あらまし
- 近年、東京都内では区市町村域で福祉人材を育成するためのセンターが設置されてきています。現在、千代田区、品川区、世田谷区、練馬区、町田市、調布市で取組みが始まっています。
本号と次号で、これら6つの地域における取組みを紹介しますが、本号では、千代田区、世田谷区、町田市の各センターの取組みを通じて、「身近な地域だからこそ」の福祉人材の育成・確保を考えます。
地域のいまを把握し、地域に密着した人材育成に活かす~世田谷区福祉人材育成・研修センター
平成19年4月に開設した「世田谷区福祉人材育成・研修センター」は、介護や看護の担い手の確保支援をはじめ、サービスの質の向上、多職種連携など、地域社会が求める福祉人材の育成をめざし年間約70本の研修を展開しています。
約10年間、地域に密着した総合的な福祉人材育成を担う役割の中で、27年度からは、地域包括ケアシステムを担う人材育成を最重要課題として、従事者向けに多職種参加型の研修を拡充してきました。多職種の方に受講してもらえるように介護保険サービス事業所に加え、障害福祉サービス事業所等へも呼びかけを行っています。
近年の状況について、センター長の阿竹恵さんは「スキルアップも求められているが、人材確保に関しては、格段に厳しい状況になってきている」と言います。また、その影響もあり、研修参加者の状況も、「在宅系のケアマネジャーなどの出席率に比べて、特に施設の介護職員は研修に出ることが厳しい状況がみられる」と次長の冨樫恵さんは指摘します。事業所における職員定着の鍵を握るリーダー層の育成に関わる「中堅職員研修」「指導的職員研修」についても同様の状況でした。そこで、29年度より、時間の融通が難しく、研修に出られない層に向けた新たな研修「リーダー養成マネジメント研修」を2〜3時間程度の短い時間で実施しています。具体的な研修の受講につなげるため、2段構えのつくりにしており、この研修ではリーダーとは何かなどについて学びます。「前年度踏襲の方法では通じなくなってきている。いまの時代を把握し、どう効果的に丁寧に組み立てていくか。そのことに時間も労力もかけている」と阿竹さんは話します。そして、孫子の言葉にもあるとおり、「自分の土壌(ニーズ)を知らないと手(戦略)が打てない。自分のいる地域の特徴は何か。地域包括ケアシステムをめざす中では、そのような地域資源や住民の特性や多様性を学ぶことも必要だ」と指摘します。
区では、これまで高齢介護、障害福祉分野を中心に取組んできた福祉人材育成・研修施策を、32年度より子ども子育て、保健医療の各分野に拡充して展開する計画になっています。
右 世田谷区福祉人材育成・研修センター センター長 阿竹恵さん
左 世田谷区福祉人材育成・研修センター 次長 冨樫恵さん
「ボランティアから福祉人材の育成と確保まで」を身近に連携して…~千代田区かがやきプラザ研修センター
平成27年11月に開設した千代田区立高齢者総合サポートセンター「かがやきプラザ」には、(1)相談拠点、(2)在宅ケア(医療)拠点、(3)高齢者活動拠点、(4)人材育成・研修拠点、(5)多世代交流拠点の5つの拠点機能が設けられ、そのうち(3)~(5)を社協が指定管理者として運営しています。この研修センターの特徴は、「介護・福祉への理解促進」「ボランティア活動に携わる人材の育成」から「介護・福祉人材のスキルアップ研修」「区内介護・福祉事業所の人材確保支援」までを一体的に取組んでいる点です。
千代田区社協地域協働課長の梅澤稔さんは「ボランティアセンターとかがやきプラザ研修センターを同じ課で運営し、専門職と地域で活動する人が同じテーブルで話す場面も増えた」と話します。そして、「例えば、デイサービスの職員は、利用者を自分たちの施設に通う以外の時間に地域で支えてくれる人が必要と感じているが、実は地域の人の取組みを専門職はあまり知らない。また、住民の側も、区の意識調査では4割が『何らかの地域活動に関わりたい』と思っているが、地域にいるはずの困っている人が見えない。そうした中、専門職と地域の人がお互いを知る機会をつくりやすくなった。また、『地域』といっても、『どんな特性があり、どんな人が暮らしているか』が大切」と指摘します。
