目黒区立目黒本町保育園
子どもにとって今しかない一年を大切に~目黒区立目黒本町保育園~
掲載日:2020年10月27日
2020年10月号 連載

目黒区立目黒本町保育園は、昭和56年に設置された公設公営の認可保育園です。0歳から年長児まで定員99名の乳幼児を保育しています。

 

◆区の方針に基づく利用制限や休園

都内では、感染拡大や学校一斉休校、国の各種要請等の状況をふまえ、3月以降、各区市町村の判断で保育園の休園等の対応がとられました。
目黒区においては、区全体の新型コロナ対策を決める「特別事態緊急会議」の方針のもと、保育課で認可保育園に関する対応が決定されました。決定事項は随時、保育課を通じ、認可保育園に通知されました。

 

まず3月10日に、在宅勤務中や育児休業中の家庭等を主な対象と想定し、「登園自粛要請」が出されました。次いで緊急事態宣言下の4月8日からは、区民生活や社会機能の維持に必要な業務への就業家庭やひとり親家庭等以外の方の登園を控えてもらう「利用の制限」期間(※1)とし、その後、4月22日から5月25日までは「休園」となりました。休園期間中は、特定の職業に就く家庭や事情のある家庭等に対してのみ、申請の上で「特別保育」が行われました(※2)。緊急事態宣言解除後は利用が段階的に緩和され、6月19日に通常保育に戻りました。

 

園では、区から対応方針が示される都度、速やかに各家庭へ電話で知らせました。園長の成川良子さんは「感染への不安や緊張もある中、外出自粛で閉じこもる生活には負担が大きいことが想像でき、親子のストレスの高まりなどを懸念していた。毎回の電話連絡には大変さもあったが、直接保護者と話せたことで、家庭の状況を伺い知る機会にもなった。家庭と園、双方の安心につながったと思う。」と言います。

 

同園では休園期間中、職員の出勤率を下げるため、在宅勤務も実施しました。職員は勤務時間の中で、普段は時間を取りにくく、なかなか取り組めなかった園内の環境整備等をしました。職員の得意を活かして子どもたちが遊ぶ布の人形等を手作りして玩具を増やしたり、植木の剪定等を行うことができました。

 

休園により約1か月、長い家庭では約3か月ぶりに登園した子どもたちは、体力面には若干の低下が見られました。しかし保育士が驚くほど、精神面は穏やかで落ち着いていたそうです。成川さんは「子どもたちには、『友だちと会える嬉しさ』と『のびのび遊べる解放感』、また、家庭の安定した環境で長く過ごせたからか『満たされた安心感』が見えた」と言います。休園で苦労した家庭からの声が多くあった一方、「子どもが生まれてからこんなに長く一緒にいられるのは初めてで、貴重な時間だった」と話す保護者もいたそうです。

 

(※1)「利用の制限」期間中も、利用の制限によらず登園できる児童として、「区民生活や社会機能の維持に必要な業務の就業家庭( 例:医療機関、公共機関、販売(食料、医薬品等)、物流、通信等の仕事の方)」「ひとり親家庭などで、仕事を休むことが経済的に困難な場合」とされた。ほか、特段の事情がある方も相談可とされた。

 

(※2)「休園」期間中、「医療関係者・官公署・物流関係者・交通関係者など、保護者がともに就労により自宅から不在となる場合」及び事情がある方も事前に各園の相談の上、申請をし、「特別保育」が利用できるとされた。

 

◆感染症対策の徹底

子どもは特に感染症の影響を受けやすいため、園では日頃から厚生労働省の「保育所における感染症対策ガイドライン」等に基づき、感染症対策を徹底しています。しかし新型コロナについては「当初は正しい情報も少なく、子の密集が避けられない中で、通常に加えどのような対策をすべきか、手探りの状態だった」と言います。区の園長会での情報交換に加え、区からもガイドラインが示されるなど、現場に感染を持ち込まない対策は徐々に構築されていきました。

 

現在同園では、子どもや保護者、職員の毎日の検温や手指消毒を徹底し、保護者には送迎時、廊下での密集を避けるため、テープで示した立ち位置を守る依頼等をしています。子どもたちもこれまで以上に手洗いの習慣がつくなど、年齢なりに現状を理解しています。

