東京都大田区/平成26年3月現在
大田区立うめのき園は、障害者を対象とした福祉避難所として大田区から指定されています。高齢者や障害者、乳幼児等で、一般の避難者との避難生活を送ることが困難な災害時要援護者が一時的に避難生活を送るために開設する社会福祉施設等として、大田区は障害者を対象とした福祉避難所を14か所指定しています。
福祉避難所の運営
大田区防災計画では、学校避難所への避難が基本になっています。その数日後、「この人は集団生活が難しい」と町会長や学校長等からなる「学校避難所運営協議会」から要請が来た時や、区の災害対策本部の福祉部から開設の要請が来た時に、福祉避難所を開きます。それぞれの学校避難所から一番近い福祉避難所で受け入れることが原則です。
区との協定で具体的な受け入れの内容を定める
協定は、東日本大震災の後、区の防災計画を見直していくにあたり、改めて結び直しました。協定の主体は区と法人(社会福祉法人東京都知的障害者育成会)です。平米数から受け入れる人数を決め、それに見合った備蓄品や物品を区で検討し、揃えていくことになりました。40 名定員の就労継続支援B型施設であるうめのき園は、707㎡(床面積)で、障害者75 名に各介護者1 名の150 名までを受け入れることになっています。具体的には、大田区を中心に福祉避難所標準マニュアルが作成され、それに基づき、運営します。
「協定を締結したということは、施設としては、人員を提供することを了承すること」と、うめのき園元施設長の有吉孝之さんは話します。協定の見直しにあたって、うめのき園では、1 次から3 次までの参集計画を改めて見直しました。家族がいるかどうか、園からの近さはどうかという点から参集する職員の優先度をつけました。震度5弱で第1次参集、震度5強で第2次参集、震度6で全員集まるという形です。
物品については、ペーパー歯磨きやおむつ、ガスボンベの発電機、災害時優先電話(電池で動くPHS。区、施設間で連絡を取り合える)などが支給されました。備蓄品は3日分です。施設は1階建ですが、都営住宅を併設しているため、階段避難車という人を上から下すための担架も用意しています。これらの保管場所を確保するために、壁を1 面つぶして棚を作ることを計画しています。
大田区における災害時要援護者支援に関する取組み
災害時要援護者名簿の作成(平成22年4月) |
大田区自立支援協議会防災部会設置(平成22年度) |
たすけてねカード見直し(平成23年度) |
福祉避難所マニュアルの整備(平成24年2月) |
災害時福祉避難所の開設及び運営に関する協定の締結(平成24年3月) |
福祉避難所備蓄物品の整備(平成24年度) |
災害時要援護者名簿をもとに対象を想定
平成22年4月から、区の障害福祉課が、災害時要援護者名簿の作成をすすめています。障害者に関しては、手帳を持っている人たち全てに、登録の希望を確認し、公開についても、「区だけが持っていてほしい」「消防と警察には伝えてもよい」「警察と消防、地元町会に公開してよい」という3段階に分けています。福祉避難所の対象は、「大田区災害時要援護者名簿登録申請書兼情報提供同意書」で「警察と消防、地元町会に公開してよい」と同意した方々を想定しています。有吉さんは、「地域の方々から“元気な人は来ちゃダメか?”と聞かれることがある。今の役割分担では、ご自宅か学校避難所で過ごしてほしいと話している。でも、実際に障害のある方が福祉避難所に来たら、拒むことができないと思う」と話します。一方、「東日本大震災の際は、津波で自宅が損壊したため避難所で過ごしていた。
実際には家が大丈夫なら家にいて、情報や物資を避難所に取りに来るのが基本。自助、共助、公助を整理することが必要」と話します。
また、医療的ケアを福祉避難所でどこまで行えるのかも課題です。有吉さんは、協定では、福祉避難所は“避難者の介護及び生活に必要な援助を行う”とされているが、できることには限界がある。住民に、福祉避難所の機能をきちんと紹介して正しく理解してもらうことで、医療的ケアを必要とする人たち自身に、判断してもらうことが必要」と話します。うめのき園では、折に触れ、町会の防災訓練の際等に、災害用トイレを設置したり、施設内を自由に見学してもらうこと等により、地域の方々に福祉避難所の役割を知ってもらうよう取組んでいます。
また、「福祉避難所に避難する際には、障害のある本人だけを受け入れることは基本的には難しく、介護者が一人つくことが原則。近隣の学校避難所との連携がとても大切になると思う」と有吉さんは、話します。
災害に備えた自助の力が大切
大田区自立支援協議会では、障害のある方の災害対策の一環として、平成22 年度より、障害特性や必要な手助けなどを自分や保護者があらかじめ記入しておく「たすけてねカード」を検討し、作成しました(東京都が同様の意義を持つ「ヘルプカード」の作成促進事業を開始し、都内で統一的に活用できるよう、標準様式を定めたため、「たすけてねカード」のデザイン等を標準様式にあわせて「ヘルプカード(たすけてねカード)」に一新)。「ヘルプカードは、自助を育てるツール。人の手がなければ避難そのものも難しい人もいる。また、自分の障害についていざという時に全部説明するのは難しい。そのような時に、カードをみてもらえば、おおよその特徴や障害特性、手伝ってほしいことが書いてあり、手助けを求めることができるようにしておくことが必要」と話します。また、「福祉避難所のことを具体的に考えていけばいくほど、自助が大切ということに気付く。自分に必要な手助けをあらかじめ周囲の人などに知っておいてもらう、自分の家はつぶさない、災害時にきちんと過ごせるようにしておくなどの備えが大切」と、有吉さんは話します。
ガス燃料発電機
階段避難車
周囲の音が気になる人のためにイヤーマフなども備える
有吉 孝之さん
http://www.ikuseikai-tky.or.jp/co/co_houjin/co_houjin.html