東京都立練馬高等学校教諭 ボランティア同好会顧問
正木 成昭さん
あらまし
- 地域の課題解決力を高める際には、これから社会の担い手となる次世代を育てていく視点も重要となります。 今号では、高校生の気づき・関心を高めていく視点について、東社協第3期3か年計画の重点事業「生きる力(生きていく力)を高める福祉教育(市民学習)の実践」の市民学習共同研究校でもある東京都立練馬高等学校ボランティア同好会(*1)顧問の正木成昭先生にお話をうかがいました。 *1 平成23年6月立ち上げ
高校生の発達段階で将来に向けて必要な力
多くの企業が、就職する学生に求める力として、コミュニケーション能力や、(指示待ちでなく)主体性をもって行動できる人材を必要としています。そこで、東京都立練馬高等学校ボランティア同好会(以下、同好会)として共同研究に取組む際に、「自らの気づき」「自らのアクション」を重要なテーマとして、「コミュニケーション能力の向上」や「自らの行動に責任をもてるようになること」をめざし実践してきました。生徒の主体性は、卒業後、進学だけでなく就職する生徒もいる本校でも重視しています。高校生の発達段階で身につけられる力は何かを考えた場合に、少しでもこの部分を伸ばしていける環境や機会をつくれればと考えました。
コミュニケーションのための特技を身につける
同好会では、ボランティア活動だけでなく、さまざまな方々との出会いを通し、コミュニケーションをとるための手法や特技を身につけることを意識させています。具体的な活動の一つがプロマジシャンを招いたコミュニケーション講習会です。マジシャンは、目の前の相手に合わせて見せ方や話法を変えて相手を引き込んでいきます。一対一の関係で目の前で披露する場合と、大舞台から多くの観客に向けてでは、見せ方も話法も違ってきます。相手との距離感を意識したコミュニケーションの方法を考える機会となっています。
また、東日本大震災の被災者の支援に取組むNPOの協力の下で、ハンドマッサージ講習も実施しました。マッサージをしながら相手の話をゆっくり聞くこと(傾聴)ができます。
このような活動を通して生徒たちが身につけた力が、今後の活動の中で、人を楽しませたり喜ばせたり、関わりたい相手とコミュニケーションを深めるきっかけが生まれることが期待できます。また、特技をもつことは、活動のきっかけを見つけた際に、それを活かして行動を起こす自信にもなります。今後も、このような活動を継続的に行う予定です。
プロマジシャンを招いたコミュニケーション講習会
地域の大人とのかかわりから肯定的に気持ちを発信する
高校入学前までは、自分よりもっと頑張っている人、もっとすごい人が周囲にいて、認められたり褒められたりする経験をあまりしてこなかった生徒もいると思います。地域の施設・事業所のイベント等での活動を通して、お客様としての地域の方や、一緒にイベントに参加する大人から感謝されたり褒められたりする経験は、生徒の中でとても大きな成長をもたらします。
具体例として、あるイベントの模擬店で焼きそばを売っていた生徒が、売れ残りに気づき、移動販売を思いつきました。どうしたら売れるかを考え、運ぶためのおぼんを自ら主催者に借りに行き、売り文句を紙に書く工夫もしました。焼きそばを売り切り、一緒に活動していた大人に「すごいね」と褒められる経験をしました。生徒は、自分の気づきから売り切るためにとった行動が「褒められた!」と大変喜んでいたことが印象的でした。
高校生である自分の立場での気づきに、これまでの経験や自らの発想を織り交ぜ、具体的な行動に移します。そして、それを見ていてくれる大人がいて、高校生の行動力を認めてくれる方がいます。これにより、彼らは自分の気づきから行動に移すことを肯定的に捉えていきます。このような経験を積み重ね、また、同様の経験をする仲間の姿を
見て、生徒は、どんどん力をつけていきます。
同好会の生徒は、ボランティア活動でも自分自身がやりたいことを最優先に決めています。「友人と一緒だから」という考え方ではありません。背景には、今までの活動の中で褒められたり、認められたり、多くの経験が生かされているのかも知れません。そして、これが主体性につながるものだと思います。高校生を認めてくれる地域の大人の存在がとても大きいです。
福祉施設での活動の様子
地域の一員としての学校
本校の生徒の半数以上は、地元の練馬区、隣接する板橋区から通学していますが、それ以外の区市から通う生徒もいます。放課後も部活動等で忙しい中、自分の居住地域で過ごす時間は少なく、特定の地域の活動に関わる生徒はあまりいません。しかし、生徒は学校や同好会を通じて、本校の所在地である練馬区春日町地区の一員として、町会の防災訓練にも参加します。また、青少年育成(*2)第4地区委員会が主催するイベントボランティアの依頼にも声がかかり、生徒は自主的に参加しています。
さらに、近隣の障害者福祉施設である田柄福祉園さんなどを訪問すると施設職員さんは大歓迎してくれ、生徒たちは本当に嬉しそうにしています。生徒たちにとって、居住地域とは異なりますが、学校の所在地である地域の中で認められ、地域から求められています。保護者からも、「子どもが認められる中で自信をつけて人が変わったようだ」という声もありました。
*2 次代を担う青少年の健全育成と、青少年をめぐる社会環境の浄化を目的に、区内の17出張所を単位に、青少年育成地区委員会が組織されています。
重要なのは振り返ること
さまざまな体験や地域の人とのかかわりの中での成功体験を通じて、生徒は自分の気づきを大切にし、発信する力を高めています。その過程において大切にしているのは、活動の振り返りの場をきちんと設けることです。同好会では、経験した中で、よかったこと、課題、気をつけたいことをお互いに共有しています。課題や気をつけたいことについては、「気づいたからには責任をもってやっていこう」と声掛けをしています。
同好会の生徒からは、「活動中に携帯電話を使うのはよくないと思う」など、お互いの態度への指摘もだされます。最近では、「私も気をつけなければいけないけど」と前置きをするなど、自分のことも含めて課題として捉え、指摘できるようになってきています。運動部でも、練習や試合の後にミーティングを行い、課題を見つけ整理し、次につなげていきます。やりっぱなしではなく、きちんと振り返ることでさらなる成長が期待できると考えています。
顧問である私自身も生徒から指摘されることもあるので良き学びへとつながります。顧問として一緒に学んでいる一方で、活動中に口出しをしすぎないようにしています。特にボランティア活動中に指摘すべきか気になったことでも、時間が経つにつれ、生徒が自ら気づき行動に移せることが多くあります。長い目で見て、認めて褒めることを大切にしています。今後は、部活動で高めた力を、自分の居住地域で発揮していく方法もあることを伝えたいと考えています。
同好会での振り返りの時間
プロフィール
- 正木 成昭さん
東京都立練馬高等学校教諭、ボランティア同好会顧問。教員歴15年
東京都奉仕・ボランティア教育研究会事務局長
http://www.nerima-h.metro.tokyo.jp/site/zen/