NPO法人はちくりうす ガイドヘルパー 斎藤朝美さん
ガイドヘルパーの傍ら、パラスポーツの指導員や、
夏季限定でシュノーケリングのインストラクターも務める。
また福祉関連の研修講師も担う。
あらまし
- 障害がある人の外出を支援するガイドヘルパーとして活躍し、パラスポーツ指導員や手話の通訳者などさまざまな顔ももつ斎藤朝美さんに、これまでの経験や夢についてお話を伺いました。
パラスポーツ指導員から福祉の世界へ
小さい頃から、補聴器を付けている子や手足が不自由な子など、障害のある子が身近にいて、障害があっても得意分野を活かし、たくましく生きる姿を見てきたせいか、いわゆる“障害者に対する差別や壁”のようなものを感じずに育ちました。幼いころから水泳が大好きで、学生時代は水泳部に所属していました。マリンスポーツに熱中する社会人生活を送り、結婚を機に会社を退職。しばらく育児に専念していましたが、妊娠中に通っていたマタニティスイミングのコーチに誘われ、スイミングスクールのコーチになりました。ある時、手が不自由なお子さんが入られたのを機に、パラスポーツ指導員の資格を取りました。思えば、私が福祉の世界に入ったきっかけは、この出会いだったように思います。
それから6年ほどスイミングスクールのコーチとして一般、ベビー、マタニティと3つのクラスを受け持っていました。その後、水泳だけでなくマラソンや空手などあらゆる障害者スポーツの競技の支援をするようになり、目黒区の手話通訳者養成講座を受講し、区の登録通訳者にもなりました。スイミングスクールを退職後は、幼稚園や小学校で障害児担当の支援員として働きました。勤務先の小学校では現在のような支援級がなく、障害のある子もない子も一緒になって学ぶ環境だったので、体力勝負で大変でしたが、とてもやりがいがありました。同じ時期に、ボランティアで携わっていた知的障害児のサーフィンスクールの仲間から、知的障害児・者の福祉施設のスタッフに誘われ、支援員として入職することに。その福祉施設は研修制度がとても整ったところで、移動支援従事者(以下、ガイドヘルパー)や強度行動障害支援者、重度訪問介護従事者などの研修を受け、数々の資格を取得しました。障害のある方のお出かけを支援するガイドヘルパーの仕事を知ったのもこの頃です。
ガイドヘルパーは天職だと思うほど楽しい
現在は、NPO法人はちくりうすのガイドヘルパーと、夏季はシュノーケリングのインストラクターをしています。パラスポーツの指導員としても時々ボランティアをしたり、福祉関連の研修の講師として講演したりすることもあります。人と関わることやおしゃべりが大好きなので、ガイドヘルパーの仕事は性に合っていると思います。「初恋の人とのデートの積み重ね」のような感覚にも似ているような(笑)。何より、ヘルパーをやっていると「人が変わる瞬間」に出会えます。利用者さんのご家族からは「斎藤さんと一緒だと明るくなって、一日機嫌がいいのよ!」と言っていただいたこともあり、嬉しかったですね。
ある利用者さんとの話ですが、必要以上に買い物をしてしまう方がいて、お出かけ前にお金のイラストと当日のスケジュールをノートに書いて、決まった予算の中で優先順位を付けて何を買うか一緒に決めるようにしたら、だんだんと予算を把握する力が身につくようになりました。利用者の家族も涙を流して喜んでくれて。こういう瞬間にいくつも立ち会うことができるので、とにかく仕事が楽しくてしょうがないです。仕事をする上で大切にしているのは「利用者ができることを取り上げず見守る」こと。利用者が一人でできることを、ヘルパーが先回りしすぎて取り上げてしまうのではなく、できることはできるだけ自分でやってもらう。本人の代わりにやることは簡単なのですが、利用者が「自分でできる」と自覚してもらうにはものすごく時間がかかります。利用者ができそうだと思うことは口出しや手出しはしません。できるまでじっと見守る。それが私のモットーです。
また、“カッコよく、きれいなヘルパーさん”でいたいので、身なりにも気を付けています。「この人みたいにキラキラした人になりたい」と利用者に思ってもらいたいから。「こんな風になりたい」という気持ちは意欲の表れですし、お出かけも楽しくなると思うのです。そんなお手本になれるような存在になれたらいいなと思っています。
“インクルーシブな海の家”をつくりたい
振り返ると、福祉の世界に入って20年近くが過ぎました。ここまで続けてこられたのは、20代のころから持ち続けている「障害のあるなしに限らず、誰もが安心して楽しめる海の家」をつくる夢があるから。海の家は通常、シーズンを過ぎたら取り壊してしまうのですが、私がつくりたいのは常設の海の家。ここに来たら、特性や属性に関わらず誰でも海遊びが楽しめて、ゆっくりできる。そんな海の家がつくりたいのです。そのために、ボートやジェットスキーの運転ができる船舶免許や特殊小型船舶操縦士免許も取りました。
大きな夢なので実現までにまだまだ時間がかかりそうですが、今まで培ってきた経験を糧にして、さらに福祉の世界への造詣を深め、これからも自分らしく楽しみながらすすんでいきたいです。
http://8curious.or.jp/8curi_main/