特養に来訪した幼稚園児からいただいたボード
おとなフローラ・こどもフローラ
練馬区下石神井にある「フローラ石神井公園」は、代々600年続く地主の本橋成夫さんが農地と私財を提供し、平成15年に開設した90床の特養です。法人理事長となった本橋さんは、長年、町会長を務めています。地域への想いが強く、下石神井に生まれ育った人が安心して老後を過ごせることを願って実現した施設です。
この年、下石神井にある公立学童保育で申込みが定員を上回り、入れない子どもが出ました。区は地域の地主さんに土地と建物を借りて民間学童保育を行うことにしました。区から打診があり、練馬豊成会は「こどもフローラ」の名で運営を始めました。今は40人ですが、初年度は4人からスタート。いつしか特養の方を「おとなフローラ」と呼ぶようになりました。
2つの視点を活かしていきたい
フローラ石神井公園施設長の兒玉強さんは、学童保育の話が来たとき、「ぜひやりたい」と思いました。兒玉さんは特養で「特別なホームではなく、普通の住まいにしたい」という想いから、ゆとりがない中でもできることとして、毎朝必ず、全室の窓を開けて空気を入れ替えることを徹底しています。子どもの事業も手がけることは、高齢者もいれば子どももいる普通の暮らしへの一歩でした。「やってみて、高齢者福祉と児童福祉のそれぞれの職員が『あたり前』と思う視点はずい分違うんだなというのがよくわかった」と話します。資格要件も異なるので職員同士の交流は難しく、『もっと事業で相乗りができないものか』というのが悩みですが、法人として2つの”常識“を視点として持てることは財産です。また、地域の高齢・子育て世帯双方の拠点になれることは法人の理念にかなうことでした。
ニーズに応えた事業を展開することにより学童保育は実際には赤字ですが、法人全体でそれを補填しています。こどもフローラ施設長の平井剛史さんは「特養のバックアップは心強い。看護師がいるという安心感があるし、特養に厨房があるので、手作りおやつやお弁当も提供できる」と話します。
4年前の東日本大震災の日、最後の子どもを親が引き取れたのは23時25分。兒玉さんは、特養で対応に追われながら、近所のそば屋にお願いして残っている子どもたちに夕食を提供しました。
おやつの時間。市販のお菓子も出すが、特養の厨房で作ったお菓子も一緒に
広がる地域とのつながり
特養では、近隣の小中学校との付き合いも増えました。運動会の予行練習を見学したり、総合学習や職場体験で施設に来てくれたり、小学生の作品を借りて展覧会を開いています。近隣の幼稚園と保育所の園児たちが来て唄ってくれます。その歌声に涙を流して喜ぶ姿を見ると、「子どもの力はすごいな」と、兒玉さんは感じます。
職員2名で平日の毎夕、地域のボランティア団体による地域パトロール活動にも参加しています。地域の声が聞こえてくる中、地域の役に立つことをめざしています。
こどもフローラの手前には地主さんが提供した広場があり、外遊びもできる。
http://flora.or.jp/wordpress/
平成14年に法人認可。平成15年から「フローラ石神井公園」を開設して、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、居宅介護支援事業所、デイサービスセンター、短期入所生活介護事業を運営している。翌16年から放課後健全育成事業「こどもフローラ」を開設。また、19年に地域包括支援センター、25年からは敬老館も運営している。