あらまし
- 平成28年度に本会が実施した「質と量の好循環をめざした福祉人材の確保・育成・定着に関する調査」で、現在の事業所に就職して1〜3年目の初任者に福祉の仕事に関心をもったきっかけを尋ねたところ、上位に「職場体験」「ボランティア体験」が挙げられました。
- また、施設長に職場体験の受入れ状況を尋ねた設問では、次世代の若者の中でも中学生の受入れが最も多い状況であり、「毎年、中学生の職場体験を受入れている」と回答した施設は56.0%と半数を超えています。「中学生の職場体験」を活かし、私たち福祉業界が若者に伝えたい「福祉の魅力」をきちんと伝えられる場とするための工夫について考えます。
福祉の仕事に関心をもったきっかけが「中学生の職場体験」だったという初任者職員からは、具体的に次のような内容が挙げられています。「高齢者の笑顔に惹かれた」「言葉を発せられない人の言葉を代弁したいと思った」「利用者とのコミュニケーションの中でやりがいを感じ、興味がわいた」「高齢者の方々と関わることが楽しく、自分にあっていると思った」「自分のする事で子どもを笑顔にできる事が嬉しく、この道にすすもうと決めた」「子どもたちの成長を支えていくことに関心を持った」「担任という仕事にあこがれを持った」「子どもに信頼されている保育士にあこがれた」「人と関わる仕事に興味を持った」「この仕事には正解がなく、自分次第でいくらでも成長できると感じた」「責任感や体力、気力のいる大変な仕事ではあるが、利用者さんの笑顔、関わりからやりがいを感じられる仕事だと思った」などです。
「中学生の職場体験」受入れの工夫
文部科学省の「職業や仕事の実際について体験したり、働く人々と接したりする学習活動」に位置づけられる「中学生の職場体験」は、福祉施設における次世代の若者の受入れの中でも大きな割合を占めます。平成28年度の東社協調査では「保育所」では83・9%、「高齢者在宅サービスセンター」では70・7%、「特別養護老人ホーム」では65・7%、「障害者福祉施設」では41・8%という受入れ状況でした。
しかし、次世代向けに中学生が「職場体験」に来た時の受入れマニュアルがある施設は16・9%にとどまっています。東社協では、同調査において「次世代の理解をすすめる視点でのマニュアルがある」と回答した施設向けに、平成29年12月に追加調査として「福祉施設における次世代に対する理解促進に関する調査」を行いました。そこでは、福祉施設の「中学生の職場体験」受入れの工夫に以下のような特徴がありました。
(1)福祉施設における職場体験受入れの状況
回答施設の平均的な「中学生の職場体験」の受入れは、1施設あたり2校の「中学2年生」で、1校あたり3人を3日間。また、1日の平均的な受入れ時間は「6時間」でした。
(2)他の受入れと比べた中学生受入れの工夫
「中学生の職場体験」受入れにあたっては、「教育側の学習目的を意識したり、事前学習にかかわる」「多様な側面から福祉の仕事の理解を促す」「楽しく体験してもらう環境づくり」等の工夫が行われていました。
(3)福祉施設における職場体験受入れ目的
事業所としての「中学生の職場体験」の受入れ目的は「保育・介護など福祉の仕事内容を知ってもらう機会にしたい」「事業所と地域との接点をつくり地域に貢献したい」が上位でした。
(4)中学生が職場体験先を選定した経緯
職場体験先の選定について、「生徒の希望や関心により体験先を選定」が半数以上で、約3割は「先生による体験先の割り振り」でした。
(5)「中学生の職場体験」の事前学習
職場体験にあたっての事前学習について、約半数の事業所は、受入れる中学生は「事前学習をしてきている」と回答しましたが、4割の事業所では「事前学習の有無は分からない」との回答で、学校での事前学習の状況に関する情報が不足していました。
(6)「中学生の職場体験」受入れ体制
「中学生の職場体験」等の受入れにあたって、法人・事業所として受入れの「基本プログラム」を「持っている」と回答した事業所は約8割。また、中学生に獲得してもらいたい独自の「ねらい」を作成し、体験内容を設定している事業所は半数弱でした。
(7)「福祉のしごと」として伝えたい具体的な内容
