HATI JAPAN代表理事 東谷知佐子さん(左)
中野区社協経営管理課長 小山奈美さん(右)
あらまし
- コロナ禍において実施された生活福祉資金特例貸付の窓口には、多くの外国籍居住者が相談に来ました。これまでは、地域に外国籍の方が住んでいることは知ってはいたものの、地域とのつながりがなく、区市町村社協でもその困りごと等をなかなか把握することができませんでしたが、コロナ禍で外国籍居住者の抱える課題が顕在化し、各地域でさまざまな取組みが進められています。今回は、外国籍居住者が多い団地を拠点に、NPO法人や国際交流協会と協力して居場所づくりを行っている中野区社協の取組みをご紹介します。
コロナ禍で顕在化した外国籍居住者の課題
中野区社協では、生活福祉資金特例貸付の相談の2割が外国籍の方でした。日本語の書類が読めない、制度が理解できないという課題に加えて、地域の日本人とのつながりがないために地域の情報が入ってこない、利用できるはずの支援につながりにくいということもわかりました。また、中野区社協が実施している「福祉何でも相談」にも外国籍居住者に関する相談が寄せられており、外国籍居住者が地域とつながるための居場所の必要性を感じていました。そこで、令和3年9月に外国にルーツがある子どもたちの居場所を作ることをテーマにした講座を実施しました。講座は、多文化多言語の子どもの発達支援をおこなっている「NPO法人HATI JAPAN」と「中野区国際交流協会」に協力を依頼し、外国籍居住者が多い地域である「鷺宮西住宅」の集会室で開催しました。講座開催後、講座参加者も加わり、半年にわたって定期的にミーティングを行いながら居場所づくりを始め、令和4年4月から、鷺宮西住宅の集会所で、毎週月曜日に外国籍居住者の居場所を実施するようになりました。居場所は、講座に協力いただいた「NPO法人HATI JAPAN(学習支援)」と「中野区国際交流協会(日本語教室)」が隔週交代で開いています。
外国にルーツがある親子を支援する居場所「げつよう②・④ひろば」
NPO法人HATI JAPANは、以前から中野区内で外国にルーツがある子どもの発達支援やその保護者の支援を行ってきました。今回の居場所で開催している「げつよう②・④ひろば」は外国にルーツがある子どもの「学習支援」の場としていますが、必ず勉強をしなければいけないわけでなく、参加している親子はスタッフと遊んだり、話をしたり、思い思いに過ごしています。決まったプログラムを用意している場所ではありませんが、ただのたまり場でもありません。HATI JAPAN代表理事の東谷知佐子さんは、「支援をする居場所」であることを意識していると言います。居場所終了後には、毎回スタッフ、ボランティアで集まり、その日の参加者の様子について全員で振り返りを行っています。複合的な課題を抱えていると、分野別の相談窓口では対応が難しくなりますが、HATI JAPANでは、課題ごとではなくひとりひとりをトータルな視点で見て支援をしています。スタッフ、ボランティアには、資格を持った専門職もいますが、先の講座の参加者や中野区が実施している「なかの生涯学習大学」の受講者など、さまざまな方がいます。ボランティアであってもHATI JAPANが大事にしている視点を共有して、参加者に関わってもらうようにしているそうです。
居場所の参加者は、さまざまな困りごとを相談していきます。親同士もよく話をしています。その中から、相談窓口では提供されない情報が得られることもあります。日本人なら自分の経験や親同士のつながりの中で知っている学校のシステムが理解できない、学校の書類の内容がわからないなど、困っていても誰に聞いたらいいかわからない外国籍の保護者もいて、居場所が学校との間をつなぐ役割を担ったこともあります。HATI JAPANでは、外国にルーツのある親子が安心して過ごせる居場所、ちょっとした困りごとを話せる居場所を目指して、「げつよう②・④ひろば」を運営しています。
地域の中でつながりあうことを目指して
鷺宮西住宅があるエリアは、区内でも多くの外国籍の方が住んでいる地域ですが、これまでは、日本人と外国籍居住者の接点はほとんどなく、お互いを理解する機会も少なく、住民トラブルに発展することもあったとのこと。民生児童委員も交流や支援の必要性を感じており、中野区社協も地域の会議などで、鷺宮西住宅の現状を聞いていました。また、この地域は区の中心部から離れており、区役所や社協をはじめとした各機関、窓口へ相談に行きにくいことが課題になっていました。そのため、中野区社協としても、兼ねてから、地域の中で支援をしていく必要性を感じていたと言います。今回、最初に地域住民を対象に居場所づくりの講座を開催したのは、居場所を継続していくのに「近くのスタッフ」が必要だと考えたからでした。
居場所づくりをはじめ、防災をテーマにした活動など外国籍居住者と交流を図る取組みを進めたことで、団地内でも外国籍居住者との関係に変化が見られています。防災訓練を外国籍居住者も参加しやすいように工夫しながら開催し、多くの方が参加してくれました。また、高齢者が多くて大変になってきた団地内の落ち葉掃きを、野方警察署の協力により、参加特典のイベントを行って外国籍居住者に声を掛けました。「げつよう②・④ひろば」にも当事者だけでなく、地域のさまざまな方が集まってきます。例えば、防災訓練に参加した警察の方が居場所のことを知り、警察も地域とつながりを持ちたいと居場所に参加してくれるようになりました。
中野区社協では、地域の関係機関に居場所を知ってもらい、居場所と支援が必要な人たちをつなげてもらいたいと考え、令和5年5月に関係機関向けに「外国ルーツの方々の『居場所』づくり一周年記念報告会~『居場所』で育つネットワーク~」を開催しました。これからも、居場所づくりを通してできたつながりから「グローバルなネットワーク」を地域の中につくっていきたいとのことです。
げつよう②・④ひろばの様子
https://www.hatijapan.or.jp/
中野区国際交流協会
http://www.anic.jp/
(社福)中野区社会福祉協議会
https://www.nakanoshakyo.com/