一方、「福祉専門職」そのものを身近な地域で育成・確保する意義は何でしょうか。センターでは29年度に区内事業所を対象に「研修ニーズと人材に関するアンケート」を実施しました。千代田区社協地域協働課人材サポート係長の武藤祐子さんは「身近な地域だからこそ何ができるか。広域や職能別に多くの研修機関があるにも関わらず、9割の事業所がかがやきプラザの研修を受けたいと答えた。専門知識に限らず、説明力やトラブル対応といった内容の研修ニーズも高い。また、平日の夜間、2時間程度の短時間の研修が希望されている。専門職も身近な地域で参加しやすい研修を求めている」と話します。さらに、専門職自身が講師になれることも身近な地域の良さです。武藤さんは「特養を拠点としたボランティア養成講座に施設職員が継続的に関わってくれた。施設が地域の人材育成に関心をもつことにつながる」と話します。
そして、同センターでは、事業所の人材確保を支援するため、事業所と区内にある専門学校が連携する取組みも行っています。千代田区保健福祉部在宅支援課施設調整担当係長の丸山聡さんは「人材確保が尻すぼみになると活気が出ない。そうした中だからこそ、やる気のある事業所を応援して活気を出したい」と話します。
右 千代田区保健福祉部在宅支援課 施設調整担当係長 丸山聡さん
中央 千代田区社協地域協働課長 梅澤稔さん
左 千代田区社協地域協働課 人材サポート係長 武藤祐子さん
事業所のネットワークを母体としたきめ細やかな人材確保・育成~町田市介護人材開発センター
町田市高齢者福祉施設運営協議会と町田市、町田市社協の三者による意見交換を経て、「町田市介護人材開発センター」が設立されたのは平成23年4月。その翌年には、一般社団法人化した町田市介護サービスネットワークが運営主体となりました。市内の高齢者施設・介護保険事業所の会員組織である法人の連携性を活かした連絡会の運営や多職種研修、また、市からの補助をもとに(1)人材確保事業、(2)小さなアトリエ人材育成事業、(3)就労継続支援事業、(4)アクティブシニア介護人材バンク事業などを行っています。
同センターの特徴は、運営組織が「事業所のネットワーク」という点。さらに、人材育成はもとより、「人材確保」を職業紹介事業の許可を正式に得て積極的に取組んでいる点です。27年9月に始めた「アクティブシニア介護人材バンク事業」は、無料職業紹介事業の許可を得ておおむね50歳以上の元気なシニア層に市内の介護施設における「補助的業務」を紹介・斡旋しています。町田市でも福祉施設における専門職の確保そのものは厳しい状況です。センター長の石原正義さんは「人手不足が悪循環を引き起こしている。そこで、施設へのヒアリングもふまえ、介護補助、清掃、調理補助などのちょっとした業務であればできるという人材を入れて、専門職の負担を軽減しようとしている。施設側にも人手が集中的にほしい時間帯がある」とその趣旨を話します。
同事業では、地域に出向き、「初級研修」「求職相談登録会」を隔月に開催。介護業務が未経験なシニア層が対象で、専門用語は避け、「やってみたい」という気持ちを後押しします。これまでに50人以上が就労し、介護施設で週に1回や1日2時間といったその人なりにできる業務を担っています。「『カレンダーに予定が書けてうれしい』という声も聞かれ、『誰かの役に立つ』という生きがいにもつながる」と石原さんは常日頃より感じているそうです。
そして、29年4月からは専門職そのものを確保するため、「町田市介護人材バンク」を実施しています。こちらは有料職業紹介事業の許可を得て、毎月、市内の各地域で出張相談・求職登録会を開催しています。事務局長の宮本千恵さんは「自分で人脈を持っている人は自力で動けるが、バンクで支援しているのは、どちらかというと、悩んだり迷っている人」と話します。1回の相談に数時間かかることもあり、迷いをうかがい、複数の施設見学にも同行しています。就職後のアフターフォローまでを丁寧に行えているのは身近な地域のセンターならではです。
また、センターでは、数多くの研修を実施し、年間で2千人が参加しています。一方、人手不足の施設は研修に出にくい状況もあり、講師を派遣する「出張訪問研修」も実施しています。
右 町田市介護人材開発センター センタ長 石原正義さん
中央 ケアまめくん
左 町田市介護人材開発センター 事務局長 宮本千恵さん
https://www.setagaya-jinzai.jp/
千代田区立高齢者総合サポートセンター「かがやきプラザ」
https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/kenko/koresha/kore-shisetsu/kagayaki-plaza.html
町田市介護人材開発センター
http://machida-kjkc.jp/