石神井小学校 2年2組担任 小林 春菜さん(左)
練馬区社会福祉協議会 白百合福祉作業所 支援員 髙橋 弘和さん(右)
あらまし
- 練馬区社協が運営する白百合福祉作業所が、練馬区立石神井小学校の授業などを通じた交流を積み重ねて10年。すると、障害のある人と子どもが笑顔であいさつを交わすまちへと変わってきました。
- 作業所で子どもに伝えていること、そして、学校の学習目的、体験の前後に授業で行っていることのそれぞれを作業所と小学校の双方からうかがいました。
ホワイトボードに書いた「10時〜まちたんけん」。それを見て、利用者たちが朝からそわそわ。今日は作業所に小学生たちが来る日です。でも、作業が始まれば、普段どおり自分の仕事をこなします。そして、玄関から「こんにちは〜。よろしくお願いします」と小学2年生5人の元気な声が聞こえると、思わず「かわいいね」。真剣な顔から笑顔がこぼれます。
練馬区社協が運営する白百合福祉作業所は、就労継続支援B型事業所として、主に知的障害のある利用者が通っています。箱折りなどの受注作業、さをり織りなどの自主製品づくりを行っていますが、交差点を挟んだ練馬区立石神井小学校とはもう10年にわたって利用者と子どもたちが交流する連携を続けています。
作業所にはかつて小学生との間で嫌なできごとがあった利用者もいます。でも、今は道で会う小学生から名前で声をかけられることもあります。「まち」は、変わりました。
年度初めに年間の取組みを確認
交流は毎年、4月に作業所から学校長宛に出す依頼文から始まります。白百合福祉作業所の髙橋弘和さんは「学校側で異動などがあっても継続していただけるよう、これまでに積み重ねてきた取組みを文書にして今年もお願いしますと伝えている」と話します。一方、小学校側も生活科のカリキュラムに位置づけています。お互いに「年間の取組みとして確認」できている。それが安定して続けられていることにつながっています。2年生と4年生の授業を中心に図のような流れで交流を行っています。
誰にだって苦手なことはある
髙橋さんが利用者と一緒に4年生の授業に訪れて「白百合福祉作業所って知っている?」と尋ねると、10人ぐらいは「知っている。行ったことがある」と答えてくれます。2年生の頃に授業で「まち探検」、その後、作業所のおまつりへ来てくれた子がいます。行ったことがある子どもの知っている言葉での説明には説得力があります。「大人は考えすぎて、『障害のある方を理解してもらわなきゃ』と余計に言葉を選びすぎてしまう」と、髙橋さんは指摘します。「障害」を知ってもらおうと、大人は知識を与えようとしたり、「できないこと」を伝えようとしがちです。
石神井小学校2年2組を受け持つ小林春菜さんは、今年度、「まち探検」の授業を初めて担当しました。小学生にとっての「まち」。それは、なじみのある生活圏域です。「そういえば、『地域』という言葉は学校ではあまり使わない」と、小林さんは話します。
「まち探検」の授業では、まず2年生の一学期に学校を出て「まち」を歩き、いろんなお店や場所があるのを見て回ります。そして、二学期になると、それぞれの児童が行ってみたい先を選びます。人気があるのはお客さんで行ったことのあるケーキ屋さんやパン屋さん。でも、「白百合福祉作業所」を第一希望に挙げた子もいました。それは「障害者のことを知りたい」というより「さをり織りがきれいそうだから」。
29年度のまち探検は5人の2年生が作業所に来てくれました。その中には夏休みに親子で「さをり織り・ハガキ作成体験教室」に参加した子もいました。この体験教室は、一学期に学校でチラシを配ってもらい、夏休みに作業所で行ったものです。「教員自身も『作業所』をうまく説明できないのに、夏休みに行った子はどんなところかをみんなに説明してくれた。それは子ども同士のありのままの言葉だった」と小林さんは話します。「できない人がいるところじゃなく、だれにも苦手なことはあるけど、いろんなものをつくっている楽しいところ」。でも、ただ物をつくっているだけじゃなさそう…。そんな伝わり方がする説明です。
利用者とのふれあいがいっぱい
学習の目的は「まちを好きになる」
福祉施設が小学生を受入れる機会は少なくありませんが、学校側の教育目的や前後にどんな授業を行っているかを意外に知らずに受け入れています。「『まちを知る。自分の住む場所を好きになる』というのがこの授業の目的」と小林さんは話します。例えば、それは「お客さん」として訪れる店の裏側の姿を体験しようとするものだったりです。2年生は、事前に一人ひとりが行き先で質問したいことを出し合い、10個の質問をつくります。「どんなことをしているのですか?」「どんな人があつまるんですか?」「どうして、しらゆりって名前なんですか?」「一ばんたのしいのはいつですか?」など。訪問当日、質問をもらった高橋さんはできるだけ利用者に自身の言葉で答えてもらい、もっと知りたい気持ちを高めます。さらに、利用者と作業のスピードを競い合うなど、「楽しい」を実感してもらいます。一方、4年生になると、質問に「どうして?」が増えてきます。「この作業はできるのに、どうしてむずかしいことになるとできないの?」といった質問です。体験して帰ってきた後、2年生はその体験を絵日記のような形にして感想を書きます。小林さんは「文章だけでなく、絵にすると感じたことが表現されやすい」と説明します。
すると、2年生らしい感想が出てきています。「楽しかったことは、しょうがいしゃの人とおはなしすることです。さいしょはきんちょうしたけれど、だんだんなれてたのしくなってきました」。障害のある人と会話できたことをうれしいと感じています。「元気でやさしくわたしたちをむかえてくれました」、「白ゆりさぎょうしょの人はみちで出あった人にあいさつしてもらうことがうれしいそうです」。そして、それぞれに体験してきたことを学校公開日にグループで発表します。その準備に10時限をかけクイズもつくり、小学生なりに工夫した説明を繰り広げました。
クイズをつくり工夫した発表内容
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福祉施設を訪れる子どもたちは事前にいろんなことを調べ、そして、事後にもお互いに経験したことを伝え合う学習をしています。職員が説明するだけでなく、利用者との関わりの中で表現されるものの体験を通じて子どもなりの目線で発見する一つひとつを大切にすれば、それはまた、子どもたち自身の言葉で友だちへ伝わっていく。その繰り返しが障害のある人と子どもが笑顔ですれちがう「まち」をつくってきました。
http://www.neri-shakyo.com/
白百合福祉作業所
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練馬区立石神井小学校
http://www.shakujii-e.nerima-tky.ed.jp/