 

また「使用した玩具は最低でも一日に一度は消毒する」「園庭を利用するクラス数を限定する」「会話が盛んになる幼児クラスでは、給食時に、机に透明な衝立を置き、他クラスでは向かい合わせにならないよう座席を配置する」などの対応を徹底しています。

 

特に、毎日の玩具の消毒には人手も時間もかかりますが、職員総出で分担し確実に行っています。「職員の業務負担は増え、自分が感染を持ち込まないようにと緊張感が続いている。その中でも、保育への意欲を下げないよう、副園長とともに職員をフォローしていきたい」と成川さんは言います。

 

また、保護者会長にこうした日々の感染予防対策を話したところ、「そこまでやってくださっているとは知らなかった。ぜひ他の保護者にも知らせてください」と言われ、掲示でお知らせするようにしました。直接、保育方針や様子を伝える懇談会等が実施できない今、園内の掲示を増やして、保護者に細かく現状を伝えることも心がけています。

 

掲示を増やして日々の様子を伝える。

廊下には立ち位置をマークで示す。

 

幼児クラスの給食では、テーブルに手作りの衝立を置いて座席を配置する。

 

◆その年齢にしかない経験を大切に

春は、保育園にとっては特に大切な季節です。目黒本町保育園でも、卒園式、入園説明会など、重要な行事が控えていました。成川さんは、「大人には長い人生の中の1年でしかないが、子どもにとっての1年は貴重。その年齢のその時期にしか経験させてあげられないことがさまざまある。対策を行いながら、できるだけこれまで大切にしてきた保育方針を守りたいと思った」と言います。3月の卒園式は例年の内容を見直して時間を短縮し、参加人数を絞り実施しました。

 

一方、3月の入園面接(健康診断)は、翌年度の新入園児自身や保護者のことを知る重要な機会ですが、密を避けるため集合では実施できず、家庭ごとに書類の受け渡しや電話連絡することで代替しました。また、区として育児休業からの復帰時期を延長できる措置が取られたことで、登園開始時期がさまざまとなり、入園説明会を中止しました。

 

このほか、保護者総会、懇談会、保育参観など、保護者が参加する行事を中心に、中止となったものが多くあります。しかし、感染者数が落ち着いてきたこともあり、10月の運動会は例年の近隣の学校の校庭等を借りる方法でなく、保育園の園庭を使い、学年ごとの入れ替え制で開催する予定です。下半期については、最大限の配慮の中、今できうる形で可能な活動を実施する方向でいます。「この状況下で一つ一つの行事や活動の実施方法を考えることは、その行事や活動の本来の目的やあり方を見直す機会ともなっている。今回、気づいたことは多く、今後の保育に活かしていきたい」と語ります。

 

◆保育園は社会に必要な存在

目黒本町保育園では、登園自粛要請以降、通知に従って徐々に利用人数が減り、休園期間中は約10名が特別保育を利用する状況でした。この期間中は、区内の各園でも少数の子どもたちの利用がありました。中には、一人も利用がなく数日閉園となった園もありますが、「少人数でも、どこかの園でまとめて保育するという形でなく、日々過ごしている園で預かることができたのはよかった」と成川さんは言います。

 

保育園が休園となったことは、子ども自身や子どもを預ける保護者にとってだけでなく、社会にとっても大きな影響がありました。改めて、保育園が行う保育の重要さや、保育園が社会を支えるために不可欠な存在であることに気づくきっかけになった期間でもあります。成川さんは「近隣の方には温かく迎えていただいているが、時に散歩や公園で遊ぶことへの批判や騒音の苦情を受けることもあるなど、保育士の仕事や保育園への社会の理解は十分とは言い切れず悔しい思いをすることもある。社会に必要な存在と十分理解が得られるよう、今後もさらに対応していきたい」と言います。

取材先
名称
目黒区立目黒本町保育園
概要
目黒区立目黒本町保育園
https://www.city.meguro.tokyo.jp/shisetsu/shisetsu/hoikuen/megurohonmachi.html
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