ「住民とつながる」活動が始まっています。

 

◆コロナ禍だからこその活動

〔文京区民児協〕では、4月以降、ひとり暮らし高齢者に各委員からの電話での声掛け・見守り活動に取り組んでいました。そうした中、2期目の委員から「高齢者は耳の遠い方もいるので、85歳以上の方に手紙を書いた」という話を聞き、それはいいアイデアと会長会で相談し、区全体で「夏のはがき作戦」を開始しました。他の調査とのバランスで、日頃関わる機会が少ない81~84歳の方に対し、往復はがきを送り、近況をお知らせいただくというものです。はがきの内容も、新型コロナの影響で活動がすべて中止となってしまった行事を検討する委員会が担当し、委員や高齢者に負担がかかりすぎず、一方、高齢者に喜んでいただける内容と工夫がされたものとなりました。8月中に投函をし、高齢者も、また返信を受ける委員も、互いににっこり笑いあえる温かな交流が生まれました。

 

〔立川市民児協〕では例年4月に行っていた「ひとり暮らし高齢者実態調査」を中止にしました。しかし、暑い夏にマスクを使用することで熱中症が心配されたため、8月にかけて、アイスタオルを配布しながら、原則インターホン越しでの安否確認を行うことにしました。「実施するか迷ったものの、新任委員が何か月も何もできずに不安に思っている状態を鑑み踏み切りました。実際やってみて大変好評だった」と代表会長の中村喜美子さんは言います。さらに、この機会に、地域包括支援センターで情報を把握しきれていないオートロックマンション世帯や気になる世帯には、職員も同行してもらい、情報共有もしました。

 

〔文京区民児協〕
返信用にはチェックで簡単に回答できる工夫をしました

 

◆仲間とつくる地域のつながり

東京の民生児童委員活動は今年で102年目を迎えました。地域住民や関係機関・団体と、顔を合わせ言葉を交わし、関係を築いてきた長い歴史があります。コロナ禍であろうと、そのつながりが消え去るわけではありません。くしくも、新型コロナで活動が最小限となり、活動を見直す良い機会にもなりました。住民とどうつながりを深めていくか、都内1万人余の委員の経験と知恵を出し合い、創意工夫でこの困難を乗り越え、新たな活動を展開していきます。

 

「亀有花風船の会」
(葛飾区亀有地区民児協)
民生児童委員が立ち上げたこの会は、週2回、地域の高齢者と駅前の花壇の手入れを行っています。

自粛期間も屋外で距離を保っての短時間のため継続することができました。

 

「高齢者サロン」
(八王子市第5地区民児協)
民児協の管轄内では6カ所の高齢者サロンがあり、そのうち2カ所で再開しました。

消毒等、3密にも十分気をつけながらも再開したサロンは、「ほかに行くところないから」と大変喜ばれています。

取材先
名称
東京都民生児童委員連合会
概要
東京都民生児童委員連合会
https://www.tominren.com/
タグ
関連特設ページ