アナログゲーム療育アドバイザー 松本 太一さん
あらまし
- 市販のボードゲームやカードゲームを使って、発達障害のある子どもや大人のコミュニケーション能力を伸ばすアナログゲーム療育アドバイザーとして、全国で普及活動を行っている松本太一さんにお話を伺いました。
就労支援から療育の現場へ
平成12年頃、発達障害が社会的に知られるようになってきました。二十歳になり自分の将来を考えた私は、そういった人たちの役に立ちたいと思い、大学院では障害児教育の分野へすすみました。
卒業後は発達に障害がある方の就労支援を行う会社に就職し、企業へ人材紹介をしていました。企業では、あらかじめ決められたことを言えばよいのではなく、そのときの状況や相手の意図に応じて返答できるコミュニケーションが求められます。それができる人は就職できるのですが、それだけでは就労の継続が難しいこともわかってきました。
こうした課題への対応は就労訓練だけではなく、子どもの頃からの療育や教育が必要ではないかと感じて、放課後等デイサービス(以下、放課後デイ)に転職しました。
アナログゲームの可能性
療育の現場で子どもたちが安全に楽しくコミュニケーション能力を身につけるにはどうすればよいかを考えているうちに、遊びの中で本人の特性や強みなどが見えてくるアナログゲーム(ボードゲームやカードゲームなど)に注目するようになりました。
ゲームには多様な意味があり、レクリエーションにも教育にも、お子さんの強みや課題を探ることにも使えます。療育に限らず、主体性やコミュニケーション能力が身につくツールになりうると、やればやるほど可能性を感じました。
現場での実践を積み上げ、26年にフリーランスのアナログゲーム療育アドバイザーとして独立。現在は講演や研修のほか、放課後デイや就労支援施設、高校などで実践をしています。
アナログゲーム療育とは
アナログゲーム療育には、臨機応変に対応できるコミュニケーション能力を育てることと、人と関わる勇気を醸成することの2つの目的があります。ゲームやスポーツなどの集団活動で叱責された経験がある人は、集団への関わりに不安があります。その不安を取り除いて、集団の中で楽しく遊ぶことができるという自信をつけると、本人に笑顔や会話が出てきます。
アナログゲーム療育では、本人の発達段階やコミュニケーション上の課題に応じて、三百種類以上のゲームから適切なものを選んでプレイします。ゲームはコミュニケーションの疑似体験です。他者の視点に立ったり見通しをもってすすめたりといったことは、多くのゲームに共通しています。このゲームを使えばこういった能力が身につくというよりは、ゲームを通して見えてきた本人の強みと課題を本人と指導者が一緒に理解していくことを大切にしています。
放課後デイでは、私が子どもの様子を職員にフィードバックして本人への関わり方を考えたり、環境改善を図る取組みにつなげます。大人であれば客観的な振り返りができるので、第三者から見えた強みや課題を本人と就労支援担当者等に伝え、その後の取組みに活かしてもらいます。
課題に対応し、取組みを広げるために
アナログゲーム療育の主な現場は放課後デイですが、30年度の報酬改定で運営が大変厳しい状況です。発達に障害のある子どもが、それぞれにあった適切な関わりのもとで成長できる場を確保することが必要です。
また、発達障害の方の就労もすすんできてはいますが、多くは非正規雇用で賃金が低く、生活が不安定にならざるを得ません。厳しい状況の中、他人と交渉する力や生き抜く力を獲得するために、子どもの頃から教育や福祉の分野がどういったサポートをすればよいのかを考えています。
今後は、これまでの活動を続けながら、アナログゲーム療育を実践できる人材の育成や、学術的な効果検証に取組みたいと考えています。複雑多様化する社会に対応できる療育を確立したいです。
コミュニケーションの療育には、本人の興味や自発的意志、すなわち主体性が最も大切です。アナログゲーム療育は、主体性をもち楽しく取組むことができるツールであると確信しています。
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