野口恭子さん
若年性認知症と打ち明け、 人とのつながりのあたたかさを 感じられた
掲載日:2023年2月8日
2023年2月号 くらし今ひと

 

あらまし

  • 野口恭子さんは、約10年前に夫の俊雄さんが若年性認知症と診断されました。当時の気持ちや、生活について伺いました。

 

55歳で「若年性認知症」に

主人が若年性認知症と診断されたのは、2012年11月でした。後から聞いた話ですが、その半年ほど前に、仕事の予定や約束を忘れることが多くなっていた主人を、「様子がおかしい」と感じていた会社の上司が、病院を調べて一緒に受診をしてくれたそうです。そこでは「次はご家族と一緒に」と言われ、翌月病院に行きました。その時は「少し様子を見よう」ということになり、しばらくしてから再度受診をし、若年性認知症と診断されました。

 

診断後も、3年ほどは会社に在籍していましたが、以前と同じような仕事は全くできず、資料整理などの作業をしていたようです。退職の際には、会社の皆さんから「お力になれずすみません」と言われました。きっと他にもたくさんの迷惑をかけていたと思いますが、主人を見守ってくれたことにとても感謝しています。私もパートの仕事を辞め、毎日の2人での生活が始まりました。

 

人との出会いで暗かった生活を変えることができた

当時は、近所の人にも病気のことを気づかれないように過ごしていました。言っても理解されないからというよりは、私自身が主人の状況を受け入れられていなかったのだと思います。この間まで会社にも通勤していて、「普通」だったからです。電車に乗って動物園や浅草に出かけてみたりしていましたが、誰ともつながっていない2人だけの生活は、やはりだんだんとしんどくなってきました。

 

知り合いに、若年性認知症に特化したデイサービスがあると聞き、利用することにしました。障害年金や家族会があることなど、本当にたくさんのことを教えてもらい、そこからさまざまな出会いにつながったと思います。地元の足立区の家族会や、若年性認知症家族会・彩星(ほし)の会を知り、参加をしてみました。特に、彩星の会に初めて参加した時は衝撃を受けました。皆さんがとても明るくて、楽しそうにおしゃべりをしていたからです。その後も何回か参加するようになり、「知り合いが増えるって嬉しい」ということを知りました。

 

しばらくして、主人が足立区のデイサービスに通うことになりました。家の前まで送迎があったので、近所の人に事情を説明すると、「気にしなくていいよ」「うちも実は母親が認知症で……」と言ってくださいました。そこから、主人との散歩中に挨拶をしてくれるなど、コミュニケーションが増え、「全然心配することはなかったんだ」と思えるようになりました。今では、主人がデイサービスに行っている間に私が一人で歩いていると「あれ、ご主人は!?」と心配されます(笑)。

 

今と変わらない生活をこれからも

若年性認知症は、知る機会がなかなかないので、本人やその家族に対してどんな風に接したら良いのか分からないと戸惑う人は多いと思います。当事者のご家族も、自分たちの状況を誰にも話せない人もきっといて、どれだけ苦しんでいるのだろうと心が痛くなります。少しでも気持ちを解放できる場や機会につながってほしいです。

 

主人は、食事や着替えなど、一人でできないことが増えて、私のことも「よく隣にいる人だな」くらいにしか分かっていないと思います。それでも、穏やかに、できるだけ自宅で一緒に生活をしていたいです。

 

なるほど Word

【若年性認知症】

65歳未満で発症する認知症のこと。

仕事でのミスや精神症状の出現に周囲が気づき、受診につながることが多い。
約束を忘れたり、日付や自分のいる場所が分からなくなったり、人によって症状はさまざま。

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野口恭子さん
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