中学生に「福祉のしごと」として伝えたい具体的な内容は、「職員自身の仕事をする上での喜びや、大変な事などの具体的なエピソードや事例」が約8割で最も多く挙げられました。(図)
(8)「福祉の魅力」を伝えるための資料
「福祉のしごとの魅力」を伝える資料については、「資料は用意していない」が約半数。その他は、「法人・事業所の独自資料」、「法人・事業所以外の資料」を活用していました。
(9)実施後の学校等との振り返り
「中学生の職場体験」受入れ後の学校等との振り返りについて、約9割の事業所が「ある」と回答。具体的な内容では、「職場体験に関する感想や御礼が書かれた作文や手紙をもらう」が9割、「学校から依頼される職場体験のアンケートに回答する」が7割弱でした。
(10)実施後の事業所での振り返り
「中学生の職場体験」受入れ後の事業所での振り返りについて、7割の事業所が「ある」と回答しました。具体的には、「生徒の感想を事業所内への掲示やお便り掲載等で、利用者や利用者家族にも伝えている」「事業所独自のアンケートや感想文を生徒に記入してもらっている」「職員会議等で受入れを振り返り、次回に向けた改善案を検討している」などです。
(11)実施後の学校・生徒とのつながり
「中学生の職場体験」受入れ後の事業所における学校・生徒とのつながりについて、約半数の事業所が「ある」と回答しました。「ボランティアの案内を出している」が最も多く、続いて「事業所の行事のお知らせや招待」でした。
(12)受入れにあたって事業所が求めるツール
「中学生の職場体験」受入れにあたって事業所が求めるツールについては、「『中学生の職場体験』において伝えるべき『福祉の魅力』や『福祉のしごとの魅力』の内容」が約半数で最も多くあげられました。
中学生が特に惹かれる体験
「中学生の職場体験」受入れの際に、中学生が特に惹きつけられていた体験内容や場面を自由記述で記載いただいた設問の回答を大きく分けると、(1)福祉用具などの体験、(2)利用者と一緒の体験、(3)中学生が提供するプログラム、(4)全体よりも個々でかかわるプログラム、(5)福祉に関する知識、の5点でした。
(2)の利用者と一緒の体験では、具体的な体験内容として、レクリエーションや行事、食事(給食)を利用者と一緒に行うなどが挙げられました。その体験を通じた様子として、「自然と仲良くなって、会話が弾んでいることがある。中学生から利用者への積極的な関わりは難しいので、行事等に参加してもらい、自然と溶け込めるように働きかけている。中学生からの感想を聞くと、そのような事が印象に残っているように見える」(障害)や、「一緒に料理をつくった際は、お年寄りが先生になったり、中学生がフォローをしたりと助け合いが自然に行われていた。一番楽しかったそう」(高齢)などの回答がありました。
その他に、受入れ施設として印象的だった出来事として、「人との関わりが苦手といっていた子が、体験後あそびに来てくれた」(保育)、「まずは『お話しをする事』と生徒に伝え、どのようにコミュニケーションを図ると良いか提案すると、生徒たちの体験をする上での目標が『何人の方とお話しできるか』と変わっていくのを嬉しく感じる」(高齢)、「お年寄り同士が目の前で軽い小競り合いを始めたとき、『私たちとおなじなんだ!』と言って笑っていた子が印象的だった」(高齢)「職員が利用者と家族のように笑顔で楽しく会話していたのが印象的という感想」(高齢)などが挙げられていました。
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中学生が心を動かされるのは、福祉職が感じつつも可視化しきれない仕事の楽しさや魅力に通じるものがあります。日々の仕事のやりがいを、〝職業の価値〟として職員の生の言葉で中学生に伝えること、また、伝えたいことが体験できる場面を意識的に設定し体験を促していくことが、「中学生の職場体験」の場で福祉の魅力を伝える上でのヒントになりそうです。
https://www.tcsw.tvac.or.jp/
質と量の好循環をめざした福祉人材の確保・育成・定着に関する調査
https://www.tcsw.tvac.or.jp/chosa/index.html