岡田恵子さん
あらまし
- 重症心身障害児者施設で、看護師として働く岡田恵子さんにおしごとの魅力を伺いました。
視野を大きく広げたボランティア
高校生のとき運動部に所属していましたが怪我がきっかけで退部しました。放課後の過ごし方に迷っていたとき家族のすすめもあり、地元の社協に行き、知的障害児と暮らす家族のレスパイトケアのボランティアを紹介してもらいました。大学生やほかの学校の高校生と一緒に知的障害のある子どもと遊んだり、親御さんが集会のときには託児をしたり、普段の学校生活では得られない経験でした。もともと手に職をつけたいと考えていたので、ボランティアの経験から福祉施設で働く看護師をめざしました。いまふり返ると、あのとき社協に足を運んでいて良かったと思っています。
専門学校卒業後は急性期病棟で5年間勤務しました。急性期病棟の患者は10日ほどで転院や施設入所になることが多く展開が速いです。次第にボランティアのときのように療育に携わりたい、自分の看護を確かめたいと思うようになりました。肢体不自由児施設で数年勤務したのち、秋津療育園に入職しました。
利用者を中心に考える
「『自分のやりたい看護ができなかった』と言って退職する人がいるけれど、そもそも〝自分のやりたい看護〟というものはない。目の前にいる利用者に必要だと思うケアを行う、それが看護である」。これは、前職の上司からの印象的な言葉です。たしかに、ケアをする側が主体になると、どこか支援に行き詰まるように感じます。とはいえ、いつの間にか仕事や業務に追われ、支援者本位になってしまうことがあるので、常に利用者本位を心がけています。
重症心身障害児者施設は看護師だけではなく、医師やリハビリ職、保育士、介護福祉士、社会福祉士、教員免許取得者、栄養士などさまざまな専門職がいます。何かあった際にはすぐに相談し、多角的に解決の糸口を見つけることができます。多職種連携は上下関係ではなく、横並びの関係です。それぞれが自分の仕事に誇りを持って、利用者がより良い支援を受けながら安全で快適に過ごすことを主軸に、歩み寄って支援の方法を考えます。私はボランティアをしていたときに、何かを成し遂げるために企画し実行した後ふり返るというPDCAサイクルを経験していたので、今でも「利用者にとってこんなものがあったら良いのでは?」というアイデアが浮かべば、自分でプロセスを考え周囲にすすめて理解を求めるようにしています。
職員が24時間利用者の様子を見ているからこそわかることがあります。利用者の中には、言葉による意思疎通が図れない方もいます。他の職員から「訓練のときは表情が変わる」と聞くと、利用者の意外な一面を知ることができ、コミュニケーションは言葉だけではないと感じます。ほかにも、出勤してから各部屋を回って「おはようございます」とあいさつすると、利用者の視線を感じたり私の顔を見てくれます。目には見えないパワーをもらっているような気がして、「今日も一日がんばろう!」と思える私の原動力です。
人生に寄り添える福祉の奥深さ
利用者の中には高齢の方もいます。以前急性期病棟で勤務して、看護に関する知識や経験を積んだ貴重な経験のおかげで高齢にともなう身体的な変化や疾患を予測でき、アセスメントしやすいです。
よく、療育にマニュアルはないと言われます。食事の場面だけでも、利用者一人ひとりに合わせた食事のペースや、車いすの角度があり、お手伝いする方法はさまざまです。入職して1年目は特に覚えることがたくさんあるので、業務をこなすことに必死になってしまうのはみんな一緒だと思います。それでも利用者と春夏秋冬を一緒に過ごすことで、今まで見えてこなかった利用者の笑顔や表情など、非言語で届くサインをキャッチできるようになってきます。
病院とは違う福祉施設で働く魅力。それは自分が働いた分だけ利用者に関われるということです。「昨年の桜は遅咲きでしたが今年はどうでしょう」など、年単位で一緒に時間を過ごすことにより、全人的に利用者それぞれの人柄や考え方を知り、その人の人生に寄り添えます。これは福祉施設で働く特権であり、楽しさや奥深さだと思っています。
プロフィール
- 岡田恵子 Keiko Okada
- 社会福祉法人天童会 秋津療育園 看護師
- 急性期病棟、肢体不自由児施設で数年間勤務した後、8年前から現職
http://www.tendoukai.net/